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社交界の徒花


社交界デビューを済ませたエマは、日夜、夜会に、パーティーにと明け暮れているようです。


夜会で、エマは、その美貌と卓越したダンス技術を駆使して、数々の男性達を次々に虜にしていると評判です。

エマの虜になった男性は、身分の高い者もいれば、大変裕福な者も多く、彼らからの貢物もその都度増えているそうです。


半年も経たぬうちにエマは『社交界の徒花(あだばな)』と呼ばれ、注目されたのは言うまでもありません。


何故、『社交界の花』ではなく、『社交界の徒花(あだばな)』と称されるのかと言うと、彼女の言動が問題としか言えません。男性を虜にして貢がしているだけなら良かったのですが、それで終わらないのがエマです。


人のものを欲しがる悪癖の持ち主です。

今までは相手の品物でしたが、男性との交流で、相手の恋人、もしくは婚約者を欲しがるようになったのです。

しかもターゲットにした相手が悪過ぎました。

(かつ)てエマを「お茶会」に出入り禁止させた高位貴族の令嬢方の婚約者や恋仲の男性に粉をかけ始めたのです。


周囲が怪しまない程度の軽さで話しかけたり、気さくにダンスをしたりして親しくなっているのです。パートナーの女性が傍にいるにも拘わらず、偶然を装って声をかけて、彼らにしか分からないような内容で、さも親し気に会話する始末。

その際も、甘い雰囲気を漂わせながら淑女としてギリギリのラインでの接触を行うのですから、相手の御令嬢は大変に怒りようで。


流石に既婚者には()()()()()振る舞いはしませんでしたが、高位貴族の令嬢を敵にまわしたことは確かでしょう。

しかも、エマになびく男性の多いことが、より一層、令嬢方の恨みを買っていました。

なにしろ、見た目だけなら一級品のエマです。なかには婚約破棄した令嬢もおり、状況を悪化させているのです。

もっとも、婚約破棄は令嬢側からのため、その理由と共に証拠物件を相手の家に送り付けて、慰謝料と賠償金をふんだくっておりました。実に逞しい事です。


そんな事態が相次いでいたら、エマに報復する者がでて来てもおかしくはない状況なのですが、報復するには、女としての魅力に負けたことを意味しますからそれも出来かねる御様子。


落ち着いてエマと周囲を観察しますと、エマは本当に線引きが上手といいますか、引き際を心得ていると言っていいのでしょう。

相手の出方やプライドを刺激しながらも、報復出来ないような布陣を張っているのです。


実に賢いやり方です。


もし、エマがまともに育てられていたら、権謀術数の社交界でも見事に泳ぎ切ったことでしょう。もしかすると派閥のトップになっていたかもしれません。

お母様は、エマはもう矯正できないところまで来てしまっていると判断しておりますから、今さら無理な事でしょう。

それが残念でなりません。


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