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魔力極振りの迷宮探索  作者: 大山 たろう
第五章 試練
25/33

いつも唐突に

 デート当日。


 俺は緊張した結果三十分前に到着してしまった。


 少し寒くなってきて、吹き付ける風が痛く感じる。

 大人しく椅子に座って待っていることにする。


 急に冬って感じがしてきたな......


『今日は迷宮に行かないのか?』


 そう問いかけてくるのは魔銃だ。あの後結構探したら、木陰に隠れてるのを発見した。見つけたとき、


『やっと来てくれたのじゃぁぁぁぁあああ!』


 恐らく体があれば半べそをかいているレベルで大きな声を出していた。


 まぁ、それは置いといて、今日は一応の護身用としてこいつだけ持ってきた。


 ホルスターを本当は作りたいのだが、文化祭騒動と後片付けで結構忘れることも多かった。

 ちなみに今はズボンと体の間に挟んでいる。結構きつめにズボンを締めたからどこかでなくすことはないはずだ。


 モロに風を受けている手を息で温めていると、電車の改札から見覚えのある人が歩いてくる。


 紗耶香だ。


 いつもは制服か迷宮の時の服装で、私服なんて見たことなかったなぁ......いや、そもそも私服で学校の人と遊びに行くこと自体がはじめてだ。


 言ってて悲しくなりながらも、紗耶香のところへと走る。


「ごめん、待った?」


「うーん、そんなに?」


 いつもならテンプレ通りの返答である「いや、俺も今来たところだよ」を使うのだろうが、テンプレ通りの返答をするのも俺じゃない感じがしたからか避けた。


「それじゃ、行こっか。」



 二人の、デートが始まる。




「まずはどこ行く?」


「どこいこっか?」


「とりあえず、のんびりいこっか。」


 その一、女子の「まずはどこ行く?」質問は「ここ行きたいけどいいよね?」という本音の裏返し。


 なので俺は彼女の横にいるのだが、行く先は彼女にゆだねている。


 というか、隣にいるクソ可愛いこの子が俺の彼女なんて......考えらえれねぇ。今でも夢を見ているんじゃないかと心配になる。


 すると、急に紗耶香はこっちを「はっ!」と言いながら見てきた。


 ぼーっと眺めていた俺はびっくりしてつい大きな声を上げてしまった。


「ふふ、びっくりした?」


 その太陽のような笑顔を見ると、その天使のような声を聞くと、そのたびに心が震えるような感覚に襲われる。


 惚れた男の弱み、というやつなのだろうか。


 中学の時に置いてきたと思った感情が、ここでくるだなんて。もう中学のあの子に未練はない。ただ紗耶香と一生を添い遂げたい、そんな思いまでこみあげてくる。


 と、そこで横断歩道が目の前で点滅し始めた。小さいとはいえ、信号無視はちょっと初デートでするのは......


 とか考えているうちに紗耶香は俺の前へと来る。


「ほら、行くわよ」


 そう言うと、紗耶香はその左手で俺の右手をつかむと、点滅した横断歩道を走っていく。


 もうすぐ赤になる、通り抜けようとした車にクラクションを鳴らされないだろうか。この光景を誰か知り合いに見られてはいないだろうか。


 そう考えると、どんどんとドキドキしてきた。


 渡り終えたとき、二人は顔を真っ赤にしていた。俺は走ったのが原因ではないが。


「手、握ってごめんね。ほら、行くよ」


 しかし、俺はその手をとっさに握り返す。


「今日は、これで行こう」


 そう勇気を振り絞って言う。恋人ってこんなにも大変なものなのか、と思ったが、この手を放したくないと思ったこの気持ちは少なくとも俺の本心だろう。


「わかった!」


 その横断歩道を渡り切った達成感を出した、素直な彼女の顔を、俺はやっと見ることができた。


 やっぱり、女の子は笑顔が一番って、よく言ったもんだ。


 「あ、ここ行こ!」


 彼女が指さしたのはクラスメイトの間で話題になっているというカフェ。俺は聞いたことないと答えたら、「それは拓海の情報網が限定的すぎるからよ」とド正論を返されてしまった。


 中に入って、注文を頼む。


 俺はコーヒー、紗耶香はコーヒーとケーキを頼んだようだ。


 二人で席に座り、ゆっくりとした時間を過ごす。


 時の流れが遅くなったようで、されど実際はとても早く過ぎてしまう、そんな儚いひと時を堪能した。


 天ノ川も来ないし、誰かが殺しにも来ない。魔力を使うこともなければ、銃を抜くことすらない。


 二人でそんな世界で生きられたら、どんなに楽しいだろうか......

