家庭教師
ペルー侯爵家にやって来た家庭教師は、それは優秀であった。
子爵家の出であった老婦人は、若かりし頃は、王宮の上級女官を勤め上げたほどの人物であり、職を辞した後は、数多の高位貴族の令嬢を教育してきた、その道では一流の教師だった。
かの教師に教えを請いたい令嬢は数多いるとまで言われる存在である。
そんな人物に教えられるエマは実に幸運であった。
エマと歳が近いという理由でメアリーも共に学ぶことになった事は実に自然なことでもあった。
エドワードも実の娘のお転婆ぶりは心得ていたようで、メアリーと一緒に習った方がエマのやる気も出るだろうという思惑も若干あったのである。
そうしてエマとメアリーの淑女教育は始まったのだった。
先生はとても分かりやすく教えてくださるので、理解力の乏しい私でも実に楽しく学ぶことが出来ております。これにはお義父様に感謝してもし足りない程ですわ。
ただ、エマにとってはそうでもないようで、授業中に居眠りを度々してしまうのです。義姉として、先生に申し訳ありません。
元々、大人しく座っていること自体が苦手な子なので、先生の話を子守歌代わりにしてスヤスヤと夢の中に入ってしまうのです。先生もそのことを理解なさっておいでで、お義父様に丁寧な報告を毎日しているご様子です。
娘を溺愛するお義父様も、これは不味いと、漸く気が付いたようで、エマに関しては厳しく指導して欲しいと先生に頼み込んでいました。雇用主にここまで言わせるエマが凄いのか、先生の報告が凄いのかは分かりませんが、これでエマが普通の令嬢となってくれるならそれに越したことはありません。
そう思っていたのですが、エマが授業をボイコットし、部屋に立てこもる騒動が起こったのです。