【幼稚園の天才少女(Kindergarten genius child)】
新年あけましておめでとうございますm(_ _"m)
今回の物語は毎日投稿ではなく、1日おきの投降になります。
投稿時間は暫くは、その都度投稿で、落ち着いて来たら予約投稿にしたいと思います。
できたらブクマ&評価&お便り・コメント大募集ですので宜しくお願いいたしますm(_ _"m)
「今年のクリスマス会のマリア様役は、サラちゃんに決まりね」
「子供からも、父兄からも絶大な人気!」
「そりゃそうでしょ。あの長くて綺麗な金髪に大きくて澄んだ青い瞳、将来凄い美人になる事が確約されているような大人びた顔立ち」
「初めて見たときから、あまりの美しさに溜息が出たわ」
「しかも、滅茶苦茶賢いし」
「そうそう。あの子、まだ4歳なのに関数を理解しているのよ」
「天才!?」
「そりゃあそうでしょ、御両親が政府関係の仕事をしていらっしゃるんですもの」
「美人で天才、それに御両親も裕福だなんて、も~この世の幸せを独り占めね!」
「あ~羨ましい」
「こんな政情不安なイラクに居なければ、絶対芸能事務所からスカウトが来るのは間違いないのにね」
幼稚園の先生たちが私の噂話をしている所に園長先生がやって来て、遊んでいないで子供の面倒をチャンと見るように言いながら遊戯室を指さした。
遊戯室には3歳から6歳までの子供たちが居て、サボっている先生たちの代わりに噂話の主役である私は小さな子供たちを集めて絵本を読んで上げていた。
「さあさあ、みんなでテレビを見ましょうね」
丁度、お昼前の幼児番組が始まる時間なので、先生がテレビのスイッチを入れた。
「えーっ!」
絵本を読んでもらっていた子供たちは、あからさまに不満気な声を上げたが、私が読むのを止めテレビからも始まりの音楽が鳴り出したので皆テレビの方を向いた。
もちろん私も。
「さあ、音楽にあわせて手を叩きましょう!」
先生の手拍子に合わせ、皆が手を叩き出した途端、テレビの映像が途切れた。
何があったのか訳の分からない子供たちが騒めき出す。
先生たちはテレビが壊れたのかと思って、スイッチを押したりチャンネルを回したりしている。
“馬鹿、止めろ。臨時ニュースと言うことを理解しろ!”
先生の、間抜けな行動に苛立つ。
やがて映像が戻ると、今度はどのチャンネルを回しても同じ映像が映し出された。
アナウンサーが緊迫した表情で国際的な会議を狙った爆破テロを伝え、画面が切り替わると、そこに映ったのは瓦礫の山と化したホテルの残骸が映し出されていた。
大人たちは食い入るようにテレビを見ていたが、このニュースは子供たちには全く興味がなかったので、私は無秩序状態を避けるためにクリスマス会で発表するお遊戯の練習を進めながらニュースを聞いていた。
ニュースには興味はあったが、それよりも子供たちが騒ぎ出すのを何としても止めたかった。
私が子供たちに本を読み聞かせたり皆でダンスをしたり、いつもサボっている先生たちに代わって熱心に子供たちの面倒を見るのには訳がある。
それを先生たちは確りした子だと思っているようだけど、そうではない。
実を言うと、私は煩い環境が嫌いなだけ。
特に無秩序に喚いたり大声で笑ったりといった、パニックにも近い幼稚園独特の雰囲気が大嫌いなのだ。
そのために、率先して子供たちの面倒を見て、奴等が勝手に騒ぎ出すのを阻止していたと言う事。
けれども、ひとつだけ阻止できない時間帯がある。
それは食事の時間。
この時間だけは私でも、動物の本性を剝き出しにした奴等を止めることは出来ない。
食べ物が口の中にまだある状態にも拘わらず、大声を張り上げたり不味いと言って喚いたり零したと言って泣き出したり、あるいは人の御馳走を盗み食いしようとする族も出てくる始末。
これに対して私は有効な対処方法を考えようとはしなかった。
何故なら食事のマナーを覚え、身につけるには彼等の知能が低過ぎるから。
しかし今日は、その食事の時間は穏やかだった。
それは、ニュースを見た父兄が次々に奴等を迎えに来たから。
どうやら、余程近くで起きた重大な事件だったようだ。
午後になって子供たちの人数も減り、残った子供たちもサラの計画通り、体力を消耗し過ぎて次々にお昼寝を始めた。
幼稚園で一番のお気に入りの時間。
子供たちが寝静まると、ろくに仕事もしていないくせに先生たちもお昼休憩に入る。
この静かな時間を利用して、私は色々な事をして遊ぶ。
たとえば天井のボードに開けられた穴が、この部屋全体で何個あるのか計算してみたり一直線上に並ぶ穴の数は最大で何個あるのか計算してそれを実際に数えて確認してみたり、自分専用の物語を考えたり。
殆どの事は寝ている状態で出来ること。
だけど、今日は違う。
遊戯室に行き、ニュースの続きが見たかった。
先生が全員居室に戻ったのを確認し、お昼寝室からコッソリと抜け出す。
ドアにはセンサーが仕掛けてあり、空いたり閉まったりを感知して居室に知らせるシステム。
当然、普通に開けたのでは扉を開けた事は居室に分かってしまい、先生が飛んで来る。
だがこのセンサーは安い電池式のもの。
先生が電池交換をしているのを見て、どの部分に電池が入っているか交換の仕方を見て覚えているし、電池がない場合は通信できない事も知っていたので椅子の上に乗って電池を取り出した。
電池を取り出すためにはプラスのドライバーが要るが、それはいつも持ち歩いているキーホルダータイプの超小型の物があるので何とかなる。
センサーのカバーをドライバーで開き、中から電池を取り出してお昼寝室を抜け出して遊戯室に向かう。
遊戯室にも当然同じものが付いているが、センサーは部屋の内側に取りつけてあるためドライバーを持っていても電池を取り出すためにはドアを開ける必要があり、ドアを開けた時点で休憩中の先生たちに分かってしまう。
だから昼食を食べるために遊戯室を出るときに、予めセンサー部分にアルミテープを貼り付けておいた。
アルミテープは食器洗いのお手伝いをした時に、キッチンの引き出しからアルミホイールを少し頂戴して、それにセロファンテープを付けたもの。
一応、開ける前にアルミテープが剥がされていないか確認してから開けた。
先生の机の二番目の引き出しの中からリモコンを取り出し、スイッチを入れて英語のチャンネルに合わせロッカーの中に隠れてテレビを見た。
国際会議の行われていたホテルが、滅茶苦茶に壊されていて跡形もなく、付近のビルも大きな被害を受けている。
道路には大量の爆発発物を隠してあったトラックの残骸が、骨組みだけを残していた。
死者行方不明者は200人以上。
何故かその中に両親も居るのではないかと不安になる。
ママが居れば、当然まだ0歳の妹も居るはず。
英語で身元の判明している犠牲者の名前がテロップで流れていて、その中に家族の名前がないか心配しながら見ていた。