雪山
一気にアルファポリスへ追い付かせ、ラストを一緒に迎えさせたい!
その勝手な願望で、更新ペースを崩し早く投稿すること、ご了承ください!
既に双子座が最高速度で進行していたため、進んで八十一階層からの攻略だ。
ここまで攻略が早かったのも、七十階帯が迷路区域、とも言うべき地区で、とても入り組んでいるうえに、魔物一体出てこないので一瞬の隙で迷子になったら最後、飢え死にがほとんど確定してしまう。スキルで生み出された双子座に空腹という概念があるのかどうかは甚だ疑問だが、彼に聞くほどでもないと疑問を捨てる。
八十一階層は、雪山フィールドだった。
最初の門の場所ですら勢いよく吹雪いているのに、さらに目の前にいかにも標高の高い山がそびえたっている。
吹雪いて門、埋もれないのだろうか。
じっと見ていたが、埋もれる様子はないので先に進む。
標高が高い山、なので、複層タイプだろう。
複層というのは、単純にいくつかの階層を統合して一つのフィールドとしているこの階層は、大きさも強さも階層分だ。この場合の強さとは、単純な個の力だけではなく、数の強さ、罠の強さなどもである。まるでダンジョンマスターなるものが限られたポイントで作っていたが、満足できずに階層を統合したように。
そしてこういう一つの階層に巨大な一つのフィールドが展開されている階層で、なおかつ階層が深ければ深いほど、出現するある魔物がいる。
階層徘徊型ボス
つまるところ、最初のようにボス部屋が設置されているわけではなく、広大なフィールドの、さらに吹雪で視界が悪い中、一体の強力な敵を探さねばならない。
門自体は別のところにあるのだが、通行証のようなものを手に入れるためにボスを倒す必要がある。
吹雪の中、俺はあまり使えない視野を頼りに探す。
降り積もっていく雪一つ一つに魔力が含まれているため、魔力を見て探せない。また雪のせいで感覚強化も狂わされる。
仕方がないので、魔弾をやたらめったらに撃ちまくって当たってこっちに来るのを期待しておこう。
周囲に魔弾展開。射出開始。
一レベル上がるごとに今までが馬鹿らしく感じるほどに魔力が上がっていく。さすがは最終職というべきなのか、それとも単にこの職業が特別おかしいのかまではわからないが、この程度の魔弾なら撃ちまくれる自信がある。というか、この程度ならいくらでも撃てる。
というのも、昨日寝ている間にスキルの進化条件を満たしたようで、有り余った、というよりスキルを獲得してもデメリットが発生するかよくて効果のないスキルの大群のため手を付けられなかったポイントを使用してスキル進化を実行した。
獲得したスキルは『改竄』と『魔力割合回復』だ。
『改竄』は名前の通り、何かをいじれる。その何かの対象に、ステータス表示はもちろん、果てはスキルの効果や挙動まで選択できるという、なんというかチートできるスキルだ。
そのスキルの参照ステータスに知力と器用と莫大な魔力を要求してこなければ。
今の俺のステータスだとせいぜい今までできたことを同じようにこなすとか、魔眼の幻術補助ぐらいか?幻の動きとかいじれるぐらいなのでそれこそ使い道を問うレベルなのだが。
それともう一つは、こちらも名前の通りで、魔力が秒間全体割合の一パーセント回復するというものだ。
これが穴だった。俺のレベルは10。そして一レベルにおおよそ百万ほど容量が増加し、初期の百万と合わせて今は一千万。
その一割というのだから、.......十万? あれ、思ったより強かった。
何はともあれ、一秒間に一万の魔力を込めた魔弾を十発射出しても、魔力の回復が追い付いてしまうわけだ。
しかし一万の魔力を込めた=一万ダメージというわけではなく、そこに魔法陣の練度や距離、当たった場所はもちろんのこと、果てには相手のステータスも計算に含まれた結果、ダメージが確定するわけで、もはやこの階層において一万込めた魔弾では雑魚でも倒すことはできないだろう。当たったところが急所だったりすれば五メートル二発ぐらいで倒せるか。
