文化祭準備
俺は喝を入れてレベルを上げるために、そしてワンチャン迷宮装備を手に入れるために戦闘を開始する。
今回も傲慢の大迷宮にて、装備品で補う作戦だ。
とはいえ装備品がそうぼろぼろ出るのであれば苦労しない。しかも見つかったところで、それが使える能力付きかどうかも運のうちだ。
そういう意味では、今までの装備が良すぎたくらいだった。
深いところに潜ると、装備産出率は増えているらしいのだが、俺の場合そこまで行くとすぐに魔力が尽きてしまう。
一撃で決める分、ロスも多いのだろう。
まぁ、そんなこんな、能力のほとんどを魔力に依存した俺は魔力残量に気を付けて中層と呼ばれる、腕の立つパーティーや企業が契約しているレイド......パーティーをさらに五、六ほど集めた物量作戦などが行われる地帯に来ていた。
ここには素材の採取が可能なエリアが多く存在している。採取をすると、硬度と重量ともに優れた金属をはじめ、ポーションの材料も少々、そして迷宮装備も少々出てくる。
探索者人生史上最高といってもいいほどの人間との遭遇率の高さ。
曲がる角々で一パーティーは確実に、多いときはレイドが丁字路で待機していたりする。
俺はその人たちの好奇と心配の目線を浴びながら、少し深めに陣取る。
現れるゴーレムも石かたまに鉄であり、特に高く売れるわけでもないので放置する。
っと、隠し部屋。
取ったもん勝ちの探索者、あとからグダグダ言わせねぇがルールだから、すぐに入って、そこに置いてあった宝箱を調べる。
罠はなさそうだ。
さっさと開ける。
中には一つの銃と......弾丸?
銃のほうは元はもっときれいな色だったのだろうが、黒ずんだ、というような風貌であった。
とりあえず鑑定を持たない俺は、その銃を持って、持ち帰ろうとする。
そこで、異常なことが発生した。
『お、次の主人が決まったかのう......うっ、なんだこのステータス、魔力は及第点だが、知能ゴミじゃないか。またどっかで野垂れ死ぬのだろうな」
声が聞こえた。周囲を見渡しても、誰もいないのだ。魔眼で確認しても、ある一点を除いて魔力の流れはない。
俺は、その魔力の流れている場所である、先ほどの銃を見る。
俺の眼は、脳は、これを非現実だと叫んでいるが、魔眼と感覚強化がこれを現実と訴えている。
「なぁ、喋ってるの、お前か?」
はたから見ると厨二病をこじらせたかわいそうな奴、しかし誰も見ていないので聞いてみた。
『お、おぬし、わらわの声が聞こえるのか!?』
「あぁ、なぜか聞こえている。」
『頼む、わらわに力を貸してくれ! 貸してくれればわらわがなんでもしよう!』
「ん? 今なんでもって」
『言ったが......まさか以前の主人と同じ返しをされると思わなんだ......』
そうあきれ声を出す魔銃。
以前の主人のことが気にはなるものの、このタイミングで聞くほど馬鹿じゃあない。
「それで? なんでも言うこと聞くの対価を教えてくれ」
この機会がお釈迦になると苦痛だ! なんでもって言ったぞ!かわいい女の子だったら......グヘヘ。
おっさんだったら......ま、適当に肉体労働でいいだろう。
『ちなみにわらわ、心の声がきこえるのじゃ、わらわは魔銃じゃが、一応性格は女じゃぞ?』
心を読まれたっ!?最近心を読んでいくのがデフォになってないですか!?
会長の読心は偽装スキルで回避が可能だったんだが、紗耶香の正誤判定は心でなく、世界の判定っぽいんだよな......俺の偽装越しに括弧の中身を見抜いてきやがる......魔眼だからってだけなら、俺の魔眼はだますこと専門だから、だましきれるはずなんだよ......
