父親としての説得
ペルー侯爵家に帰還し、親族たちが悦に浸ったまま帰還した後、家族会議が開かれました。
まぁ、お義父様が婚姻を辞めるようにエマを説得しているだけなのですが。
「お父様、一体何が問題なの? 私のために新しい宮殿まで造ってくれるのよ? それだけ私は愛されている証拠でしょうよ!」
やはり、エマは王太子殿下の言葉の意味を理解しておりませんでした。
「エマ! 公務をしない妃など妃とは言えない!!! お前は“お飾りの妃”になれと言われたんだぞ!!!」
「? それの何が悪いの? アレク様も言ってたでしょう、私はアレク様を愛し癒すことが仕事だって。
勉強なんて嫌いよ~。公務をするってことは、これからも勉強しないといけないんでしょう? そんなの嫌よ!
代わりをしてくれる人を見つけるって言ってくれているんだから、それでいいじゃない!」
お義父様はエマの言葉に呆れながらも、それでもあきらめきれずに、言葉を尽くして説得していた。娘が囲い者同然になるのですから必死にもなりますね。
もっとも、ハッキリと愛人同然の扱いだとは言えないようですが、エマに期待しているのは母体としてだけだと、子供が出来ても王家に奪われて手元で育てることもできない、ちゃんとエマ自身を大切にしてくれる男性と結婚して欲しいと言っていますが、王家との婚姻に侯爵家から断れるはずありません。
お義父様は破滅願望でもあるのでしょうか?
恐らくエマから不出来な自分では妃は務まらないと言って断らせたいのでしょう。
王太子殿下は兎も角、両陛下は喜んで結婚を取りやめてくれるはずです。
要は、侯爵家からの断りでなければいいのです。
先ほどから、必死に説得されておりますが、エマの心には全く響いていない事が私の目から見ても一目瞭然です。
「でも、結婚したら子供を望まれるのはどこでもそうでしょう?
別に王家だけじゃないわ。それに私小さい子供って嫌いよ。なんだかフニフニしているし、煩いじゃない。
それに奪われるって言っても乳母が育てるんでしょう? 教育だって家庭教師が教えるんだから、私が何をしろって言うの?」
「……社交界でエマは人気だったじゃないか。その中に気に入る男性はいなかったのかい?」
「伯母様たちが社交界で素敵な男性を見つけてきなさいって言っていたし、実際素敵な人はいたわ。
でもその人たちにはもう婚約者がいたし、私が話しかけても無視したり、酷い言葉を言ってきたりするのよ」
「仲の良い男性もいたと思うが…プレゼントをよく貰っていただろう? エスコート役が一番多かった子はどうだい? エマとは似合いの美男だったよ?」
「お父様! それはそれ、これはこれよ! エスコートの彼は見栄えがするから傍に置いていただけで、結婚しようとか考えた事もないわ。
彼も同じじゃないかしら? 彼、子爵家の三男なのよ、婿養子先を狙っていたんでしょうね。侯爵家の実の娘が私だけだからって、子爵家程度が侯爵家の入り婿になろうなんて図々しいわよね」
「……」
「そりゃあ、結婚相手が美形であった方が嬉しいけど、アレク様には比べ物にならないもの!
だって、本物の王子様よ? アレク様と結婚したら私は本物のお姫様になるってことなのよ! 素敵じゃない!!!」
「……」
お義父様はエマの言葉に絶句して、言葉がないようです。
仕方ありませんね。
エマは“王子様”だからこそ愛しているのでしょう。王太子殿下と良い夫婦になるのではないでしょうか?