 そんな夢物語を考える余裕なんて、高校入ってからなかったな......


 そのあとも、二人で一緒にいろんなことをした。


 俺は、紗耶香といることがこんなに楽しいと思わなかった。


 俺は、紗耶香がこんなに温かいと思わなかった。


 その太陽のような温かさに触れて、どうしたらいいのかもうわからなくなった。


「俺は、何をしてお返ししたらいいんだ?」


 そう、帰る間際で聞いてみた。


 紗耶香の顔が一気に凍る。しかし、それも一瞬のことで、すぐに笑顔に戻ると


「いつか、私の願い、かなえてね」


 そういうと、駅の改札まで走っていき、「またねー!」と大きな声で叫んでくる。






 きっとその願いは迷宮に潜ることと二つに一つで。


 天秤に乗せて勝てるようになって初めて、願いを言うのだろう。


 もう俺の中では、どっちも同じくらいに大切だというのに。



 もうあの優しさを、手放したくないのに。















 しかし無意識に伸ばした右手は宙をきり、無慈悲に冷たい風が指の隙間を抜けていくだけだった。

















『主よ、どうするつもりなのじゃ』


 魔銃は問う。


「どうって、何がだ」


 魔銃は問う。


『もし、天秤に乗せる日が来たら、どうするのじゃ』


「それは、その時考えるよ」


 しかしその言葉を理解せよと戒めるように、魔銃はその言葉をかみしめるように紡いだ。


『人の命は、昔ほど重くはないぞ?』


 その言葉が胸に、重くのしかかるのだった。








 デート二日目。


 今日はもう行き当たりばったりなところは見せたくないので、ある程度デートコースを考えてきた。


 予定は遊園地だ。

 デート初心者の俺でも簡単にコースを決められて、なおかつ楽しめそうだからな。


 今日も早く来てしまったが、今日はあえて遅れていくことにする。

 そのほうが昨日と違った顔を見られそうだからだ。


 集合を九時半としていたが、紗耶香は二十五分に着いたようだ。


 俺はトットット、と軽く走っていく。


「お待たせ、待った?」


「ううん、全然。それじゃ、いこっか。」


 紗耶香はそういうと、俺の手を握って入場ゲートへと向かっていった。


 しかし、今見ると......


 最初はつんつんしてたやつが、しおらしくなったな......


 なんとも言えない違和感を覚えてしまう拓海だった。


「まずどこいこっか?」


 紗耶香がそう聞いてきたので、俺はまず最初といえば、と前置きを置いてある所へと向かう。


 ジェットコースター。


 数ある主人公キャラの弱点であることの多いこの悪魔の乗り物へと、俺は意を決し乗り込む。


 開園してから間もないからだろう、結構すいていて、すぐに乗ることができた。


 二人で並んでたが、もし分かれて乗ることになったら心細いな......


 しかし、いらぬ心配だったようで、二人で隣どうしだ。


 俺が今か今かと待ちわびていると、紗耶香が手をぎゅっと握ってきた。


 なに、そんな最初とは急変した態度をとっちゃって!


