義妹の悪癖は病気
招待状が届かなくなると、エマは自分から招待状を出すことを思いつきました。
エマ自身が主催者となって皆を呼べばいい、との考えのようですが、恐らく親族の誰かの入れ知恵でしょう。
本当に要らぬことをする方々です。
招待状を送った処で来てくれる方がいなければ意味がないと言いますのに…
思った通り、招待状をお送りした令嬢達から不参加の連絡ばかりが入りました。
侯爵家からの招待を無下にするなどと、エマとその親族たちは大変な怒りようですが、招待状をお送りした相手はペルー侯爵家よりも格上の家柄ばかりの令嬢方です。
格上の相手が格下の相手を無下にした処で問題ありません。
それに、侯爵家と言っても、ペルー家は侯爵家の中でも下位の身分です。文句を言うだけ失笑されるだけということが理解できていません。
お父様は困った顔をしながらも、エマ可愛さに、行動をお止めになりません。そこは止めるべきでしょう!
しかもですよ、「なら、家格の下の令嬢を招待すればいい」など余計な事をおっしゃる始末です。
確かに、家格が下の方々ならお断りできませんが、何故、被害者を増やすような事をおっしゃるのでしょう?
お母様は既にエマに匙を投げておられますし、私もフォローなど出来ませんよ?
やはりと言うべきか、エマの悪癖がでました。
ここで問題なのが、これまでの相手と違って格下の令嬢方から奪うのですから、相手が泣き寝入りになるのは当然でした。エマが見た事もないアクセサリーをしているのですから、直ぐに他の御令嬢から奪った物だと分かります。
その都度、私やサンドラお姉様が注意するのですが、どうやら、エマは私たち姉妹を自身の下と見ているらしく、見下した態度で、話も右から左へと流すのです。
流石に、お母様が注意すると、反省した態度を見せ、奪った品を持ち主の令嬢に返却するというのがパターンです。
ですがエマの反省は長続きしません。暫くすると、また人の物を強奪しているのです。
「別に奪っているわけではないわ」
との主張を繰り返すのですから、本当に困ったものです。
エマ自身、アクセサリーやその他の小物が少ない訳ではありません。
侯爵令嬢として相応しいもので溢れかえっているくらいです。なのに何故人の物を欲しがるのでしょう? 何時まで経っても、人の物を欲しがる癖が抜けないのです。
もしかしたら、他人の物がよく見えると言う現象に陥っているのでは?と思い、サンドラお姉様に相談したことがありますが、お姉様曰く、そうでは無いとのこと。
なんでも、エマは自分の所有物よりも高価で上質なものほど欲しがる傾向にあるのだとか。
自分の持ち物よりも綺麗で素敵だからこそ興味が湧き、使ってみるという考えに及ぶそうです。
それも全く悪気なくするものだからこそ余計に質が悪いと、お姉様が苦笑しながら教えてくださいました。
それはもう、一種の病気ではないかと思うのですが……
確かに、エマが強奪している物は、大変高価な品々ばかりです。
下位の貴族令嬢とはいえ、家が裕福な令嬢ばかりを招待していますから、それも当然かもしれません。
家格が上の令嬢からの招待です。それ相応の物で自身を着飾ってくるのが貴族令嬢の常識なのです。言い方は悪いですけど、見栄を張ってこその貴族なのです。
そこに、その家の意地とプライドも多少あるでしょうし、親の意向などもあります。
恐らく、令嬢方の御自慢の品々ばかりでしょう。
そういった観点ではエマの見る目は確かだわ、とサンドラお姉様だけでなく、高位貴族の令嬢方も感心しておりました。高位貴族の令嬢の間では、『目利きの子猫』というあだ名がエマに付けられていました。
なるほど、と思わす納得してしまえるほどにピッタリのあだ名です。
そんなエマと義理とはいえ姉妹になってしまった私とサンドラお姉様には、大変な同情が寄せられ、令嬢方から良くしていただいております。
何しろ、エマだけでなく、ペルー侯爵家の親族の悪評もまた広がっているのですから当然かもしれません。
エマに何かあれば、相手が誰であろうと噛みつき、お門違いの苦情を言う人達ですからね。
高位貴族の令嬢の間でエマは、要注意人物だと認識されております。
良識のある令嬢たちは、既に情報収集・分析し終えており、各家に報告を済みでした。家の指示を受けて、エマやペルー侯爵家に近づかないようにしており、義理の姉妹である私たちは、エマや侯爵家とは別であると認識し、陰で助力してくれております。




