侯爵家の親族
母親であるカトリーヌと共にメアリー姉妹がペルー侯爵家に入り、落ち着いた頃、侯爵家の親族が挨拶に訪れた。
ペルー侯爵家の親族たちの反応は少々微妙であった。再婚に関しては概ね好意的であったのだが、ペルー侯爵家の娘であるエマの事をしきりにお願いしまくる始末だった。
ある老婦人は「どうかエマを我が子同様に愛して頂戴」とカトリーヌの両手を握りしめてお願いし、長老にあたる人物には「エマは美しい娘だ。決して実の子供と比較して嫉妬など醜い事をしてくれるな」と諭すように言われた。
カトリーヌと同年代にあたる婦人たちや、分家筋の者達からも似たり寄ったりの内容であった。
侯爵家の親族一同は、総領姫であるエマに対して大変な過保護であった。
そのため、エマに新しい母親が出来る事には賛成であったが、その反面、継子虐めを危惧してもいた。
もっとも、カトリーヌはそのような女性ではなく、継子のエマも我が子同様に愛し育て上げるつもりであったので全くの杞憂に過ぎなかった。
その時の内容を、サンドラお姉様が数年後私に詳しく話してくださいました。
ただ、総領姫でありながら、エマは正式な跡取り娘という訳では無かったそうです。
王国では女子の爵位相続は出来ません。そのため、跡取りになる娘に関しては婿を取るのが基本です。
爵位は婿が継ぎますが、家裁はその家の娘が実権を握る。それが法律で決められてもおりました。
婿入りした男性側の乗っ取りを防止するための策でもあるのです。
ペルー侯爵家の分家には男子が何人かおりますので、そこから養子を貰って侯爵家を継がせるのかとも思ったのですが、それも違うようです。
でも跡取りはどうするのかと思ったのですが、なんと、私たち母娘が思ってもいなかった跡取り問題が既に侯爵家では決定されていたのです。
その内容というのが、
一に、エドワード(ペルー侯爵の名前)氏に男子が誕生したらその子供を跡継ぎとする。
二に、エドワード氏に男子が恵まれなかった場合はエマを跡継ぎとする。
三に、エマが他家に嫁ぎたいと希望した場合にのみ分家からの養子をとり跡継ぎとする。
四に、エマが跡を継ぎ、婿入りの者が当主の資格なしと判断された場合は、実務者を一族から選ぶこととする。
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…他にも細々した決まりがありましたが、なんとも呆れ果てた内容でした。
これでは、跡取りがどう転ぶのかが全く分かりません。
ですが、親族の者達が本家である侯爵家を執拗なまでに注視する理由も垣間見えたのです。
そして、必要以上にエマを可愛がる理由も……