 どうしてもあった当初のツンツン感を思い出してしまう。いうなれば柿の種とピーナッツから急に柿の種がなくなってしまったような、そんな感覚。


 いやなわけじゃない、だが、俺が無理をさせてはいないだろうか......いや、そんなことを心配しても変わらない、ここは気楽にいこう。


 一人で慰めまで済ませるボッチ技術の中級技を披露していく。披露する相手もいないのだが。


「そぉれではー、いってらっしゃいませー!」


 無駄なことを考えているうちに、発射の時刻となったようだ。

 少し特徴的な話し方をする女性が、ジェットコースター発射のボタンを押した。


 だんだんと上昇していく目線と気持ち。


 隣を見て風景を見るふりをして紗耶香を眺めるくらいには余裕がある。


 俺はいろんなラノベの主人公のような感じにはなれなさそうだ。紗耶香のほうはというとずっと前を見てガチゴチに凍っている。しかし泣くほどジェットコースターが好きなようでうれしい限りだ。

 なんて考えているうちに一番高いところまできた。

 紗耶香がこちらを見る。その目じりには涙が浮かび、絶望の表情に顔を染めていた。なぜ絶望......と思っていたが、紗耶香がジェットコースターを嫌いな可能性を失念していた。これは不覚。


 そんな俺の後悔ももう遅く、ジェットコースターの戦いの火蓋が切って落とされた。


 急降下、一回転、急速旋回からの急上昇、急降下。


 そんなえげつねぇ動きをした結果、降りたときに紗耶香はなかなかグロッキーな顔をしていた。口から魂が抜け落ちそうなほどに白くなった顔。しかもよく聞くと小声で「ジェットコースター怖い」とずっと言っている。確かに今回のやつはすごかった。最後のほうは罪悪感九割爽快感一割ぐらいだった。


「ごめん、そんなに苦手だと思ってなくて......」


「いや、いいよ、けどちょっと休憩させて......」


 その言葉にすぐ応じ、俺は予定を前倒ししてフードコーナーに入るのだった。


「ふぅ......」


 どうやら落ち着いたようだ。


「それで? 何か弁明はあるのかしら?」


 叱られているはずなのに、なぜかシナシナの葉物が息を吹き返してシャキシャキになったようだ。少しうれしい。前のような元気を取り戻してくれて。


「あーもう、作るのやめ、やめ。彼女っぽくしようとしたけど、性格に合わない! ずっとこんなのしててみんな正気かしら?」


 先ほど買ったドリンクをチューチューと吸っていく。しかし、作ってたのか、もう紗耶香も入学の時から変わったなぁ......ってお父さんみたいにするところだった、あぶねぇ。この演技力は女子特有なのか、それとも紗耶香の実力なのか、はたまた俺が鈍いだけなのか。最後はないにしても、紗耶香が相当な実力者ってことを覚えておこう。紗耶香すげぇ。


「それで、次行くところは決めてるの? 一応教えてほしいのだけれど」


「うーん、そうだな......それじゃ、ここらへんで昼まで遊ぶか?」


 そう言って指さしたのはメリーゴーランドとかお化け屋敷とかの、ソフトなものの集まったところだ。


「いいわね、休憩にもちょうどいいわ。それじゃ、そこ行きましょ」


「おっけ、行くか」


 俺が立ち上がったとき、紗耶香は「それと」と言いながら俺のほうを見る。


「これから行くところは、先にすべて確認をとること。いいわね?」


 あい、ごめんちゃい。


「この年でもメリーゴーランドは楽しいもんだなぁ、あれ何で楽しいんだろうか。」


 そんなことを言ってみる。しかし「そんなこと知らないわよ」とそっけなく返されてしまった。これだよこれ!ってなんか病みつきになってる感じがする。俺もテンション上がっておかしくなってるのかな......


「ほら、いくわよ」


 適当に時間を潰せて、紗耶香もおなかがすいたようだ。俺たちはさっきまでいたフードコートへと戻った。




 何店舗か店が並ぶ中、俺はラーメンを受け取り席へと戻った。先に戻った紗耶香はチュロスを買ったようだ。それでおなかは膨れるのだろうか、また無理はしていないだろうかと心配になるが、その程度自分が一番わかるだろうと好奇心を抑えた。これがボッチ初級技、無言の構えだ。とはいっても上級者になるほど無言の構えが必要なくなるのだが。っと、紗耶香を待たせないようにさっさと食うか。


 昼食を食べ、ゆっくりしたので、またどこかのコーナーでも行ってみようと思う。


 と思って席を立ちあがったときだった。


「なんだあれ!」


 平穏の崩れる音がした。


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