とか考えながらも撃ちまくる。とりあえず目標はあの目の前にある標高の高い山だな。
とはいっても見えているものが本当に山なのかわからない。もしかすればあれは山形の魔物(決して都道府県のほうではない)かもしれないし、今見ているものが幻覚かもしれない。まぁ、幻は幻使いには効果薄いっていうし、大丈夫だろう。
俺は歩きにくい雪の中、地面を踏みしめて、山の頂上を目指すのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
慣れない足場と気温の低さに体力を奪われ、未だ高い頂上。正直先に山のふもとを探せばよかった、と後悔するところもあるものの、結局いつか上ることになるのだ、と己を奮い立たせる。
『のうのうのう、敵もいないしおはなししようぞ!』
こいつには迷宮内では敵に気づけないからと、少し静かにしてもらっている。まぁ、今くらいはいいだろう。少し退屈していたくらいだし。
「んで、どうした?」
『どうしたも何も、お話ししたいだけといったろうに』
マジで雑談したかっただけらしい。まぁ、ちょうどいいだろう。
『そういえばおぬし、いっつも「まぁ」っていっておるの』
そうか......いや、そうかもな。確かに、そう言っているのは多いかもしれん。まぁ、だからと言ってなんだ、という話だが。
『また「まぁ、」って言っておるぞ、もう立派な口癖じゃの!』
うっわ、やらかし申した。これでは口癖って認定されても文句が言えないじゃないか!
っと、もうこれだけ進んだのか。やっぱり気を紛らわせるのも大事か。警戒を忘れない程度に話しするか。
『そうじゃ、あれのことなんじゃが』
あれってなんだよ......
『あれとはあれなのじゃ!あの―――――
魔弾を撃ちながらも、魔銃と珍しく会話に興じるのだった。
山の中腹についたころ。
話をしていたが、その圧倒的な威圧感に俺は戦闘モードへと切り替えをする。
魔銃もそれを感じ取ったのか、今までしていた話を中断した。
『おぬしに話したか忘れたから今言うぞ、わらわも体がこんなとはいっても、生きている。だから、限定的ではあるもののステータスが発生しておる。そしてわらわはついに、鑑定を取得したのじゃ。今からでもつかおうかの?』
聞いてねぇよ、しかもそれ、場合によっちゃ生命線じゃねぇか。
でも、俺が習得できなかった鑑定が使えるというのは結構でかい。敵の情報を知ることができるというのは、つまり最初から敵の手札を知っているということだ。その情報の有利は挙動の警戒につながる。俺こそスキルというスキルがパッシブ発動、アクティブは補助が多いため動きに制限はないが、一部のスキルには決められた動きが存在する。
有名どころを上げたら、勇者の必殺技『〇〇斬』(一人ひとり名前が違う)とかは、上から下へと大きく振りかぶるという動きをしないと、スキルがそもそも効果をなさず、ただのド派手なエフェクトだけになってしまう。
ともかく、挙動を警戒するためにも、ステータスを鑑定してもらおうか。
『すまぬ、レベルが足りんかった......視れたのは、あの目の前にいる敵の名だけじゃ』
なんだと!? って、それは当然のことか。なにせ鑑定は偽装などの影響も受けるが、レベル差があると情報をそもそも読み取れない。魔銃はステータスが発生しているとはいえ、鑑定レベルが低い。この階層の敵相手に名前を読み取っただけ御の字というものだ。
「それで、名前は?」
どんどん近寄ってくる目の前の敵。
『あやつの名は―――――
吹雪にさえぎられてよく見えなかった姿が露になる。
白い体毛を纏い、二足歩行をしている。鼻が青く、しかし顔は赤い、身長五メートルは優に超えるその身長。
その名は......
―――――アルファイエティじゃ』
アルファの名を持つ魔物は、まだ未知数なことが多いが、一つ確定していることがある。それは基礎ステータスに重きを置いているということだ。その代わりスキル、それも動きが制限されるスキルは特に少ないらしい。
こいつは見た目筋力特化だが、見た目でだましている線もあるだろう。どう来る!