と、それはさておき、こいつの読心のプロセスを考えよう。
世界経由で心の声を聴いているわけではないだろう。複雑すぎる。
となるとこの場なんだが......どういうわけだろうか、ほんと、考えるだけで一日授業ずっと眠れそうだ。
「とりあえず帰還するぞ」
『あいわかった。おぬしの力量、少しは見せてくれよ?』
そう言った魔銃。
しかし俺はなんかいいなりみたいでいやなので、感覚強化全開で隠密も本気で使用して、一回も戦わずに帰還するのだった。
『のうおぬし、なぜ戦わなかった!』
『のうのう! 無視は悲しいんじゃ!』
『のうのうのう!』
うるせぇ。のうのうのうのう、そのうち脳でも震えるんじゃないだろうか。ゲシュタルト崩壊とかいうやつもこういう感じなのかね?
俺は学校に行くときも最低限の装備をしていくことにしている。
と、そこで廊下の向かい側からムキムキ生活指導の体育教師が歩いてくる。
指輪とか、見える物は漏れなく生活指導行きなのだが、ホルスターにしまった拳銃とか、背中に括り付けた魔銃とかは意外とばれない。それこそ、魔眼持ちとかに出くわさない限り。
予想通り、俺の異常な装備品には気づかなかった。
ムキムキ生活指導の体育教師の眼をごまかせたことに安堵していると、後ろから徹と司がやってくる感覚をつかんだ。
数秒後、やはり正しかったようで徹と司が俺のほうへと向かってきていた。
「なぁ拓海、お前、探索者データベース、最近覗いているか?」
「すっごいよぉ!」
『のうのう、でーたべーす、とは何なのじゃ!』
最近覗いていないが、何か速報でもあったのか?あと、魔銃てめぇ、前の主人に聞いてないのか?っつーか少しだまっとれぃ
『だって、言葉通じなかったんじゃもん......』
一気に二人(という表現が正しいのかはわからないが)の間に暗い空気が立ち込める。
「ちなみに、すっごいこと何かあったのか?」
話を戻す......というより傍から見れば俺が急に思考にトリップして俺だけ話からそれていったんだが、まぁそれは置いておく。
「傲慢の大迷宮でさ、大規模攻略イベントだってさ! 一級探索者の面面をはじめとする、上位探索者がレイドを組んで潜れるところまで深くいくんだってさ!」
「マジかよ」
一級探索者、それは日本全国で数えても七人しか今はいないという、エリート中のエリートだ。そしてその強さは単騎で大災害の前の軍を一掃できるどころか、国にすら届くと言われるほどだ。
「ちなみに、誰が行くんだ?」
「それがな、【図書館】と【絶壁】らしい」
【図書館】と【絶壁】というのは二つ名だ。
何か一芸に優れたものに与えられる......というか、探索者データベースの端っこにある、掲示板で議論される。
二つ名があることによるメリットは......まぁ、有名になれることかな。デメリットは恥ずい、以上。
二つ名は欲しい人とほしくない人、完全に二分されるだろう。
「そういえばさ、その二人ってどんな能力してるのか知ってるのか?」
「えーと、図書館は膨大な魔力量......とはいっても拓海と比べるとチンケなもんだ。それと知力のステータスが高く、ほとんどの魔法文字を使えるとかいう魔法チートだったはず。 そして絶壁は最強タンクってところだろう。」
「ほへー」
結構興味が湧いてきた。よし、思い立った吉日、行くか!
