文化祭騒乱
―――――本気でかかってきなさい」
その言葉に興奮したのか、斥候とほかの面面が会場から降りてくる。
「ま、まて!お前ら三人、ステータスを持っていないだろう!」
そう叫んだのははるか後方にいる天ノ川。光魔法の派生に回復魔法があると聞くし、それで自己回復したのだろう、先ほどつけられていた傷は見当たらなかった。
「あぁん? 本当か?」
「んなわけないでしょう?」
そう言って笑みを浮かべるのは会長。意外とノリノリだった!
そして何を言っているのか理解できないといった様子の天ノ川。この何が何だか、っていう顔を拝めただけで満足している自分がいる。
と、天ノ川をいつまでも見つめているわけにもいかないので、さっさと前を向く。
「開始はこのコインでいいのか?」
「構わないわ」
斥候は確認をとったあと、コインを上に弾く。
軽い金属音が鳴り響く。
やがてコインにかけられた上方向の力は消え、重力によって地面へと引き寄せられる。
と、ここで会長が右手を上げる。
俺たちはその合図に従い、瞬間装着を起動。体に装備を身に着ける。
俺は仮面をつけると、魔銃と司に作ってもらった銃を構える。うーん、名前が不格好でテンションが上がらない。何か名前は......魔弾銃なんてどうだろう。とりあえず一時しのぎだが。
トスッ
夢の二丁拳銃を構えられたことに喜びを感じていたところで、コインが地面へと落ちた。
戦闘開始。
俺は最初からスキルを使用しないと最終職には勝てないことがわかっているので、さっさと双子座を起動し、二人に増える。
「「まさか!」」
そう声が上がったのは後方。片方は天ノ川で......もう片方は治癒の中学生か。治癒の子がまさかって、いったいどういうことだ? 何か心当たりでもあったのか?
しかし、声に気をとられている間に、俺が殺されるのはまずい。
意識を一気に切り替えて、敵を見る。しかし、そのころには俺の目線は上になっていた。
何が、と思ったが、この現象に心当たりはあった。
首が跳ね飛ばされた。
な......にが......というべきなのか、このスローになっているここで俺の人生を振り返るべきなのか。
「まずは一人、チッ、手ごたえなさすぎるぜ、どんな低レベルだよ」
そう言ってまた隠密を起動した斥候。しかし、そのころにはもう復活していた。俺の体は双子座の隣にある。俺が双子座を無限に作り出せるように、双子座も俺を無限に作り出せるようだ。
しかし、左手に持っていたはずの銃がない。どうやら魔弾銃は装備として複製できるらしいが、#知能ある武器__インテリジェンスウェポン__#は生物の扱いなのか、知能があるからダメなのかはわからないが、死体の左手に握られたままだ。
仕方がないので魔弾銃を構える。とりあえず当たればもうかりもの程度の気持ちで双子座と50-50の百発撃つか。
魔弾銃に魔力を込めて、引き金を引いていく。味方に当たらないところ、そして建物や周囲にいる見物人に当たらないように撃ちだす。
しかしやはり当たらなかった。伊達に最終職に到達したまである。
とか思っていると、視線を感じた。
二人で散開すると、斥候が双子座のほうに行って殺していた。
「これで二人......あっちは分体だったって感じか?......ってマジかよ」
