ただの未熟な――さ。
時は過ぎ、雪が解け桜の季節がやってきた。
久々に連絡が来る。
そこで告げられたのは、来るべき日の正確な日時だった。
七月七日。
七夕に起きてしまうという
そして星王とのコネクトも済ませた俺は、ひたすらに大迷宮へと潜り続けた。
今まで出ていた装備が出力としては結構低めだったりするのだが、奥地で手に入る装備はよくも悪くもピーキーだった。
学校も休む日が増え、出席日数はぎりぎりとなってしまった。
が、俺が原因で世界滅亡とか言ったら学校もくそもないと言い聞かせ、レベル上げと装備集めをひたすら行った。
しかし、使いやすさの面でもそれらは有用とは言えなかった。
結局、さして装備が変わらなかった。
そして今日が、来るべき日。
今日訪れるとは言うものの、時刻が決定しているわけではない。
俺は目を覚ますためにエナジードリンクを飲むと、いつでも出られるように備えるのだった。
朝。まだ眠ることのできない時間が続く。
と、そこへ電話がかかってきた。
「拓海君? 今からそちらに行くわね」
そう伝えてすぐに電話は切れてしまった。
すぐに家に誰かが来た。
戸を開けると、そこには会長と紗耶香が。
「ちょっと用があってきたわ」
「私も」
二人を立ちっぱなしにするのも何なので、リビングに入ってもらった。
いつも食事をしているテーブルに腰かけた三人。
最初に口を開いたのは会長だった。
「私の要件は、死ぬなよって言いたかっただけ」
そう紗耶香はそっぽを向きながら言った。
ちょっと照れているのか、それとも恥ずかしさなのか。顔を赤くした紗耶香が「次! お姉ちゃん!」と話を強引に進めた。
「私の要件はこれよ」
そう言って手渡ししてきたのは、銀の弾丸だった。
「お姉ちゃん、これって......」
「そう。前言っていた奥義に必要な弾丸。これを使うと魂まで持ってかれる、ってわかったうえで、それでも使わないと、って思うかもしれない。どのみち侵略で言えば、これが最終決戦なのだから、持っておくだけ持っておきなさい」
そのあと、会長は「でも」と言って言葉をつづけた。
「それでも、使わないで、生きてほしいと、私は願っているわ。もちろん、紗耶香もね」
そう締めくくった会長は、「じゃあ、帰るわ。紗耶香、いくわよ」と、紗耶香を連れて帰った。
装備の最終確認をしていると、突然に通達の時と同じ声が聞こえた。
・#最終魔物暴走__ラスト・スタンピート__#が開始されます
俺は一気に戦闘モードへと切り替え、探知をする。
一気に魔力を放出し、周囲を探る。
しかし、どこにも来る様子は見られない。何処だ、と思っていたら、連絡が来る。
襲撃の根幹は『月』だ
その連絡を見た俺は、一気に体を射出で空へと飛ばす。
仮面をつけているとどこでも呼吸ができるらしいので、俺はそれをつけておく。
ほかの人たちも、それぞれ呼吸対策をしているようだ。
一気に宇宙に展開すると、展開する。
さぁ、ラストバトルだ。
「『魔弾!』」
装備で知力をフルに強化した俺は一万を優に超える魔弾を二人で放つ。
ドンドンと地球に向かって来るウサギ。
こちらへと近づいてくる前に、片っ端から撃ち落とす。
ほかの人たちも以前からさらに強くなったため、魔力の消費が多くなっている。俺も魔力が増えているが、二十人の成長には追い付けない。少しずつ減っている魔力に少しうれしさを感じるとともに、このままだと限界を迎えると俺が何もできずにお釈迦だ。
とかしている間に、波が止まる。
「本命は明日、別の敵から襲撃がある」
「マジっすか......」
「幸い、魔力も体力も消費がないことが不幸中の幸いだろう。」
