合流
「ねぇ、今日は行かないって約束したからと言って日付変わってから行く馬鹿がいる?」
「申し訳ありません」
現在俺は正座させられている。理由はお察しの通りだ。
「しかも今何時だと思ってるのよ! 一日フリーでお話しし放題だと思ったのに......」
最後のほうまで聞こえてしまって照れくさくなるが、それを顔に出すと紗耶香の怒りというかツンデレのツンというか、その表情が飛び出してくるので口には出さない。
「わかった? もう危険なことはしないこと! 迷宮潜ったらだめよ。わかったわね?」
「わか.....りません!」
あぶねぇ、危うく誘導されて約束を取り付けられるところだった。
「そんなに元気なら明日学校に行けるわね。退院の準備しなさい」
「そ、そんなぁ」
まぁ、どーせもう残すは金曜日だけだ。一日だけなら問題も起きないだろう。
これがフラグだったかのように、翌日、見慣れたメールが届くのだった。
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藍染 拓海 様
新たな十二星が誕生しました。
よって星王会議を行います。
もし参加される場合は、金曜8:00に顔を隠すものなどをご着用の上、下記の場所に止まっている車へとコードネーム 双子座 と名乗ってください。
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うっわ、フラグしかもドンピシャで被って来やがった。これは......双子座に任せるか。もちろん学校のほうを。
記憶の共有は一応できないことはないが、起きているときに行うと情報過多で脳がいかれる。なので寝ている間に一緒にしてしまうのだ。が、本体側が寝ないと分体側の情報をもらえないので、至急の案件などを共有することができないのだ。
なので、あっちにできなくて俺にはできる呼び出し機能を用いて、最悪の場合は対応する。
別に分体が学校行ったってばれやしないだろう。
俺は心の中で紗耶香に謝りつつも、明日の星王会議に向けて装備を整えると、いつもより早めに床についた。
翌日。少し早めに起きた俺は、双子座を呼ぶとそれぞれの行動を開始した。
俺はさっさと飯を食って、装備をつけていつも......とはいっても、二回目なのだが、以前車に乗った場所へと向かう。
その間、双子座は制服に着替えて、学校へ向かう支度をしていた。
何もないことを祈り、以前と同じように車に乗った。
何もすることがなく、これ以上にないくらいに暇だったが、無事到着した。
前と同じ会議場だが、前回と違うのは、俺が到着した順番が最後ではなかったところだろう。
爺さんに案内されるがまま、俺は双子の天使が描かれた扉をくぐった。
中にほとんど何もない空間。あるのは小さな机とソファだけである。
仕方がないので俺はそこに腰かけ、最近溜まり気味だった小説の消化を始めた。一昔前までは異世界ファンタジーとかが主流だったのだが、最近は現代の学園ラブコメが注目を集めている。というのも、肝心の現代がこのファンタジーっぷりなので異世界ファンタジーの人気が薄れてしまった、というだけだ。昔から根強いファンを獲得していた作品が生き残り、最近出てきたような新タイトルは消えてしまったのが少し悲しく感じる。そういえば、VRゲームとかも人気だっけか......
携帯を開き、ブックマーク欄からお気に入りの作品の最新話までを読み終えて、新しい作品発掘へと向かう。
何個かブックマークをしたところで、メールが送られてきた。
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拓海くん、おめでとう。
やっとあなたも到達者へと至ったのね。一応あなたに確認してきたわ。
本体の貴方はどこにいるのかしら?
それは置いときまして、到達者たちの集まりが月一度あるから、ぜひ来て頂戴。明日の九時、駅前の喫茶店集合よ。
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「マジかよ......」
会長からだった。やはり会長も到達者だったらしい。俺は鑑定を持たないためにそれに気が付けなかったが、一度見せてもらったステータスはその印象を確立するためだったのだろうか。それだったらなかなかの策士だ。
しっかし、到達者まで会議とは。星王会議を見ていると何を話すのか結構疑問ばかりなのだが......