「ちなみにいつなんだ?」
「えーと、シルバーウィークっていうのか、あの連休を利用するらしい。」
まぁ、そこらへんが妥当か。
「おっけ、いってみるわ」
「そうか、参加はどのランクでも行けるらしいが、死んでも責任は取らないんだと。まぁ、今さらって感じがするがな。」
ちなみに俺は最低ランクである五級探索者だ。この級はステータスが基準値を超え、なおかつ探索者ギルドの依頼をいくつも達成したうえで、昇級試験もクリア出来たら昇格するシステムなので、昇級試験どころか探索者ギルドを利用する機会が数えるほどしかなかった俺には四級も無理な話だ。
「まぁ、ちょっくら行くか。」
「まぁ、先に文化祭だけどねぇ?」
司に言われて思い出す。文化祭じゃん!って、そーいやあの案たちは結局どうなったのだろうか。なんか前二回目の会議していたけど、どんどん変な方向向いたやつ増えてきたから寝たんだった。
「文化祭、何するか知ってる?」
「「知らない、陽キャに任せとけ」」
もう三週間もないというのに、クラスがまとまっていない事態に頭がいたくなる。
マジかよ、全員で目標決めて全力で走り抜けるぞ的なあれじゃないのかよ!
「ほんと、陰キャ男子って、こういう輪をすぐ乱すよねー......キモッ」
「「言われそうだからやめて!ってか拓海もこっち側だろ!」」
二人そろって俺を巻き添えにしてきた。くそう、解せぬ。
さて、しっかり学校の行事くらい頑張らないと。まぁ、寝てたやつの言うセリフじゃあないが。
俺は何か忘れてるような気がしなくもないが、思考を放棄して教室へと向かう。
『のう、もう喋っていいかの?』
あらやだ、黙っとけって言ったの素直に聞いてただなんて、かわいい子っ!
とかいう冗談は置いといて、完全に存在を忘れていた。
しっかしこの純粋無垢な感じ、これ何歳だよ......ってか、銃に年齢もくそもないか。
『わらわは誕生してからまだ一日たっておらぬぞ? 記憶こそ継承しているがの。』
あらヤダ素直、全部答えてくれる! じゃなくて、マジ? こいつロリっ子どころか生後一日の赤子だった!?
っと、驚きすぎて顔に出てた気がした。いけないいけない、俺は今一人なんだ。これで急にびっくりしだしたら見ているほかの人のほうがびっくりするわ! そしてそのあと「何あの人、急にびっくりして、マジビビる、ってかキモっ」と言われるに違いないのだ!※あくまで個人の意見です
そしてそのあと、「え、それだれ?」「隣のクラスじゃね?」「あー、見たことある気がするけどだめだわ、あんな奴覚えてるほうが珍しいっての」って言われるんだ!※あくまで個人の意見です
さっさと顔に偽装を施し、顔を無表情に変えておいた。
『のうのう、わらわを無視して勝手に話をすすめないでほしいのじゃが』
あ、完全に存在を忘れていた。
にしてもこいつ何歳だよ......(以下、無限ループ)
本日から文化祭の取り組み、というより屋台の設計とかは先にやっていたらしく、それをつくる作業をするらしい。
ちなみに文化祭でやるものはずばり、屋台だ。
屋台だ。
そう、屋台だ。案がいっぱいあるならその分屋台を立てようじゃないの、とかいうバカみたいな案のせいで、しかもそれを実行できる伝手もあったため、三週間もないこの状況で一気に馬鹿にならないほどの仕事が山積みされたのだ。
しかも、文化祭の委員をはじめとする主要メンバーが教室を使って会議ばかり繰り返しているせいで、主要ではない俺たちに仕事がすべて回って来る状態だ。会議には紗耶香も出席しているらしいが、会議が始まってから数日たったがずっと雑談だと言っていた。
こっちに仕事回して、自分たちは楽をして、それで文化祭直前までこき使った挙句、SNSなどで私たちの作り上げた文化祭だの私たちのクラス、完成度高いよ! とか言って盛り上がるのだろう。お前ら何にもしてないくせにな! 仕事を当日もこっちに押し付けて、ずっと遊んでいるのだろうな! あぁ、楽しそうな文化祭で、いいなぁ!
俺は正直こんなクソみたいな文化祭さっさと投げてしまいたいんだが、これを投げる=文化祭企画の進行が停止する=間に合わない=面倒ごと=先生が動きだすというクソみたいなイコールの式が成り立った。会議組はそれを盾にするようにして俺たちをさらにこき使う。あぁ、この世界はなんて不平等なのだ!