斥候は気づいた。 俺の死体が二つあるのに、未だ俺たちは二人いることに。
このスキル、未だにどんな工程を経てこれができているのか俺ですらも皆目見当もつかない。
しかし、これができるだけで十分だ。
魔弾を今度は斥候を無視し、舞台上に残っていた魔法使いと弓使いに撃ちだす。
と、ここで魔法使いは障壁のようなもので防御が間に合ったが、予想外の攻撃で、弓使いは反射的に飛び上がって回避をした。
そのすきを狙って徹が一気に身体強化を施し、先生を抱えると、一度後ろに退散した。
良し、と喜んでいる間にまた双子座が斥候に殺された。
すぐさま双子座を起動し、呼び出す。
「あきらめる気になったか?」
「ふざけんな、これほどたのしい戦いは今までで初めてだぜ!お前が創造師か!」
「いいや......ただの魔力バカさ」
会長は、予知を瞬間的に使用することで、槍使いの攻撃を避けていた。
「あらあら、こんなものかしら?」
「うっせぇ!」
槍使いの動きが一段階速くなる。しかし会長には当たらない。
ステータスの差が絶望的にあるはずなのだが、どうしてよけられているかというと、これも会長の正確性故だろう。
拓海は死んでも死なないようになってステータスの差を覆いつくすほどの物量で押しつぶした。
それに対して会長は、未来を正確に見て、寸分のズレもなくかわして見せる技量で抑え込んでいる。
「こんな化け物みたいなやつと戦えるだなんて、俺は超運がいいぜ!」
「あら、今日死ぬのだから、運が悪いとの間違いじゃないかしら」
槍がいくら攻撃しようとも、会長はいともたやすくよけていく。
「あなたの未来は、もうすでに見えているの」
僕は、盾使いをひたすらに攻撃していた。
大型ロボットで。
「これが創造師の火力か。このパンチは痛いな、痛い。この感覚も久々だ」
「そりゃぁどうもぉ!」
そう言ってまたも右の拳で殴るも、盾でふさいでしまう。
「そんな大きなものを動かして、お前の燃料はいつ切れるのだろうな。」
その盾使いの指摘に対して、司は「ふふん!」と鼻を鳴らす。
「この巨大ロボ、魔法駆動 ツ:カーサのいまの動力源は、魔力精製炉だよぉ!」
「な、あのポンコツがか!?」
魔力精製炉というのは、魔力を何かのエネルギーに変換し、それをまた魔力に戻すという工程を繰り返す装置だ。
そして魔力の変換の時に魔石によって効率を強化すると、百パーセントを超える変換効率を出すことができるという一種の世界のバグを利用した装置だ。
魔石のランクによって性能がおおきく変わったり、貴重な金属を使用したりと、様々な代償こそあるものの、無から有を生み出す、古代の錬金術の解のような装置を、司は男のロマンに積み込んだ。
「ロボット×美少女は世界なんだよぉぉぉおおおお! このロボ二人乗りなんだよぉおおおおおおお! 美少女まってるよぉぉぉおおおおお!」
「何をわけのわからないことを言っているのだ!」
盾使いと司の攻防......というより、司の攻撃と盾使いの防御は、まだまだ続く。
先生を抱えて後方まで一度撤退した徹。
先生は顔を真っ赤にして、涙を流しながらお礼を言っていた。
俺が一番スピードが出るとはいえ、ここまで離脱したのはミスったかな......
