妃教育
エマは妃教育のため、王宮に通いで学ぶことになりました。
しかし侯爵令嬢としてのマナーも出来ないエマが、妃教育を上手くこなせるはずもなく、教育係たちにヒステリックに叫ぶようになるのに時間はかからなかったようです。
高位貴族としての教養も振る舞いも身につけていないエマに対して、教育係たちは呆れ果て、両陛下に報告をするのも仕方のないこと。
曰く、エマ嬢の礼儀作法は下位貴族並であると。下手をすれば、それ以上に酷い。
何故ここまで不出来なのか?
ペルー侯爵家は裕福であるはず!
義理の姉妹のうち、サンドラ嬢は「淑女の鑑」と謳われた令嬢であったのに、なぜ!?
その疑問に王家はエマの身辺調査を徹底的におこない、その理由を知ってしまったのです。
親族たちによって可愛がられただけの令嬢。
まともな教育を一切受けていない落第者。
しかも手癖が悪く、妙な悪癖まである。
そのため同年代の令嬢達から敵視されているということを。
これには両陛下も驚愕と怒りで一杯だったと思われます。
王宮から要請されたお義父様は、これまでのエマの勉学傾向と態度、貴族令嬢として有り得ない振る舞いと教養の無さ、その悪評や過去の所業などを事細かに伝えられたそうです。お帰りになられ時は、げっそりとされ顔色も真っ青でした。
今まで少々勉学が苦手なくらいと考えていたお義父様ですので、王宮から伝え聞いた内容に仰天なさったことでしょう。
なにしろ、今まで報告されていた教育課程は“優秀である”だったのですから。ですが、その優秀な評価をしていたのは男爵家出身の家庭教師なのです。彼女にしたら優秀でも高位貴族の令嬢としては落第点どころかマイナスに振り切っております。
お義父様は、こっそりとエマの妃教育を覗かせてもらったらしいのですが、それが有り得ない程の酷さだったそうで、三日ほど寝込んでしまわれました。妃教育に関して、エマが学ぶ姿勢をみせないどころか、なぜ学ばないといけないのかを理解していない事にも、お義父様はショックを受けたそうです。
教育係は解りやすく説明するのですが、そのたびにエマは「なんでこんなことを覚えなくてはいけないの?」、「歴史を覚えてなんになるの? 私は今を生きているのよ?」、「他国の言葉を学ぶなんておかしいわ? 通訳を傍に置けばいいじゃない」、「なぜ頭を下げなければいけないの? 私は次期王妃よ? この国で一番の女性が誰に頭を下げると言うの?」などと言っているのです。
しかも、礼儀作法も下位貴族止まりで、そこから先に進まないというのです。
まぁ、作法云々を教えたのが男爵令嬢でしたからね。そればかりは人選ミスとしかいえません。
お母様たちの教え方が厳し過ぎると言って、男爵令嬢にマナーの教えを受けたのですから。お義父様も「エマは優しく教え導いた方がいいだろう」などと暢気なことを言っておりましたから致し方ありません。
侯爵令嬢だというのに高位貴族の優雅な振る舞いができない娘の誕生です。
高位貴族と下位貴族とでは礼儀作法も振る舞いも違ってきます。
それ故に、伯爵家以上の令嬢が夜会に招待されたのです。
にも拘らず、下位貴族並みの礼儀作法しかできない娘がいるなど、王家も寝耳に水だったことでしょう。
詐欺だと訴えられてもおかしくありません。
その後、エマの改善がみられないようなら結婚は白紙撤回にすることが、王族会議で取り上げられる事態にまで発展した。
一年は様子見で、二年目以降に改善がみられないようならば、王家側からの婚約解消を言い渡すことが一致したのである。
そのことはペルー侯爵家にも内密で伝えられた。
あれほどまでに大体的に婚約発表をしたにも拘わらず、王家からの婚約解消という事は、エマやペルー侯爵家だけでなく、王家側もまた相応の痛手を負う事を意味していたが、先々代同様に王妃で笑いものにされることに比べれば微々たるものであった。
お義父様は粛々と王家の代理人の話を聞いておりました。婚約解消も致し方なしと考えておられるようです。
王太子殿下と結婚できなければエマにはまともな縁組など来ませんよ?
今でさえ、社交界での評判は悪いのです。王家から婚約解消を言い渡されれば、エマは令嬢として落第である事を認めた事にもなり、婿を取って侯爵家を継いだところで実権は握れないでしょうし、そもそも、優秀な婿候補などこないでしょう。来るとしたら、実家が困窮している者か、野心家な男性が大多数です。
秘密裏に婚約解消をほのめかされたとはいえ、それは公然の秘密というものです。
もっとも、幾ら隠した処で漏れるものですから、秘密などあってないようなものなのでしょう。
エマの妃教育の進展具合は王宮で知らない者などいないほどですし、今更秘密もありません。社交界でも連日、エマの噂話で盛り上がっておりますからね。
人によっては賭けの対象にしている方々さえおります。