まぁ、いいだろう。
と、そのときノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します、会議を始めますので、準備をお願いします」
「わかりました」
『のうのう、今日は戦うのかの?』
「今日はないだろう」
推測を口にする。確か前回#魚座__ピスケス__#に勝って、序列があいつよりも上になったはずだ。それで新入社員は序列が一番低いやつと戦うから、俺は戦闘なし。
『そうか.....』
どこか残念そうだ。
『実は今日、神殺しの弾丸の詠唱を教えようと思っていたのじゃが......時間もなさそうだし、肝心の弾丸もないし、できそうにないの!』
ちょっと待て。
神殺しの弾丸に詠唱がいるってことが初耳な気がするんだが。
『言っておらんかったかの。まぁまぁ長いから覚悟するのじゃ。撃つ機会がないに越したことはないのじゃが、撃てないのと撃たないのではわけがちがうでの。また時間があるときにでもするのじゃ』
「そうだな」
俺は魔銃を直し、装備を整えると、会議場へと向かった。
「あー! やっと来たー!」
その明るい声が聞こえたのは、奥に置かれた九つの席に座っている一行からだった。
「皆さん、お待たせしたかしら?」
「いーや! 待ってる間も結構楽しかったよ!」
そう元気に話す茶髪を後ろでくくった女子。
他も、何かのゲームのオフ会のような雰囲気だった。
会長と俺は、空いていた二つの席に座る。
「それじゃ、はじめましょっか。まずは......なにからする?」
会長が段取りを聞いている。もう未来が見えているだろうに、それを言わないのは何かの楽しみなのだろうか?
「情報共有からでいいんじゃないか?」
そういったのは何かの格闘技をしていそうな体つきの男性。
「そうね。そうしましょう」
会長はその意見に特に反対せずに、話を進める。
「到達者のジョブについた人は、百階層にある試練の間にて、試練を受けることができる。クリアしたら、人間をやめて、理の外側の存在となれる。ここまではいい?」
「よくないです」
間髪入れずに俺はそう答えた。
「ということは、心に偽装系スキルを使っているわね」
すぐに答えた会長。その通り、俺は心を読まれないように改竄で閲覧された時の情報を書き換えている。しかし、なぜ?
「まぁ、わかったのは私のスキル『#世界演算__ラプラス__#』なんだけどね。あぁ、拓海君には『予知』だって言ったそれだよ」
元から、あのデータは隠されているだけでなく、書かれている情報ですら嘘だったのか。
会長は俺の心の内を読めないまま話を続ける。
「それで、世界中の人の行動、思考、そういった次の動きを決定するものをすべて計算して、そのうえで未来を推測する、ってスキルさ」
「それ、どんだけ知力いるんですか、やってることがおかしいだろ......」
「そうだね、知力が百万を超えたあたりで百階層をクリアしたから、最低ラインはわからないんだけどね。っと、話を戻そうか。」
そう前置きをして、会長は話をつづけた。
「私のの推測だと、あの部屋は神ですら意図して作ったわけではなさそうなんだ。その証拠に、あの部屋では一切のスキルやステータスが効果をなさない。」
「質問なんですけど」
「どうした、拓海君」
「何処の百階層へと行ったらいいんですか」
日本どころか、世界も併せて万は下らないとされる迷宮の、どこの百階層が正しいのか。その疑問は当たり前だろう。
「大迷宮じゃなかったら、どこでもいいよ、というか、大迷宮は一階層しかないから、階層のある迷宮ならどこでも、ということかな。」
「何処でも?」
「そう、どこでも。地上に開いた門は、アリの巣の先端についたようなものと考えて。その門の先は最初こそ違えど、最後は同じ出口へと収束している。そういう構造なんだ。転移台座とかそのあたりの説明は長くなるから聞きたかったら後で聞いて。まぁ、どこでもいい」
そう、結論をもう一度行って締めくくった会長。俺はとりあえず何処でもいいと聞けただけ御の字ということで、椅子にもたれかかった。
「最初からその質問とは、結構飛ばすねー!」
そういったのは、先ほどの茶髪の女の子。
「そうか?」
