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魔力極振りの迷宮探索  作者: 大山 たろう
第五章 試練
27/33

急いで

 この魔力量、そして俺の手札では、この相手には勝てない。


 元から、運がよかったのだ。


 魔弾がそこまで使い勝手がいいのなら、もっと使用者が多くていいはずなのだ。


 しかし使用者が少ないのは、単純な威力不足という大きなハンデがあるからである。


 それを魔力のごり押しで強化していたが、それは完全にデメリットが消えたわけではない。


 ほかだってそうだ。


 俺の魔法をはじめとするすべての戦い方は、魔力効率を無視している。効率を無視するとどうなるか、それは魔力が切れる、もしくは魔法を使えない状況になったときが俺の終着点。


 それはいつも肝に銘じていたはずだ。


 しかし、いつ肝に銘じても、勝てないものは勝てないし、できないものはできない。


 これだから、一点特化タイプの探索者は。ただただ己のやり方を貫くことで強みを発揮するそのやり方は裏を返せばそれ以外となると一気に弱くなると同義。


 守りたいものすら、守れない。


 こんなの、いくら何でもひどすぎる。


 もっと紗耶香と話をしたい、もっと手をつなぎたい。もっとその笑顔を見たい。


 もっと―――――




 ずっと、一緒にいたい、それだけなんだ。



 だから、俺は排除する。


 紗耶香を傷つけるもの、仇なすもの、泣かせるもの。


 紗耶香の敵は、俺が排除する。




「うおおぉぉぉぉぉぁああああああ!」


 俺は、ただ最後の最後まで魔力を振り絞る。


 どこか弱点だの、どこが能力の根源だの、そんなことは聞いちゃいねぇ。


 ただ、俺の矛で、すべてを貫く。


 ただ、それだけだ。



 右手に持っていた魔法銃の銃口を向ける。


 相手も俺の最後の攻撃だと分かっているのか、構えてくる。ただ、その力を正面から打ち破って、その心を折ってやらんとばかりに。



 ここでドラゴンが速効できる魔法を撃っていれば。ここで障壁を張っていれば。未来は変わったかもしれない。少なくとも、ここに運命の強制力は働いていなかった。


 そして未来は一点の現在へと収束する。



「『魔弾』!」


 そこに生成されたのはいつものように見ていた魔弾。どうやらドラゴンも見えているらしく、それに合わせて口に魔力をためていた。ブレスを吐くつもりだろうが、そんなもので倒させやしない。



 引き金を引いた。いつもの数十倍込めた射出は、俺の眼に残像だけを残して飛んで行った。


 しかしそれすらドラゴンはとらえていたらしく、おおきく息を吸うと、それを吐き出した。




 魔力の込められた大きなブレスが、電気を纏って放出された。



 一点に魔力を込めた魔弾と、拡散された巨大な波のようなブレスが襲い掛かった。



 準備万全の敵にかなうはずもない、だが、せめて相打ちに。


 魔力が切れ、新たな俺を生成することもできなければ、指輪による蘇生もあの継続攻撃の前には無駄に終わるだろう。


 それでも、紗耶香のもとへは、行かせない。



 その覚悟を持って、抜けかけていた銃を持つ手に力を込めた。


 しかし、予想は良い意味で外れていった。


 ドラゴンの頭に、穴が開いていた。




 魔弾が波の中を貫通し、ドラゴンの頭を直撃したのだろう。



 一瞬で頭をつぶされたドラゴンはブレスを維持できず、俺に被害は来なかったようだ。



 なにはともあれ。


 紗耶香を......





「......ん」


 どうやら、寝ていたらしい。寝てなかったのと、最後まで魔力を絞り切ったことが災いしたのだろう。......って、知らない天井するの忘れてた! 起きたとき頭が回らないのはいつもだな......


 知らない天井というか、しらない部屋を見回す。


 俺はベッドの上で寝ていて、壁も床も天井も白い。そしてそばには紗耶香が寝ていて......って、紗耶香!?


