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魔力極振りの迷宮探索  作者: 大山 たろう
第一章 入学
4/33

迷宮探索1-1

 急いで探索者ギルドの受付に行く。

 今日はまだだれも来ていないようだ。

 一番乗りに少し喜びながら、書類を提出する。

 数分後、受付の人がやってきて、何やらカードを渡された。どうやら個人識別用らしい。

 ともかく、これで迷宮に潜れるわけだ。



 門のほうに行くと、そこには重装備をしたおじさんが二人ほどたっていた。

 片方はひげもじゃ、片方は高身長ダンディー。


 ここは......ひげもじゃ行っとくか。


 俺はひげもじゃの門番に、カードを見せる。

 すると門番は、


 「俺は羽場 里安だ。おぬし、今日初めて迷宮もぐるじゃろ、今日は一階層から上にはいってはならんぞ。」


 装備もない、スキルもないし、自分から死にに行くような真似はしない。


 俺は素直に

 「了解しました」

 と返しておいた。


 するとおっちゃん......羽場さんは、


 「じゃあ、行ってこい!」


 大きな声をかけてくれた。


 さて、いくか。

 俺は目の前にある階段をのぼる。そこには、三年前、ニュースで見たものと同じものがあった。



―――――金色の輪っか



 今は門などと呼ばれる、空中に浮かぶそれに。その奥に広がる別世界に。三年間。恋焦がれてきた。



 そして今。 やっと、初めて。



 その門を――――――










 ―――――――超えた。


目を開ける。


目の前に広がるのは一階層である薄暗い洞窟。

日光など存在しないと言わんばかりに影が世界を塗りつぶす。

そんな暗闇の世界で寂しく光る青い水晶の光が、わずかな視界を与えてくれている。

息を大きく吸い込む。少し冷たく、湿っぽい空気が肺いっぱいに溜まる。

息を吐きだす。肌に感じるじめじめとした空気も新鮮だ。

耳を澄ませても、誰もいないと言わんばかりに静寂だけが広がっている。


 俺は、こんな何もない世界に、三年も心を囚われていた。

 他人なら馬鹿だと一蹴しそうなものだ。

 しかし、後悔などなかった。

 むしろ俺は今、進んだ果てに死が訪れたとしても、俺は後悔などしないと確信していた。


 それほど、俺の心が満たされる感覚があった。


 だが、まだ足りない。

 いうなれば、好きな小説をまだ買っただけなのだ。

 俺は、迷宮に潜って、潜って、潜って......

 誰も見たことのない景色を見たい。

 

 拓海は、そう目標を立てた。





 歩く、歩く。


 洞窟で暗く、湿っていて足場が悪いが、わずかな水晶の明かりが、かろうじて足元を照らしてくれているおかげで、何とか進むことができている。一階層とはいえ広大な広さがあるらしいので、迷子にならないよう、来た道を確認しながら用心深く進む。


 少し視線を前に向けると、そこには三年前異形の生物として紹介され、今では専門の研究所が発足するほどに未知の塊である、スライムである。


 しかし、スライム。雫型ならよかったが、残念なことに一階層のスライムはぐちゃっとした、形をかろうじて保っているタイプしかいない。

 だが、このタイプのスライムは、魔石を体から引っ張り出してしまえば息絶える。

 これが一階層のスライムに対する最も有効な戦術で、そして時間も一番かからない方法だとデータベースに乗っていた。



 俺はこのドロドロスライムに触れたくないのだが......と思ったものの、うじうじしても何も始まらないので、服の袖をまくってスライムの体に手を突っ込む。


 手さぐりにスライムの中をあさっていると、コツッという感覚がしたので、その付近を探す。

 

 ―――――見つけた。


 俺は見つけた核をつかみ、引き上げる。


 すると、形を保てなくなったのか、平べったくなってスライムが死亡し、黒い霧となって霧散する。

 その後、黒い霧の一部は空中に霧散し、一部が俺に吸い込まれる。


 すると達成感を味わう間もなく脳内に通知が響く。


 ・スライムを倒しました。経験値2を獲得。


 ・lv2になりました


 そう、ここからが運命の分かれ道。今日の俺の本題だ。lv1からlv2になるときの上昇幅からある程度今後の上昇幅を推測できる。



 深呼吸をした後、意を決して俺は唱える。


 「ステータスオープン」


 しかし、現実というのは時に残酷なものだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

藍染 拓海 人間 男 無職 lv2


HP10/10

MP20/20

筋力10

体力10

敏捷10

知力10

魔防10

器用10

幸運10


スキル



スキルポイント   2

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は茫然とした。それもそうだ。

 

 ステータスがMP、つまり魔力値以外変動していないのだ。


 つまるところ、俺のステータスの才能は......