とはいえ、それを先生の前で呟けるはずもなかった。
ので、今できることを考える......そういえば。
「あいつら、爆破とか言ってたよな、この学校に爆弾でも仕掛けてんのか? 会長そんなこと言ってたっけか」
特に会長も言及していなかったが、どうしても爆破の二文字が脳裏をかすめる。
「あいつら大丈夫そうだし、いっちょ探しますか」
先生をさっきの治療していた中学生の隣に座らせると、俺は校舎のほうへと足を進めた。
学校の運動場は、なんとも混沌とした空間となっていた。
あるところではロボットが大暴れして、あるところでは死体の山が出来上がっている。あるところでは並木に無数の傷......ここが一番被害としては小さい。
残念ながらそれでも運動場に大きなダメージを残し、戦闘前に戻すにはどれだけの時間がかかるかわからない。
そんな状況下で戦っている者たちを眺める者が、一人。
紗耶香は、後方で障壁を張っていた。
もちろん、見物客が押し寄せてケガでもされたら、というものだ。決して後ろでうずくまっているわけではない。
しかし、その障壁もそこまで強いものではなかった。
拓海の魔弾が一撃でも当たれば砕け散るし、ロボットなんて飛んできた日には障壁をぶち抜かれて潰される自信がある。
それでもせめて後衛二人の一撃ぐらいは防いでやる、と、魔力をしこたま込めた障壁を展開する。
人質がいない今、後衛はどんな行動をとるか考えつかない。
いや、そもそもこんなことをしでかす輩の行動を理解しようとするほうが難しいだろう。
しかし、二人はどこかに連絡を取った後、巨大な魔法陣を展開した。数秒後、その魔法陣に乗っていた二人はどこかへと消えていった。
恐らく希少な適正、時空魔法の転移だ。
そう考察した紗耶香は、とりあえず何とかなったと、緊張を解くのだった。
「まずいな、時間が使われすぎている、おい、お前ら!」
そう言ったのは斥候だ。彼らはその声に従い、袋から一つの錠剤を取り出すと、それを水で飲みこむ。
何を飲み込んだのか、見たことない錠剤だったが、このタイミングで飲むのだから、何か現状を打開するための何かだろう。
「「「我の崇める神――――に栄光あれ!」」」
ナニカの魔法を起動した。
まずいと思った俺は体の赴くままに三発、三人の心臓目掛け魔弾を撃った。
「なっ」
驚くのも無理はないと思うのだ。彼らはよける素振りも見せず、ただ弾丸に心臓を貫かれていた。
これで終わりなのか?そう考えていたのがフラグだったのか、笑い声が聞こえる。
「「「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」」」
三人から漏れ出す気味の悪い笑い声。心臓が撃ち抜かれたのにも関わらず彼らは笑うのをやめない。
次第に彼らの体は黒く染まっていった。
黒、と聞いて思い浮かべるのは二つ。
一つはまっくろくろすけの徹。
もう一つは―――――
「変異種」
彼らの目は赤く染まり、細身だった体は筋肉に覆われ、人というより人型の魔物と言われたほうが納得できるまで変化してしまった。
これは、まずい―――――
その瞬間、俺と双子座が同時に殺された。俺の不死ループは一瞬にして途絶え、指輪によって蘇生が入る。
すぐさま双子座を起動して何とか戻すものの、指輪は魔力を使い切ってしまったため、一分ほど充填に時間がかかる。
俺の鍛え抜かれた話術()で、何とか時間でも稼げればいいのだが......
しかし、彼らの目には、もう理性の色は見えなかった。
「人間が変異種になったぁ!? しかも後天的に変異種になるだなんて、どんな劇薬なのぉ!? そんなの僕にも作れないよぉ!」
司が叫ぶ。俺は取り合えずどちらも死ぬわけにはいかないので、俺は後退、戦線は双子座に任せることにした。
その間に思考をめぐらせる。気を抜いていたとはいえ、両方一気に持っていかれるほどの速さ。変異種に似通った外見と能力。ってかあの薬何だよ......いや、まてよ。
効果を人間を強制的に変異種に変化させると仮定したら、相当な劇薬なんじゃ......それなら、負荷も尋常じゃない。
光の道が見えたと思ったが、すぐに閉ざされてしまう。
「時間稼ぎができないから解決策考えてるのによぉ!」
叫んでいる間に双子座が死ぬ。俺は双子座を即座に起動し、時間稼ぎの方法を探る。
そこで、一つの光を見た。
俺の新たに習得していた魔法文字をうまく使えば、こいつら倒せるぞ......!?