 俺がびっくりしてベッドから転げ落ちた震動で、ベッドにうつぶせになる姿勢で寝ていた紗耶香も目が覚めたらしい。


「拓海! 起きたのね!」


「う、うん。結構寝てすっきりしたよ」


「そりゃそうよ、だってあなた、丸一日は寝てたのよ!」


「丸一日!?」


 となると、たしか夜は二回明けたのを見たからドラゴンとの戦闘が火曜日。そして倒してから一日だから......もう水曜日か。ここまでくると、もう一週間全部休みたい。


「一週間休みたい、でしょ」


「う、うん、なんでわかったの?」


「拓海なら、そう考えそうだなって......って、何言わせるのよ!」


 そういうと、顔を真っ赤にして部屋から出て行ってしまった。


 と思ったら、部屋に白衣を着た人が入ってくる。


「体調のほうは、どうですか?」


「あ、えぇ、まぁ、大丈夫です」


「そう緊張なさるな。まぁ、もう少し、具体的に言うと二日間ぐらいはここで様子を見てもいいかもしれん。なに、金はとらん。なにせ英雄様だからな。」


「???」


「ん、どうやら、わかっていないらしい。彼女が説明をしたと思っていたのだが......まぁ、俺の口から伝えさせてもらうぞ。ここは病院、それも探索者が送られてくる病院だ、聞いたことあるだろ?」


「あ、はい」


「それで、丸一日寝込んでいた。原因は魔力失調とレベルアップ酔い、それから睡眠不足だな。ぶっ倒れてからすぐに救急車で病院へ運んで、今はこの通り、ってわけ」


「なるほど」


 俺はまだ回転しない頭の中にできるだけ情報を詰めていく。


「本当にわかったのかね?」


「うん、まぁ、だいたい」


「わかっとらんだろ......また後で説明に来る」


 そう言って、扉から出て行ってしまった。


 さて、独りぼっち、どうしよう?


 暇だしステータスでも見るか。


「ステータス」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 藍染 拓海 人間 男 魔力#堤防__ダム__#lv100

 HP10/10

 MP error

 筋力10

 体力10

 敏捷10

 知力10

 魔防10

 器用10

 幸運10


 スキル

 魔力譲渡lv10

 魔力回復増加lv10

 魔力操作lv10

 支援魔法lv8

 感覚強化lv10

 隠密lv8

 暗視lv9

 狂化(バーサーク)lv7

 幻術眼lv8

 偽装lv8

 罠感知lv5

 双子座(ジェミニ)

 スキルポイント   209



  双子座(ジェミニ) 人間 男 双子座(ジェミニ)lv―――


 HP10/10

 MP―――――

 筋力10

 体力10

 敏捷10

 知力10

 魔防10

 器用10

 幸運10


 スキル

 魔力譲渡lv10

 魔力操作lv10

 支援魔法lv8

 感覚強化lv10

 隠密lv8

 暗視lv9

 狂化(バーサーク)lv7

 幻術眼lv8

 偽装lv8

 罠感知lv5

 双子座(ジェミニ)


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 なんと、四次職がもう最大か。次は五次職、つまり最後だが......どうなることやら。


 そしてついにエラーを吐きやがったこのステータス! もう少し頑張ってくれよぉ!


