表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

3分読み切り短編集

アイスの美味しい食べ方

作者: 庵アルス

 肺も凍りそうなほど寒い冬の日だった。

 昨夜から荒れ狂う風に撒き散らされた雪が、世界を白く覆っている。

 これは比喩でもなんでもない。外にあるものすべて、雪に埋まるのだ。

 交通機関が完全に止まり、なのに仕事は休めない、雪国生まれの定めを呪いたくなる日。

 陽も落ち切り、空は塗りつぶされたような濃紺。空気は澄んでおり、星がよく見える。青白く輝く天狼星(シリウス)が実に美しい。

 街灯が点々と灯り、雪に弾かれて、視界は夜だというのに明るい。

 変な話だが、昼よりよく見える。昼間は太陽光が雪に乱反射するので、眩しすぎて目がチカチカする。

 これでも吹雪いていたら歩くどころではないのだが、今夜はついていた。

 例え、行きも帰りも、タクシーすら捕まらず歩いて帰るはめになったとしても、帰路についているだけまだマシな方である。ひどいと職場に泊まらざるを得なかったりする。

 雪をこいで掻き分けながら歩くのは、夏場の倍は疲れるし時間もかかる。

 あまりの寒さで、スマートフォンはあっという間に充電がなくなるから使わない。そうでもないと、万が一動けなくなった場合に助けも求められない。

 ずしずしと雪を踏み進むことしばし。家の最寄りのコンビニが見えた。

 立ち寄って、帰ってから食べる物を見繕う。明日は正月に出勤させられた分の代休になっているから、明日の分の食べ物も買い込む。

 ストレスが溜まっているのだろう、買い物カゴは嗜好品ばかりだった。

 気合いを入れ直し、雪道を進んで家に帰る。

 冷えきった身体をシャワーで温めて、さっぱりぽかぽかになったところで、リビングのローテーブルに突っ伏すように座り込む。

 沐浴前に付けていたストーブが効き始め、湯上りの身体を優しく迎えた。

 なんでエアコンがないのかって? 室外機が寒さで凍るか、雪に埋まるか、その両方だからである。

 テレビを付けて、のろのろと立ち上がり、コンビニの買い物を仕舞い込んだ冷蔵庫へ。

 お気に入りの炭酸飲料と、冷凍室からカップアイスを取り出した。スプーンも忘れずに、ローテーブルに戻る。

 テレビではお気に入りの番組が拡大スペシャルとなっていた。終わる前に帰宅できてよかったと心から思う。

 炭酸飲料で水分補給。

 それから、カップアイスを開封する。

 なめらかに整ったアイスの表面。部屋の暖気で、さーっと氷の粒が溶ける。

 スプーンでゆっくりと掬い、頬張る。とろりと広がる甘みに、自然と頬がゆるむ。

 暖かい部屋で、温まった身体で食べるアイスは格別に美味しい。世界で一番美味しい食べ方とすら思う。

 自分の幸せを感じる瞬間はこんなときだなぁ、と噛み締めながら味わうのだった。

2021/01/06

 冬にアイスを食べる習慣がある北海道ですが、アイスの年間消費量一位が石川県なの、不思議に思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 夏だけでなく、冬にアイス、確かに良いですね! 僕も一時期、冬と爽のバニラ味は合うなぁと 思ってた時があり、このお話を読み思い出しました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