「そうだよ! 大抵は「なんで呼ばれたんだ?」とか、「会議って、何について話すんだ?」とか聞いてくるのに!」
「まぁ、大体知ってるんで」
少し得意げに言ってみる。
「えぇ! じゃあ言ってみてよ!」
「えーっと。夏の初め、来るべき日が訪れる。この運命は不変である。遥か彼方より送られた戦士は、この地球を侵略する。防ぐためには、十三人の星、九の到達者の二十二人で迎え撃て。みたいな?」
「完璧だよ拓海君。しかし、それはどこで聞いたんだ? これは一部にしか公開されていない国家機密なのだが」
一気に重圧が俺にのしかかる。
「このことにかかわっているのは、九人の到達者だけじゃないだろ? たぶんだけど 乙女座当たりに直接会わずに伝えてるんじゃないのか?」
星王会議の時にその話をしていた時、天秤座はそれを誰かから聞いたという口ぶり。そして 乙女座以外も同じような、それは聞いた、という表情。
唯一これまで話をしていなくて、その話を聞いているときだけ緊張していた 乙女座ではという推測だ。
「そうです。私は 乙女座を名乗るものに確かに間接的に伝えてます。となると、あなたは?」
推測は当たっていたらしい。
返答をしたのは、今まで布で顔を隠し、一言も話をしてこなかった人だ。声が高く、女性であることは容易に想像できる。
「あぁ、そっちで聞いた」
「皆さん、この方は敵ではないです。安心してください!」
その声を聴いて、かけられていた重圧が霧散する。
「説明を端折りすぎですよ。一からしっかり説明してください。私も間接的な接触以降、行方をくらまされて困っていたんです」
「はぁ、わかりました。私は昨日、ある会議に行ってました。星王会議と言って、十三人の星を集めようとする会議です。私は双子座、まぁ、二人になる能力を使えるので、会議に出席してたんです」
「まさか、拓海君が星のほうも所属しているとは......」
「それで到達者も? すごいね!」
「でも、魔力特化はいいけど、属性魔法使えないし、知力上がらないし.......」
そういった瞬間、会長以外のひとたちがぎょっとする。
「それって......どうやって戦ってるの?」
「そりゃあ、魔弾したり、魔法刀身したり、鎖で縛ったり」
「魔弾って、あの威力出ない魔法だよね! よく最終職までいけたねー!」
茶髪っこになぜか感心されている。
「あれ、でも人数の計算が合わなくない?」
そういったのは茶髪っ子。
「そうか? あっていると思うのだけど」
会長は何を疑問に、と聞き返す。
「だって、十三人なのは、きっと拓海くんが二人になるから、でしょ?でも、二人になる拓海君がいるこっちは十人じゃないよね?」
「確かに。それはどう説明できるのかしら.......」
「単純に、ステータスとして九つってだけじゃダメなんですか?ほら、こいつ、ステータス上では双子座になってましたし、俺と魔力共有なんで、到達しているわけではなさそうですし」
「まぁ、それでいいと思うわ。そこまで運命に大きくかかわるわけでもなさそうだし」
「運命?」
「それは私のスキル『運命の声』です。避けられない定めを、そしてそのあとの分岐、そして分かれ道と、その先を教えてくれます。第二章はそれだったんですけど、聞いていないですか?」
「あいにくと、天秤座がめんどくさがったせいで」
はぁ、と俺はため息をつくしかなかった。
が、今日の収穫としては上々だろう。
なにせ、話せると思っていなかった人たちに、星王のことを話せたのだから。てっきりきょどると思っていたからな。俺自身。
翌日。今日は日曜だ。今日は俺と天秤座、そして会長の計らいによって、百階層まで行くこととなった。
「今日は勢ぞろいだな......」
俺の感嘆。ここが初めての顔合わせとなる。
「まぁ、いいじゃないか」
そう会長は落ち着いて答えた。
「それでは、到達者代表、飯塚だ。そちらの代表は.......」
「私が行こう」
前に出たのは天秤座。
「私は天秤座と名乗るものだ。まぁ、星サイドのお母さんとでも思ってくれ。今日は、よろしく頼む。」
「こちらこそ。それにしても、結構な偶然があったものです」
「本当だ。まさかどちらも条件が百階層踏破の条件が課された技があるとは。」
