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正義の行進  作者: ドラマティック
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正義行進

出島勇は今の今まで正しくあり続けた。誠実であり、潔白であり続けた。白いTシャツの一滴のシミがないが如く、勇は正義の使徒であり続けた。それは如何様であろうと。いかなときであろうと。清廉潔白であり続けた。

12の頃に今にも飛び降り自殺をしそうな少年を助け、13に悪党教師に反旗を翻し、14にして生徒会長になり、15の頃にはその学校に悪はいなくなった。

それでも正義の行進は止まらない。16にまた生徒会に入り、あくを正し続けた。流行病の多くを隠蔽しやり過ごそうとする学校をただし、それ以上に文化祭にあるクラスごとの不正一つ一つを全て潰した。

反感はあったのだ。たしかに身近な人からの信頼は感じていたが、それ以上に見知らぬ誰かの反感はやはりあった。それは先生も例外ではなかった。俺の事を生意気だなどとぬかし、どうにか俺を生徒会長及びこの学校から退かせるための弱味を握ろうとするものは多かった。

だから正直のところこれも、その反感のひとつだと割り切るのに時間はかからなかったのだ。

線路に落ちていく自分の体と近づいてくる電車。そしてホームの黄色の点字ブロックにたった、フードを深く被った男がチラリと見えた。その男は俺が一番信用していた生徒委員会の副会長であり、勇の親友であった透だった。

嫉妬からか、それともまた何か間違えたのかと走馬灯の中何が間違いだったのか探った。だが何一つ見当たらなかった。私の行動のひとつひとつは自分が正義だと信じた結果のものだったから。それが正義なんだと思っていたから。

「じゃあな。透。また遊ぼう。な」

勇はそう言って目を瞑った。死を覚悟したからじゃない。後悔で胸が潰れそうだから、瞼の裏を見て何も考えないようにした。

年相応に遊んでればよかったのか。いやそんなことは無い。そうなんだ。そのはずなんだ。だが自分の正義が間違っていたのなら、もしそうなら、せめて俺にもう一度やり直すチャンスが欲しかった。

そう思った矢先、勇の体に異変が訪れる。光の粒子へと還元されて言う体。その光に瞼を刺され、眩しさに目を開けると自分の体は既に半分は溶けていた。勇は情けない声を出して自分の体の異常に驚き戸惑った。なにせ体が溶けるなんて初めての体験なのだから。

だがその光の向こうの透は驚きながらも、涙を流していた。勇も同じく涙を流していた。

あぁ。透。泣かないでくれ。大丈夫だ。やり直そう。今度会う時は、その時はカラオケに行って、ボーリングを肩が筋肉痛で動かなくなるくらいやって、美味い飯を食って、同じ友人の愚痴で盛り上がろう。

そして勇は消えてしまった。その時の記憶はもうなかった。消えた先は深海よりも深い蒼で満たされ、目の前の奥に扉のようなものが浮いていた。そしてその蒼には流星群のようなもの煌めいていて、勇の背後を過ぎ去っていく。振り返ると、そこには光があった。

勇はすぐに背中を押されて、その光へと向かう。きっとそこに贖罪のチャンスがあるんだと信じて疑わなかった。すぐに勇の背中から手は離れて、自由になった勇は自分から先に向かった。

光に着くと、すぐに眠くなった。仏になるのかと考える間もなく眠ってしまった。


目が覚めるとそこは海の上のような異空間であった。海の上にフローリングが浮いていて、そこにアパートの一室があるようだった。タンスがあり、本棚があり、ベッドもテレビもちゃぶ台もある。そしてそのちゃぶ台を見知らぬ女と囲んでいる。その不思議な光景に目を奪われる。だが女の視線にすぐに我に返った。女は綺麗な着物を着ていた。顔立ちも日本美人と言わんばかりである。

「どなたですか?」恐る恐る勇は聞いた。

女は微笑んで顔を上に向ける。そして第9を口ずさむ。その歌声はとても美しく、その空間ととても似合っていた。星空の下で歌う美女。それを描いて美術館に飾られてもなんの違和感も持たないだろう。

「Freude」女はそう言うと歌うのをやめてしまった。すると勇に目を向ける。勇に向ける視線はとても慈悲深かった。

「喜び。死は救済。人は生を悪のように語り、死をあたかもその辛い現実からの解放だと騙りませ。それについてどう思います?」女は言う。「死を経験した貴方からすれば、それは貴方の正義と相違ないですか?」

唐突だった。その問いを一高校生男児に投げかけるのはとても酷なものであった。勇は戸惑いながら視線が虚ろになる。だが答えをみつけ、女神の視線に答えた。

「いえ。俺は後悔を残して死にました。とても後悔して辛く、悲しいです。救済なんて。救済なんて」言葉が出なくなった。透への謝罪への気持ちが、言うべき言葉を潰してしまった。勇はその気持ちに体すら潰され、膝にへばりついた。泣いていた。

女神は立ち上がり勇へと向かう。足取りは確かだが、その顔つきは不穏だ。子を励ます母でもなく、友人を奮い立たせる旧友でもない、その心のない顔は人を超越した何かに達しているようだ。

「貴方はたしかにたくさんの後悔をして死にました。まだ聞きたい曲も、やりたい事も、読みたい本も、話したい事もあったことでしょう」そう言って女は勇の頭を撫でた。

だが、勇の涙は止まりはしない。慈悲深い言葉も深い後悔に塗りつぶされるのだ。

「貴方は生きていたなら、この先その正義を燃やし世界を救うほどの偉業を成していました。ですが、それは叶わず死んでしまった」女は言う。だがどこか他人事のように聞こえた。疎外感を感じるその言い方が鬱陶しい。

 勇はうでを腕で払い、睨んだ。

「私のこの行動は貴方を利用する行為です。これより貴方は異説へと向かう」女は地平線の向こうを見て言う。もう夜明けのようだった。女は本棚の本をとる。「ファーシル。これが貴方が向かう異説」

「あんたは…神様なのか?」

「いえ、違います。ただのナビゲーターですよ。なんの前情報もないまま、利用されるだけなんて可哀想でしょ?」

「死んだあともこうやって利用される俺を、あんた達が可哀想というのか?」

「えぇ」

「ふざけるな!!!」

俺は立ち上がって女の胸ぐらを掴む。そしてフローリングの先の海まで足を進める。だが女の顔色は変わらない。達観したと言うより感情がないような表情に恐怖を感じる。

「私たちはいいえを言う人を送るのではありません。勇猛だがどこかで流され運命のままにいてしまう犬を送るのです」

「…そうか」勇は女を海に投げた。勇の正義の中には、死人を利用するようなことは悪だと認識している。彼はまた正義を実行してしまった。

「そう。貴方はそうあればいい。犬。そう犬。貴方は正義の犬なのだから。そのままいればいい」だが女の声は聞こえる。頭の中に響いてくる。もう何もかもが煩わしい。

消えろ。消えろ。消えろ。消えろ!

そう願えば願うほど、フローリングもタンスも全部上へと引っ張られる。勿論俺も。なんだ。俺は何をすることになる?また正義を実行し続けるのか。俺は。嫌だ。もう嫌だ。俺はあんな終わり方をしたくて正義であり続けたわけじゃない。そうだ。そうだ。正義じゃなくていい。俺は幸せでいたいだけだった。そうだ。次があるなら、俺は正義なんかじゃなくていい。屑であろう。

体はとうに溶けた。


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