社交界デビュー
エマは十六歳の時に、社交界デビューを果たしました。
貴族令嬢の社交界デビューは十六歳から十八歳で行われ、よほど困窮していないかぎり高位貴族の令嬢は王都の屋敷でデビューするのが基本。
お義父様は、私とエマを同時に社交界デビューさせようとしておりましたが、お母様と親族たちの反対にあい、断念なさいました。お義父様としては、歳の近い私たちを公平にデビューさせたかったのでしょうが、その善意は、私にとって悪夢ですので無くなって本当によかったです。お母様としても、エマのフォローを私にさせることを嫌がっておりましたし、親族たちからしたら、主役はエマ一人で華々しく社交界デビューさせたかったのでしょう。
もっとも、この頃にはブラトン伯爵家の者達も、ペルー侯爵家の親族たちに対して辟易していましたからね、私の社交界デビューはブラトン伯爵家で一年前に行いました。勿論、侯爵家の方々の参加は御遠慮させていただきましたわ。あれを身内に入れてしまうと、ブラトン伯爵家の恥になりますでしょう?
それに、五年前にサンドラお姉様が隣国に嫁がれましたから、その関係で、私はブラトン伯爵家での滞在が増えております。
今では、月に一、二度ほどペルー侯爵家に滞在している位ですから、エマとの交流は全くありません。ただ、エマは自分の社交界デビューのドレス選びに喜々として行っているという話は耳に入ってきていました。
エマの社交界デビューの準備はお母様ではなく、親族一同で行っているとか。娘の社交界デビューに屋敷の女主人ではなく親族が主体となって執り行っているところなどペルー侯爵家だけでしょうね。
これが如何に非常識なことにあたるか…彼らは理解しているのでしょうか?
お母様曰く、エマの美しさをより引き立てるために、そしてより華やかな舞台を催そうと躍起になっているらしいのです。傍で見ているだけでも鬼気迫る勢いらしいので、口を挟まないようにしていると伺いました。
こうして、エマの社交界デビューは実に豪華絢爛であり、次の日の新聞のトップを飾りました。
王族の姫君や公爵家の令嬢でもない限り、そんなことにはならないのですが…恐らく親戚の誰かが新聞社に圧力でもかけたのでしょう。
それとも大金を出したのでしょうか?
何はともあれ、エマは始終ご機嫌だったのは言うまでもありません。