そう考えていたところで、アルファイエティの体がふっと消えた。
敏捷特化とは、俺の一番苦手なタイプかよ!
俺との相性が特に悪い敏捷。それもそのはず、とらえられない敵に対してどうやって弾丸を当てるというのだ。
そろそろ拘束系魔法覚えたいなぁ、でもあれ文字はともかく強度が難しいんだよなぁ......
足の速い敵に対してはその足を止めることが有効だというのは誰でも思い浮かぶだろう。そもそもの魔法の命中云々は置いといて、それが一番取りやすい対策であることは間違いない。
やはり、とらえられたら、の話であるが。
今俺の周りをぎゅんぎゅんと雪を巻き上げ風を起こして走っていくアルファイエティ。
いつ、どこから攻撃してくるかわからない、とでもしたいのだろう。しかし、その攻撃に弱点があることはもう考えついた。
「お前がずっと俺の周りをまわるのなら、魔弾を射出せずにとどめて置いたら果たしてどうなるのだろうか?」
そう言ってやったが、アルファイエティはもちろん人語を理解できないので、げらげらと笑いながら回っている。時たま聞こえてくるむせた音がこいつがどれだけ考えなしかを如実に表しているとさえ言える。
俺は確実に倒すため、魔力を一気に千万ほど込める。
千万の魔弾と聞いて強そうだと思うだろうが、実際は弱い。
というのも、比較対象が千万の魔力を込めた上級属性魔法だからなのだが。
同じ魔力の消費でも、威力の差ができるのはわけがあるのだが、今はいいだろう。この比較的弱い魔弾で倒せるのだから。
アルファイエティの走っている道の上に魔弾を構える。
大抵のことではびくともしない魔弾へと、豪速のアルファイエティが突っ込んだ。
「ギョオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!」
醜い叫び声をあげながら、アルファイエティは胸元に魔弾をめり込ませて倒れた。
そして霧となっていくそれを見ながら、俺は反省を行う。
まず、敵があれだけ油断をしてくれたから俺は生きている。あいつが見つけてすぐに俺を殺そうとしていたら俺はなす術がなかっただろう。まずはそれに対する対策。
次に、中遠距離タイプといってもいい魔弾戦闘なのに、ここまで接近を許さないといけないこの地形に対して対策だ。
そしてやはり、俺の特化型ステータスは上をとれないと負ける。上というのは単純なレベルやステータスもあるが、戦いにおいていかにペースを握れるかにかかっている。
実際、今のアルファイエティは俺に対してペースをとったつもりでいたのだろう。雪の抉れかたとかでどこにいるかばれてしまい、結果半分自滅のような形になってしまったが、あの戦い方は雪でなければまだ有効だ。しかしその時は、まだイエティと呼ばれているかどうかを先に議論したほうがよさそうだ。
これから山を登るのもなんだし射出で飛んでもいいか
と考えたがその考えをすぐに捨て去る。
風の音に交じって聞こえる、大量の鳥の鳴き声。
なんでこんな寒いところに鳥がバカスカ湧いてんだよ、もっとあったかいところの住民じゃないのか! 渡り鳥とかいるんだし、迷宮くらい空を自由にさせてくれよ!