とりあえず材料を買い出しに行くか。
......いや、待てよ
「司、創造師してくれよ」
俺は小声で司に頼み込む。
「ほんとはいやって言いたいところなんだけどぉ......この仕事量を見ると、流石にしたくなっちゃうよねぇ.......」
主要メンバーは会議と言ったが、それ以外が仕事を押し付けられたわけではない。というか、俺たち以外は帰った。何も言わず、それがさも当たり前のように。わたしたちはそんなお前らにもできる仕事はしないんだと、あざ笑うかのように。
最終的に当たり前のようにみんな残ると思っていた俺たちだけが、取り残された。
さて、どうしよう。正直な話、俺たちがスキルなしでこれをやろうとしたら絶対に間に合わない。
そこで俺は気づいてしまった。
「何故ほかのやつのために、俺たちだけが身を粉にして働かなければならないのか」
よく考えれば、遅れようが俺たちのしったこっちゃない。というか、ざまぁみろ。
その考えは声として漏れ出していたようだが、二人も気づいてしまったのか、帰る支度をはじめる。
俺は言葉にできない開放感を感じながら、自転車のペダルをこぐのだった。
翌日、会議の面面がキレていた。間に合わないじゃない、お金どうするのよ、etc......
後ろのほうで紗耶香と勇気が話し合っていた......というより、勇気が一方的に話しかけていた。
紗耶香は顔にこそ出ていないが、はやく話を終わらせたいという雰囲気を体全体から漂わせていた。俺たちは何もできないのだが。
それに会議組が問題という問題をすべてこちらに押し付けてくるあたり、もう会議が形骸化しているのが浮き彫りになった。
しかし、コミュニケーションを今までまともに取らなかった弊害で、そんなことを指摘することはできない。
結局会議組はすべて押し付けて会議へと言ってしまった。
ほかのやつらも、自分から指示に回ろうとはしない。なぜなら、指示に回るということは責任者になることとほぼ同義であり、頭を悩ませた挙句に上からも下からもぐちぐち言われることが確定しているからだ。
だが、下手なプライドが俺たちに指示されることを拒んでしまって、結局何もできずに待つしかできない。
これが、クラス、これが、学校。
生徒によって作り上げられた一つの社会だ。
しかし、俺はこの問題に対する答えを持っている。
俺は少し席を外すと携帯で紗耶香に電話をかけた。
数コールの後、紗耶香が電話に出る。
「どうしたの? 電話なんて珍しいじゃない」
「まぁ、そうだな。ちょっと面倒なことになっててな......そっちにいる勇気、暇そうか?」
「いや、今雑談で忙しそうに話しているところよ。いつも彼を中心とした話題しかしてないからたぶん終わらないわよ?」
「なら紗耶香、教室前に来てくれ。説明は電話じゃ面倒だろう」
「そうね。今から行くわ」
電話を切る。今回の問題はカーストトップの人が抜けたせいで、それ以外が中間管理職の立ち位置になるのを拒んでいるのだ。中間管理職が悪いわけじゃない。ただ上と下の板挟みが嫌なだけだ。
そこで、カーストトップを一人指示役に立てる、というわけだ。
紗耶香も薄々察していたのだろう。重い足取りでこっちへと歩いてきた。
「私に指示させるつもりでしょう?」
やはり見破られていたようだ。俺は何も言わなかった。
「その沈黙は肯定と同義よ。まぁ、わかったわ。」
そういうと、彼女は教室の中へと入って行く。
一応勇気に気に入られている彼女なら問題ないだろう。
その推測は当たっていたようで、教室の空気が変わった。あとは彼女にすべて投げれば万事解決だ。さっさと帰って探索者データベースでも見るか。
「拓海くん? どこにいこうとしてるの?」
冷汗が背中を流れる。まぁわかってはいたが、やはり彼女は俺を逃がしてはくれないようだ。
結局、下校時刻までこき使われた。




