義妹のハンスト
「エマ、部屋を開けなさい!」
「嫌よ!!!」
「朝から何も食べていないだろう? 体を壊してしまう」
「絶対に嫌!!! あの教師を追い出さない限りここから一歩も出ないわ!!!」
「先生ほどの方の教育を受けることなど中々出来ないのだぞ?」
「なによ!!! あのお婆さんは文句ばっかり言うのよ? おかしいわよ!!!
あの人が教師のままだっているなら絶対に部屋から出ないんだから!!!」
父と娘の攻防は、ドア一つの間で行われていた。
朝からエマが私室に立てこもっているのである。しかも、部屋の鍵をしっかりとかけた上に、食材を持ち込んでの本格仕様だった。
お陰で、調理場は滅茶苦茶にされて使用人たちが必死に片づけている。
エマの要求は唯一つ。
家庭教師の解雇であった。
普通なら特に問題のない話だ。
雇い主の子供が嫌なら直ぐにクビを言い渡すことは何もおかしなことではない。
教師の教えが悪い場合もあれば、教師と生徒の相性というものもあるのだから。
しかし、エマがクビにしようとしているのは一流の教師だ。
ただの教師ではない。
高位貴族のみならず、王家とも深いパイプを持つ人物である。
そんな人物をクビにしたなら逆に嘲笑われるのはエマとペルー侯爵家である。
だからこそ、娘にあまいエドワードもこればかりは首を縦に振らなかったのだ。
勉強が嫌で、そこまで出来る根性があるなら、何でもできるでしょうに。何故、その無駄にある行動力を他で発揮させないのでしょうか。
幾らか食材を持ち込んではいるようですが、一日か二日で尽きてしまうのは明白です。
このような騒動を起こして、あの親族が来ないはずありません。
当然の如く、屋敷に乗り込んできました。
お義父様や先生の文句を散々言い放ち、エマを必死に擁護する姿が実に印象的でした。
その後も、ひと悶着あったのでしょう。
いつかの帰り際には、
「「「「「「エマには、私たちが選んだ素晴らしい家庭教師を用意します!!!」」」」」」
と捨て台詞を放っていかれたのですから。