 まぁ、これで百階層到達を本気で狙えるだろう。


 さて、最後の職業は......また一つか。


 魔の力の到達者


 ほう、今までずっと容量みたいな話してきてたからどうしたのかと思っていたが......まぁ、名前は重要ではない。大事なのはまだステータスが伸びるかどうか。


 とりあえず最終職へと転職をした。


 今までと同じように、職業が変わった。が、そのあとがいつもと違った。


 頭の中にアナウンスの声が響く。


 ・魔なる力の到達者が誕生しました。これにて、九人の到達者は揃いました。


 間をおいて、次のメッセージが届く。


 ・迷宮第百階層にて力の継承を行って下さい。


 出た。迷宮百階層についての言及が。


 俺はここに向かうために、装備を着て部屋を飛び出した。


 しかし、急いで飛び出した俺の足は、すぐに止まることとなった。


「何処へ行くの、拓海......」


 壁に背を向けた紗耶香が、どこか悲しそうな音色を響かせながらもそう聞いた。


「何処へ行くの、拓海」


 紗耶香は、もう一度俺に問う。


「通達。聞こえたのか?」


「うん。私も聞こえてるってことは、たぶん全探索者が聞こえてると思うよ。それで、さっきの。拓海だよね?」


 きっと彼女は聞かなくてもわかっているのだろう。


「そうだよ。だから、俺は向かわないといけないんだ」


「向かうって、どこへ?」


 そうか。二つ目の力の継承のことはきっと俺にしか聞こえてなかったのだろう。それは好都合と言うべきなのか、それとも紗耶香との衝突を避けられないと落ち込むべきなのか。ともかく、俺の心は二つの選択に迷わされた。


 ここで紗耶香に情報をすべて渡すか、それとも言わずに行くか。


 このまま言いなりで戻るつもりはない。しかし、情報をそもそも話せるかは疑問だ。


 あの時は、会長に話そうとしてペナルティを食らったからな。


 しかし、言わないというのは彼女との関係性に亀裂を入れるのは間違いないだろう。


「うん、まぁ.....ちょっと。」


「ちょっとで装備全部身に着けないよね」


「まぁ、待っててくれ、少し行って来るだけだ」


「そう行ったまま帰ってこなかったって話がいくつあると思ってるの? とりあえず今日は安静にしてて。」


「まぁ、そういわずに」


「何度言ったらわかってくれるのよ!」


 彼女の心が限界を迎え、爆発する。


「もう、嫌なの。好きな人を失いたくないの。ずっと一緒にいたいだけなの。迷宮から離れたら、失うことなんてないの。だから、お願いだからここで待っててよ!」


 そう、叫ぶ。

 しかし、できない。


「俺だってそうさ。彼女を失いたいわけじゃない。もう立派な生きる理由になってる。けどさ。もう、迷宮ができる前の世界にはどうやっても戻らないんだ。だから力がないと彼女すら守れない、目の前で失うのを見るだけだ。だから頼む。行かせてくれ。今日じゃなくてもいい。今日は休むから、迷宮に行かせてくれ」


 俺は装備を脱いで紗耶香にそう言った。紗耶香はその言葉を聞いて、納得はしていない不安感と、今日はもう大丈夫という安心感の綯い交ぜになった表情だった。


「とりあえず今日は休んでて」


「わかったよ」


 俺は装備を置いて、部屋へと戻るのだった。


「負けた......」


 俺は後悔していた。

 元より俺は今日ごり押して迷宮へと潜って、百階層を目指すつもりだった。

 しかし、俺は実を言うと万全の状態とは言えないし、休んでおくのは悪くない......のか?


 とりあえず双子座(ジェミニ)に見つからないよう窓から迷宮へと向かってもらった。


 彼も俺の見た内容を知っているようで、俺を見るなりため息をついて去っていった。


 ガララッ


 紗耶香が俺の部屋に入ってくる。


 もう双子座(ジェミニ)が出ていったあとでよかった。

 これなら紗耶香にも、俺にも得のある一日になりそうだ。


 紗耶香の願いもかない、取り合えず笑顔になると思っていたのだが、まだ曇った顔のままだ。


「ねぇ、私たちのこと、姉に話した?」


「いや、話してないけど.......どうしてそこで会長さんが?」


「い、いや、話してないならいいのよ。は、話したらぶっ飛ばすからね!」


「ぶっ飛ばすって......」


 思わず顔がにやけているのが自分でもわかる。急いで顔を戻そうとするも、なかなか戻らない。どうしてもこらえた顔になって、隠しきれている自信がない。


「今、ぶっ飛ばすって言ったことで笑ってるんでしょ」


「黙秘権を行使します」


 すっと冷たい目を向けられたのですぐににやけも収まった。


 俺は少し怠い体を休めるためにも、ベッドに横になるのだった。



 翌日。というよりは深夜零時のためまだ同じ日という感覚が強いが、体もさっぱりしたし、約束も一日休む、だったのでさっさと窓から飛び降りて迷宮へと向かった。


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