 「魔力極振りって、流石にそれはないだろう......」





 一度迷宮から出て、どうしたものかと考える。


 普通の人ならば、探索者をあきらめろ、と言われるほどに酷い偏り具合なのだが、幸か不幸か、拓海は迷宮に関しては普通ではなかった。


 拓海は思考をめぐらせる。


 問題点は、基礎ステータスと呼ばれる、筋力、体力、敏捷、知力、魔防、器用の値が変動しないと分かったわけだ。

 上位にめり込む探索者は、ほとんどがいくつかの基礎ステータスの上昇値が5を超える。俺はMPだけなら破格の才能だが、そのほかがだめだ。絶望すぎる。

 例えばMPをつかう魔法であれば、基礎ステータスの知力の影響を受けやすい。

 しかし、その値が変動しないとなると、どこかで補強しないといけないのか。

 ステータスを上げるスキルは何だったかな......


 ああでもない、こうでもない、と考えていると、いつの間にか家まで帰ってきたようだ。

 しかし、解決策は一向に浮かばない。


 「今日は寝られそうにないな......!」


 疲れ切った体とは正反対に、拓海の眼はギラギラと輝いているのだった。


 家に帰ってすぐに自室のパソコンから探索者データベースをあさる。


 そこには、モンスター情報から魔法、スキル獲得条件など多種多様な探索者に必要となりうる情報が格納されている。


 探索者ギルドの発足から、今まで情報が更新され続けられているこの情報庫に、今回はお世話になろう。


 サイトを開くと、慣れた手つきでスキルの項目を見る。


 開くと、千は優に超えるであろうスキルの名前と、隣に表示条件が記されている。


 まずはこのスキル......は取得条件満たしてない。このスキルは......だめだ、知力ステータス頼りだ


 ひたすらに、ひたすらに......打開策を考えるのだった。


 翌日。今日は土曜日のため、午前の間にちょっと買い物をする。


 俺は三年間貯めていた貯金をありったけ財布に詰め込み、いつものカバンを持つと、駅のほうへ向かった。


 俺は電車で三十分ほどかけ、ある場所へ向かう。


 「はぁ、やっと来られた!」


 そこは、探索者が集い、装備や消耗品を売り買いする都市。


 一般的には迷宮都市と呼ばれるそこは、三年以上前から開発されていたが迷宮の出現に伴って社長自ら方向転換の指示を下し、探索者のすべてがそろう都市へと姿を変えたという経緯があったりする。



 大通りには所狭しと店が並ぶ。そして中央に、いつも行っている迷宮の三倍くらいの大きさを誇る黄金の門が鎮座しているこの都市は、探索者の楽園とも呼ばれている。

 ちなみに俺がここに来た理由は、ずばり装備を整えるためだ。


 大通りを歩いていると、様々な店がある。


 と、見物もほどほどにして、自分の装備探しをする。

 まず入ったのは、探索者装備メーカと言われたら片手の指に入るほどの大手メーカー、イノセンスだ。

 イノセンスの売りは、魔法補助具の多様性と性能だ。


 ほかのメーカーがほとんど杖型を販売している中、イノセンスは魔法補助具として様々な武器や防具、また装飾品の形状で販売していた。


 俺はその中でも、取り回しの良い装飾品、なおかつ安いやつを買おうと思っている。

 予算は三年間の貯金、十万円。


 自動ドアをくぐる。そこにはいかにも裕福な人が来るような、気品ある雰囲気となっていた。

 俺はとりあえず陳列されているものを見る。が、そこには俺の予算にゼロを一つ足しても足りない値段のものしか置かれていなかった。


 近くにいた店員さんに聞いてみた。


 「装飾品タイプで、安いものはないですか」


 「それでしたら二階にあります」


 「ああ、ありがとうございます」


 どうやら一階は高いものばかりおいているらしい。近くのエスカレータを利用して二階へと向かう。

 そこには、一階のものには性能が大きく劣るものの、予算に十分収まるようなものが置かれていた。

 どうしようものかと考えていると、俺はある一つの品物に目が行く。


 それは、指輪型で、性能こそ低いが、安いし目立たない。


 なぜか、これだ、と思った俺は、近くにいた店員さんに購入の意思を示すと、快くケースの中から取り出し、売ってくれた。

 値段は五万円。一気に半額になってしまったが、仕方ない。

 俺は店を出ると、流れるように次の店である向かいにあるもう一つの大手メーカー、風林火山へと入る。


 そこの強みはなんといっても武器だ。


 高耐久性、またコスパも良いと言われている。


 そこに行くと、店員さんがやってきて、


 「いらっしゃい、何を買いに来てんだ!」

 

 と大きな声で話してきた。

 とりあえず、目的のものを話す。


 「ナイフを、護身用で。」


 すると、俺のことをジロジロと見たかと思うと、


 「おうわかった、ちょっと待ってろ!」


 と言い、奥に行ってしまった。


 それから数分後。


 「兄ちゃん、これなんてどうだ!」


 毎回大きな声を出す店員だったが、仕事は十分以上できるらしい。


 渡されたナイフは、俺にすごくなじむ。

 これ、買おう。


 「これ、いくらですか?」

 「八万だ!」


 と答える店員。俺は事前に情報を得ているので、言い返す。


 「四万円だ!」


 「兄ちゃん、やるじゃねぇか。五万円、それ以上は下げられねぇ。」


 「わかった。」


 よし、値下げ成功!