俺と同じように、体力を譲渡できる、ぽっちゃり体系の彼がいた。
「少しは役に立てたかなぁ?」
そういう彼。この話し方を見ると、徹と司を思い出す。が、彼らは来ることができなかったようだ。主に宇宙まで到達する方法と、呼吸する方法、そしてその状態で戦闘をしたうえで、足手まといにならない戦いができないと嘆いていた。
「今のうちに月の拠点を叩く。総員、前進!」
一気に月へと向かう。
やっとパーツがそろった。四年前、突如月からの通信が断絶したこと。七つの大罪の名を関しているくせに、地球に六つしかなかったこと。答えは、月に七つ目が存在していたのだろう。
月に降り立つ。そこに存在していたのは、そこまで高くない塔。
中に入ると、ずっと大きな部屋が続く。
恐らく先ほどまでの敵をそこにため込んでたのだろう。
そのまま先へと進む。
最奥にいたのは、竜だった。
「明日に運命レベルの強敵が現れるというのに.......仕方ない、総員、戦闘開始!」
皆が攻撃を開始した。
火の玉、風の刃、土の矢、水の蛇。
大量の魔法攻撃が飛び交い、近接職がひたすらに攻撃をする。
が、気にも留めない竜は、その尾で一気に周囲一帯を薙ぎ払った。
「ぐはっ」
そう聞こえたのは俺の隣。体力譲渡の彼が一撃で限界に達した。
回復できる人はひたすらに彼を回復している。が、近接職もダメージをのこしているため、彼にかかりっきりにはなれない。
盾を使える者が前に出て、時間を稼ぐ。
「僕に、任せてほしい。体力の回復を」
そういったのも、やはり隣のぽっちゃり。何か奥義でも存在するのだろうか。
自動回復で一気に回復した彼は、かけてもらったクイックで一気に懐へと入り込む。
「『体力神』そして『ライフバースト』ぉ!」
その瞬間、竜の体がはじけ飛ぶ。
一撃で持って行ったその攻撃。が、代償はそれなりに大きいらしい。
「ごめんね、これを使うと、三日間体力一固定、回復無効なんだよぉ......」
仕方がないという結論。が、明日の戦いは一気に不利になってしまった。
敵がわからなければ、何も知らない俺たち。
打開策など、どうしようもないだろう。
少し息をつけたところで、唐突に声が聞こえる。
・一人で、日本時刻午前零時に嫉妬の大迷宮前に来い。
通達が、いつもと明らかに違う口調で、音色で、しかも周囲の反応と内容を鑑みるに俺一人に送ってきた。
恐らく、これが明日の戦い。これが、きっと俺だけの最終決戦。
俺は何も知らない顔をして、地球へと帰っていった。
装備を整える。
飯を食う。
良く寝る。
そこまでしたら時間などないに等しかった。
俺は、嫉妬の大迷宮へと向かう。
地球の大迷宮に嫉妬だけがなかったあたり、おそらく月のあれが嫉妬だろう。きっちりと日本時刻とつけられているし。
俺がそこへと向かうと、すでに一人の男が何も持たずにそこにいた。
服装はジャージ、武器らしい武器も持っていない、丸裸の人間が、月にいる。
この異常性からすぐに理解した。
こいつが、敵だ。
と、そこまで思考が至ったところで、一気に風景が変わる。
嫉妬の大迷宮の頂上。何かのバリアが張られていて、重力が地球ほどある。
この月では考えられなかった状況の中で、目の前の男は話を始めた。
「ようこそ、特異点。ようこそ、到達者。ようこそ、星王。」
「ここが君の推測通り、最終決戦となる場所だ。」
「俺を倒せば、迷宮から魔物は溢れなくなる。俺を倒せば、奇特な運命から逃れられる。」
「貴様は何者だ」
「おっと、自己紹介が遅れたね。僕の名前は―――――
―――――大山 たろう。ただの未熟な作家さ。」




