アイスの美味しい食べ方
肺も凍りそうなほど寒い冬の日だった。
昨夜から荒れ狂う風に撒き散らされた雪が、世界を白く覆っている。
これは比喩でもなんでもない。外にあるものすべて、雪に埋まるのだ。
交通機関が完全に止まり、なのに仕事は休めない、雪国生まれの定めを呪いたくなる日。
陽も落ち切り、空は塗りつぶされたような濃紺。空気は澄んでおり、星がよく見える。青白く輝く天狼星が実に美しい。
街灯が点々と灯り、雪に弾かれて、視界は夜だというのに明るい。
変な話だが、昼よりよく見える。昼間は太陽光が雪に乱反射するので、眩しすぎて目がチカチカする。
これでも吹雪いていたら歩くどころではないのだが、今夜はついていた。
例え、行きも帰りも、タクシーすら捕まらず歩いて帰るはめになったとしても、帰路についているだけまだマシな方である。ひどいと職場に泊まらざるを得なかったりする。
雪をこいで掻き分けながら歩くのは、夏場の倍は疲れるし時間もかかる。
あまりの寒さで、スマートフォンはあっという間に充電がなくなるから使わない。そうでもないと、万が一動けなくなった場合に助けも求められない。
ずしずしと雪を踏み進むことしばし。家の最寄りのコンビニが見えた。
立ち寄って、帰ってから食べる物を見繕う。明日は正月に出勤させられた分の代休になっているから、明日の分の食べ物も買い込む。
ストレスが溜まっているのだろう、買い物カゴは嗜好品ばかりだった。
気合いを入れ直し、雪道を進んで家に帰る。
冷えきった身体をシャワーで温めて、さっぱりぽかぽかになったところで、リビングのローテーブルに突っ伏すように座り込む。
沐浴前に付けていたストーブが効き始め、湯上りの身体を優しく迎えた。
なんでエアコンがないのかって? 室外機が寒さで凍るか、雪に埋まるか、その両方だからである。
テレビを付けて、のろのろと立ち上がり、コンビニの買い物を仕舞い込んだ冷蔵庫へ。
お気に入りの炭酸飲料と、冷凍室からカップアイスを取り出した。スプーンも忘れずに、ローテーブルに戻る。
テレビではお気に入りの番組が拡大スペシャルとなっていた。終わる前に帰宅できてよかったと心から思う。
炭酸飲料で水分補給。
それから、カップアイスを開封する。
なめらかに整ったアイスの表面。部屋の暖気で、さーっと氷の粒が溶ける。
スプーンでゆっくりと掬い、頬張る。とろりと広がる甘みに、自然と頬がゆるむ。
暖かい部屋で、温まった身体で食べるアイスは格別に美味しい。世界で一番美味しい食べ方とすら思う。
自分の幸せを感じる瞬間はこんなときだなぁ、と噛み締めながら味わうのだった。
2021/01/06
冬にアイスを食べる習慣がある北海道ですが、アイスの年間消費量一位が石川県なの、不思議に思っています。