 風林火山が質も良いが、値下げ交渉に応じてくれるのも良い点だと書いていた!掲示板に!

 

 俺は満足して、電車に乗る。

 それから三十分程がたったあと、俺は昼食を食べる。


 昼食を一気に腹に詰めると、俺は猛ダッシュで迷宮へと向かう。


 門へ向かうと、羽場さんに声をかけられる。


 「おぬし、装備はそろえたようじゃが、職業は変えたのか?」

 ああ、そういえば。

 「そういえばまだです」

 けど変え方わからないんだよな......と思っていると、羽場さんが気を利かせてくれた。

 「そうか、ステータス画面から職業をタッチしてみろ、そこで変えられるぞ」


 「おお、ありがとうございます」


 「職業さえ変えてくれたら二階層へ行っても構わん」


 「ありがとうございます」

 俺は門をくぐり、迷宮へと潜る。



 また戻ってきた、この世界に。

 この無秩序に散らかった岩の破片さえ、俺は愛おしく感じる。が、ずっと風景を楽しんでいれば良いわけでもないので、さっそく行動を開始する。


 さて、先に職業を設定しようか。無職の最大レベルは2なので、これ以上上がらないし。


 そう思い無職の部分を押すと、様々な職業が出てきた。


 しかし通常はたくさんの選択肢があるはずが、ステータスが上がらないせいで第一世代のメジャーな職業はステータス制限に引っ掛かり、選択できないためがらんとした選択画面。


 灰色表示となった無職のほかには、一つしか職業は表示されなかった。



―――――魔力タンク―――――



 それは人の職業としてどうなのか、という気持ちはあるものの、これしかないため仕方がない。


 職業:魔力タンクを選択する。


 すると、ステータス画面から青い光が飛び出し、俺の魔法陣へと吸い込まれていく。


 俺は魔法陣に手を当てると、俺はわずかな期待と大きな不安をまぜこぜにしながらも


 「ステータスオープン」


 そう、確認をする。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

藍染 拓海 人間 男 魔力タンクlv1


HP10/10

MP20/20

筋力10

体力10

敏捷10

知力10

魔防10

器用10

幸運10


スキル

魔力譲渡lv1

魔力回復増加lv1


スキルポイント   2

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 無職から魔力タンクへいろいろな数値の継承がある。


 それは、第0職業の無職から第1世代の魔力タンクに強化された扱いということらしい。昨日データベースで見た。



 ともかく、これで本格的に探索を始められる。


 まずは、魔法を使って、手を触れずにスライムを倒す。


 そのために、魔力を指輪に通す。すると、くすんだ色をしたリングが輝きを放ち始める。

 

 この魔力を動かす感覚は魔法陣を付与された時から少しできる。

 魔力を通していくと、指輪から少し整えられた魔力が出てきた。

 その魔力を使って、魔法陣を描く。


 ドーナツ型に二つの円を描くと、その間にデータベースで調べたとおりに魔法文字を書く。


 放出、収束 固定と三文字を書いて出来上がったのが、初心者おすすめ魔弾の魔法陣。


 俺は中央に手を当て、魔力を魔法陣へ放出しながら、唱える。

 

 「魔弾」


 すると、魔法陣に一度取り込まれた魔力が、一度空中に拡散された後、重力に引き寄せられるかのように中心に収束する。そしてきれいな球体となったとき、固定によって形を決められた。


 その魔弾は魔力を集めて球にしただけなので無色透明だが、俺の魔力だからなのか、確かにそこにあると感覚でわかる。


 そのボールへさらに手から魔力を噴出させておし出すと、ものすごい勢いとともに魔弾は見事にスライムに命中、核を破壊した。


・スライムを倒しました


・経験値2を獲得


・lv2になりました


 との通知が鳴り響く。早速確認しよう。

 

 「ステータスオープン」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

藍染 拓海 人間 男 魔力タンクlv2


HP10/10

MP34/40

筋力10

体力10

敏捷10

知力10

魔防10

器用10

幸運10


スキル

魔力譲渡lv1

魔力回復増加lv1


スキルポイント   4

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 やはりMPが増加している。そして魔弾だが、最低消費魔力は3のはずなのだが、6減っているところを見るに初めてなのもあって無駄があったようだ。


 だが、魔法は無事、成功した。比較的難易度の低い文字だけだったのも助かる。

 とりあえずはこれを主力に行くか。


 そう考え、二階層への階段を探すのだった。

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