【結果通知(Result notification)】
こんな物でも見れば少しは元気が出るかも知れない。
まあ、当たり前の結果だから、そうそう元気になれる要素も無いのだが……。
封筒を破って、中の紙を取り出す。
思ったよりも紙が少ない。
入学までに用意する物等を書かれた説明会の案内は、また後日送られてくるのかと思いながら取り出した紙を開き、その見出し部分に書かれている文字を見て驚いた。
何と、そこには“Fail(不合格)”の文字。
違う受験者と間違えていると思って下の部分を見ると、私の名前と私の受験番号がチャンと記載されていた。
試験は問題なく全て100点満点だし、面接も上手くいった。
これは屹度何かの手違いに決まっている。
私は慌てて電話が使える場所を探した。
病院にあった公衆電話からラマーディーの修道院へ電話を掛けた。
「あっ、もしもし。先日試験を受けたサラ・ブラッドショウですが、今日間違って不採用の通知が来たのでお伝えしますが、これからの日程についてお伺いしたいのですが」
≪あっ、はい。直ぐに受験担当者に代わります≫
しばらくして受験担当者らしい、年配の女性が対応にあたった。
≪サラ・ブラッドショウさんですね≫
「はい」
≪では、今後の予定についてですが、貴女には党学園に於いて今後の予定は有りません≫
「ない?」
≪つまり、その通知に間違いはないと言う事です≫
「しかしおかしいでしょう。全教科100点満点だったはずです。違いますか?」
≪さあ、点数について私は採点を担当したわけでは在りませんので存じません≫
「なら、採点を担当した人に確認してくれ!そうすれば不採用が間違いだったことが分かるはずだ」
≪その必要はありません≫
「必要ない?」
≪仮に、サラ・ブラッドショウさんが言う通り全教科満点の成績だったとしても、結果は変わらないと言う事です≫
「何故!?私は遥々100キロも試験を受けるためだけに、そこまで行ったんだぞ!」
≪それはご苦労様です。ですが今回の受験にあたって、私共は貴女の学校に内申書の提出をお願いしました≫
「内申書?」
≪それによりますと学業成績は貴方の言う通り問題ありませんが、出席日数や授業態度にかなり難があるようで、とても貴女が面接の時に言った内容が本当の事だとは思えませんでしたので失礼ですが学校に電話を掛けて聞いてみました、そうしたら≫
ガチャッ!
話の途中だったが電話を切った。
知らなかった。
従わない者に対して、学校が“そう言う手段”で報復出来ると言う事を。
なるほど、私の負けだ。
世間知らずだった。
大人の権力とネットワークを舐め過ぎていた。
そう言う報復手段を持っているとは思いもよらなかったし、小学6年生の現時点でも明らかに教師よりも賢く将来性もある優秀な生徒の可能性を、出席日数や授業態度と言った成績とは関係のないところで足をすくうとは一体何のための学校だ?
そしてそれを知って断る方にも疑問を感じずにはいられない。
結局キャンプファイヤーの点火を担当した、少し成績が良いだけで育ちが好い以外何の取柄も無いあの女のような者だけが好まれる社会を作りたいのか?
平凡。
波風を立てない。
上に立つ者にとって都合のいい。
変化のない社会。
その行く先にいったい何がある?
あるのは文明の停滞。
文明が停滞すれば、仕事も減り収入も減る。
あれだけ国費をつぎ込み実戦経験も豊富で、実力世界第3位とまで言われたイラク陸軍がアメリカ軍との戦闘であっと言う間に負けてしまったのは何故だ?
結局いくら戦車の数が多くても優先攻撃目標を素早く処理できるC4Iシステム(シー・クォドルプル・アイ・システム、C Quadruple I system=指揮官の意思決定を支援して、作戦を計画・指揮・統制するための情報資料)や、高度な電子機器で構成された射撃管制装置(FCS)、更にMCD(Missile Countermeasure Device=対ミサイル用のソフトキル型アクティブ防護システムなど高度な戦闘システムの導入と、それらを扱える人員の教育不足がもたらした結果である事を認識していないのか?
何も軍事に限った事ではなく、高度な機械の開発や、高度な機器を扱える優秀な人材が育たなければその国の文化は停滞する。
それを実証した良い例として日本がある。
1800年台後半から1900年台初期にかけて、日本の工業は飛躍的に向上した。
高性能な外国製の各種生産機器を導入して、特に紡績産業を中心として完成品を世界中に輸出するまでに育ち国は潤った。
ところが日本は貿易で得た収入で基礎技術向上に為につぎ込むどころか、軍事力増強にあてて日清・日露・WW1・WW2と短期間に次々に大きな戦争をしてしまう。
特に先進国からの経済封鎖を受けた後に行ったWW2は悲惨だった。
当時アメリカや欧州各国でも製造、運用それに戦術的に難しいとされてきた航空母艦と言う新兵器を見事に使いこなす事で大戦果を挙げ、対戦初期にはアメリカを上回る数の航空母艦を保有した。
だが、日本の躍進はここで頭打ちになる。
何故ならそれらを作るための工作機械や技術は全て先進国から輸入していたため、経済封鎖が続いたWW2当時には全て旧式になり技術力は勿論の事、生産能力に於いても戦時中の需要に応える事が出来ず既に頭打ちとなっていたのだ。
WW2におけるアメリカの軍事生産力が月を追うごとに上がっていくのに反して、日本は産業そのものの生産力が急激に落ちることになった。
当然日本にも優秀な技術者は居たのだろうがその殆どは戦場に駆り出され、残った技術者による革新的な技術も旧式な工作機械では生産する精度や耐久性もなく実質図面上のモノにとどまる結果となってしまった。