まぁそれはともかくとして、いくつかの反省点に対してどうにかして解決しないと百階層がしんどそうだ。
『わらわにも考えさせてくれ、もうおぬしが死ぬのはみとうない』
魔銃も対策法を考えてくれるらしい。俺もなにか案を出したいもんだ。
対策を話しながらも、俺たちは着実に山を登っていく。
空の鳥と同じ高度を歩き、何度も空に拉致されかけたが、何とか頂上へとたどり着いた。
どこか達成感のようなものを感じながら、しかし極寒の風に吹かれているところで、そいつは現れた。
氷の鳥、というべきなのだろう。造形は完全に不死鳥なのだが、氷というのはあまり聞かない。
不死鳥といえば消えない炎だろうが、こいつの場合は溶けない氷なのだろうか。そんな想像をしたところでそこまで戦闘に何かあるわけではないが、間違いなくこいつはボスだろう。
「キュォォォオオオオオ!!!」
敵の雄たけびを受けたからだが竦む。だが、ここで恐れては結局死だと己を奮い立たせる。
『名前すら見えなかった、さっきのアルファイエティよりも格上じゃ』
その報告を受けたが、身体的な特徴を見ても変異種にもアルファ型にもその他の特殊な変化の特徴もない。つまり、こいつはステータス上種として確立しているということ。それは、先ほどのアルファのような変化のない、王道のステータスをしているということ。
俺は一気に距離をとり、魔弾を撃ちまくる。
しかし、固い氷の体の前には、俺の魔弾は屁でもないらし、一歩も動かずにその場に立っていた。
「そんなのありかよ!」
俺は一気に距離をとり、二丁拳銃を構えると魔力が減るのをお構いなしにさらに多くの魔力を込めていく。
しかし、奴は一歩も動かない。まるで、お前に勝ち目はないとあざ笑うように。
本当に武器がないか?いや、ある。魔弾に魔力をフルに込めれば倒せるだろう。しかし、当たらなかったときのリスクや当てたとしても残心をしてきたときの対応ができない。
しかし俺が撃ちまくっても俺が消費していくだけなのは間違いない。
さっさと俺は一発に魔力を込めて一発の魔弾を作り出す。
これを遠距離で当てるとなると威力不足の可能性が否めない。撃つなら接近してだろう。
俺は一気に先ほどまで開けていた距離を詰めていく。
奴も俺の魔弾に気が付いたのか、口から青いレーザーを放出しだした。
青い氷のビームは雪を氷に変えながらも俺に迫ってくる。
それを紙一重で横にそれることで回避したが、態勢を崩したせいでこれ以上詰められない。足元が雪のせいで、これまでの登山も含めて疲労が結構溜まっている。
ここで撃ちだすか、と考えていたがその考えを切り捨てて倒れ込み転がる。
第二射のレーザーが撃ちだされ、先ほどまで俺のいたところを撃ち抜いていく。
横に転がったことで少し距離が縮んだ。これで当てられれば!
横に転がったため、不格好な状態だが、完成していた魔弾を撃ちだす。そこにある細工を仕掛ける。
奴は俺の魔弾を目でとらえたらしく、横にかわそうとする。
しかし、俺がそうはさせない。
「操作!」
操作を魔弾にかけることで、微妙に射線を撃ちだした後から変えられる。
回避できないと悟った奴は、俺を呪い殺さんとする目でにらんできた。
すると、目から赤い光が放射された。こいつ、どこまで行ってもレーザーだいすきかよ!
とかいうのは置いといて、結論から言うとレーザーが貫いていったのは幻によって作り出された俺の幻影だ。
しっかり魔弾を撃った後の残心まで対応できるよう、回復した魔力をやりくりして魔法を発動した。
それが功を奏したようで、醜い断末魔を響かせながらも体を霧に変えていった。
これで俺たちは、おそらく最後、九十階層までの転移台座の登録を済ませることができたのだった。
さすがにこのまま先に進むほど馬鹿でもないので、双子座を残して俺は帰還するのだった。
冬とは言え先ほどの雪山に比べたら暑い日本の外気に触れ、俺はそのむわっとした暑さにイラつきながらも、安心感を覚えていた。
このまま百階層に行って。『来るべき日』について知るんだ。まだ見ぬ景色だってあるだろうし、それに!
その好奇心が抑えられなくなったところで、いつもなら起こりえない感覚が俺にやってきた。
双子座が死んだ。
俺が迷宮から出てまだ一分も経過していない。魔力も倒してから数分待って普通に考えたら異常と言われる量は回復できたはずだった。
しかし、俺の魔力は一気に底につき、しかも双子座は倒されていた。
体感で確かに一気に減ったがまた回復し始めたから順調と思っていたが......逃げていたのか?
これからの攻略で、もしかすると......
その考えが頭をよぎるも、きっといけると己を励まし、一度病院へと向かうのだった。