そうなのだ。どちらもあるのを俺が知ったので、これを提案させてもらった。
今日集まれなかったメンバーもいる。が、未習得者は大抵来ているので結構な戦力向上になるだろう。
「では、出発する。そうだな。八十階層からレイドを構成して向かおうか。」
「それが良いと思います。では、進みましょうか」
八十階層から、化け物の集団の進軍が始まった。
「それじゃ、消耗を抑える意味でも俺に任せてください」
俺がそう申し出る。
「それじゃあお願いしようかな」
「そうですね」
任されたので、俺はリモートマジックで弾幕をみんなの周囲から放出する。
この程度、魔力の最大量が一気に増えたために、この程度なら問題なくなった。
「これをしても大した消費がないというのか......」
「そうですね、これでも回復のほうが多いというか、もう知力の処理が間に合わないので、そもそも減るほどの魔法が使えないんですよね......」
もう放出も間に合わないため、魔力譲渡をフルにかけてそのうえで俺もバカスカ使うしかない。
「魔力がこれだけ自由に使えるなら、今試し打ちとかしても?」
「大丈夫ですよ、けど、最大値が増えてるわけじゃないので気を付けてください」
それを聞いた瞬間、周囲が焼け野原になった。
「みんななかなか飛ばしますね......これなら、自由気ままに進みますか。最近言ったので道覚えてますよ」
「いや、ここはクイックを使おう。」
移動速度が単純に早くなる魔法を全体にかける。
いつもなら体感速くなったぐらいなのだが、門まで一気に走っていけた。
「これで良し。どうだ?」
「俺が道中処理する必要ありました?」
「それは......まぁ、気にするな」
門をくぐり、先へと進む。
ここから先は、双子座が死んだ場所だ。
記憶共有で見たのだが、そこら辺に出てくる敵がアルファだらけだった。
俺が行って二人でも、きっと死んでいただろう。
が、こちらもまたピーキー集団である。
ものともせずに敵をつぶしていく。
そのまま何の苦も無く到達してしまった百階層。
「それでは、行きましょう」
会長のその声に、反対するものなどいなかった。
門を開く。そこにあったのは巨大な木であった。
「これが、試練の間......」
その声から被せるように、会長は言う。
「鑑定結果。世界樹ユグドラシル。敏捷ゼロ、つまり動けないが、その代わりにレーザービームをはじめとする魔法を放つ。弱点は火だ」
それを伝えた会長。
それを聞いた瞬間、後ろから魔法が飛び出す。
しかし、大きなハニカム形状をつなげた障壁がそれを防いだ。
俺も二人になって弾幕を放つ。
しかし、それもダメだったようで、威力が分散している攻撃だとだめそうだ。
しかし、ラノベを読む人ならだれもが知っているだろう。
ハニカムの弱点は、貫通系と相場が決まっている。
よし、貫通攻撃を......と思っていたが、よく考えると、今していた攻撃はすべて貫通攻撃だった。
「俺はお荷物のようです。魔力タンクらしく補給するので、攻撃、頼みます」
俺一人だときっとクリアできなかっただろうから、助かることこの上ない。
一気に消費が増えた。が、俺の魔力はまだ尽きない。
こっちが攻勢なせいだろう。敵はレーザービームを放つ様子がない。
「私が行きます」
そう言ったのは蟹座。一気に前に出ると、双剣をクロスさせる。
「我求ムハ絶対ノ審判!『 蟹星ノ神罰』!」
そういった瞬間、はさみのように剣の刃を構える。
その瞬間に、大きな蟹のはさみが現れる。
そして、一瞬。
その瞬間、はさみが閉じられ、巨大な世界樹が上と下で両断される。
「これが奥義です」
「ほう、君はもう百階層をクリアしていたか。攻め手にかけたから助かった。」
倒した瞬間、未到達者と自己申告していた人がどこかへと飛ばされていく。
例にもれず、俺もまた、転移の光に飲み込まれ――――――
・奥義 『双子星ノ神罰』を習得しました
・スキル継承 魔力置換 魔神化を習得
二つを習得した声が聞こえる。
そのまま、俺たちは入口へと戻されていた。
「お疲れ様。技の内容は聞かない。各自、使えるようにしてくれ」
「それでは、ここで解散としましょうか」
二人の代表の言葉で、あっけなく百階層を攻略したチームは解散となった。