俺は二人に聞こえるように叫ぶ。
「数秒間、足止めしてくれ! 俺がそこを撃つ!」
その言葉に、会長と司は笑顔を浮かべるのだった。
司がとりだしたのは大きな柱。
それを四本、彼らを囲うように投げた。
彼らは人しか興味がないようで、柱を気にせずに二人へ攻撃を開始する。
司は何かの魔法を唱えているようで、ロボットは一切動かない。しかし固すぎるその装甲を貫けず、攻めあぐねているようだ。
会長は未来を見まくってその結果を見るや死なないようよけている。
双子座は会長に魔力譲渡を行うとともに、土煙をたてるようにして魔弾を放つ。
司の装置が完成する。
四本の柱から大量の鎖が飛び出すと、その中にいた敵を味方もろとも締め上げる。数十秒かけてくみ上げた魔法を待機させると、俺は一気に走り、新たな魔法を単体で放つ。
「『#破魔__ブレイクマジック__#』!!」
これは、周囲の魔法的な力をすべて破壊するという魔法殺しの魔法。
しかし使われないのにはやはりわけがある。
まず、魔法を破壊するとは言っても、破魔であっても魔法であり、魔力を使用する。なので、ほぼ確実に消費魔力量が相手よりも多くなる。
そして二つ目が一番の難関だ。この魔法は魔法を破壊しつくすため、魔弾に効果をのせて、などができない。魔弾が先に破魔の対象になってしまうとかいうピーキーっぷり。
つまりゼロ距離でぶち込むしかないという俺にとっては初とも言っていいかもしれないデメリット。
そのうえなぜか迷宮装備は一時的にその効果を失い、人間の作った付与などはほとんどの確率でぶっ壊れる。
もとは弾丸に乗せるつもりだったのだが、できなかったためお蔵入りを覚悟していた代物だった。が、ここまでデメリットは大きいものの、使えたほうがいいと思って練習しといてよかった。
これにより魔法的な力をすべて吹き飛ばした。その結果、彼らの体を変異種に変えていた魔法は効果を失い、薬はただの粉へとなり下がった。
体が元に戻った三人を鎖で拘束して、一件落着と言えるのではないだろうか。
「おーい、紗耶香、後片付け、手伝ってくれ!」
紗耶香を呼び、俺は死体を操作で集める。
「どうしたの?」
「死体を吹き飛ばしてくれ」
「えっ.......う、うん。わかったわ」
障壁を構え、魔法を放つ紗耶香。
しかし、彼女の目からは涙が流れ落ちていた。
「なんで、泣いているんだ?」
「......何でもない」
なんでもないといった相手を追いかけるのも嫌かと思い、「そうか」とだけ答えると、ぼこぼこに穴の開いて、木には無数の傷が刻まれた運動場を眺めるのだった。
と、そこへ二人がやってくる。何かお礼でももらえるのだろうかと期待したが、違った。
「ねぇ、あなた? 私の魔力バッテリー、半分くらい中身がなくなったのだけれど」
「会長はまだいいよぉ......僕のロボット壊れちゃったし......」
二人には、しばらくの間頭が上がらなかった。
「今回私、何もしていないじゃない......」
そう悩むのは紗耶香。
自分が障壁を張ることしかできなかったという無力感。
何もできず彼を目の前で失うかもしれないと考えただけで、あの時は涙が出そうになった。
死体を爆破したときなんて、涙が止まらなかった。
彼が無残な姿で転がっているのを目の当たりにして、吐かなかった分ましと思える結果だ。
彼は、どうしてあそこまでして人のために命を懸けられるのだろうか。
あんなに死んで、痛くはないのだろうか。
拓海に聞かないと分からない問いに、ずっと一人で解を求めた紗耶香だった。
「爆弾ないじゃないか!」
学校中探しまわった徹だが、爆弾らしきものは見つけられなかった。
というか、そもそもそんなもの仕掛けられてなどいないので、見つけるも何もないのだが。
「はー、学校中走り回って疲れたぜ。今頃戦い終わっているといいんだが......」
終わって結構な時間が経っていることを、徹はまだ知らない。
『ぐすん......いつになったら思いだすの......』
操作の時に死体の手から滑り落ちた結果、木陰に隠れる位置にいたそれ―――――
―――――夜を超えても忘れ去られた魔銃がいることを、世界はまだ知らない。




