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魔力極振りの迷宮探索  作者: 大山 たろう
第二章 体育祭
12/33

飯塚さん

 月曜日。寝ぼけた頭のまま、俺は教科書を詰め込むと学校へと向かう。


 いつものように席へと座ると、隣から声が聞こえてくる。


「おはよ、けっこ眠そうだけど、昨日何かあったの?」


 珍しく飯塚から話しかけてきた。


 俺はハハハと笑いながら


「いやぁ、ちょっと調べものがね......」


 と答えておいた。

 なんの調べものかは言わない。まぁ、もし聞かれてもアニメとか適当に答えるつもりだ。

 しかし、なぜか疑う視線を俺に向けながら、「ふーん」というのみだった。

 このまま俺の話を続けられても困るので、話を転換する。


「そういえば、天ノ川君たちと迷宮にもぐっているんだよね。そっちはどんな感じ?」


「そっちは?」


 あ、ミスった、早くごまかさないと!


「そ、そう、学校と比べて、探索者はうまくいっているのかなぁ......と」


 我ながら、うまくごまかしたのではないだろうか。だが、一度向けられた疑惑の視線はなかなか離れることはない。


「私、魔法使って攻撃してるんだけどね、才能のある人は、魔眼を習得できるの」


「魔眼! なにそれかっこいい!どんな効果なの!」

 そう、好奇心のある風を装った。俺はそれに関してはもう知っているのだ。それにもう興奮も前にやった。


「大抵は何かの魔法と、魔力視、つまり魔力が見えるようになるのよ。それでいつもは見ないんだけど、さっき間違えてみてしまったの。そしたら、あなたの魔力、見えたのよ。わかってるから、私に隠さず言いなさい」


 やっべ、ばれた、しかもよりにもよって勇者パーティーに!

 俺は脳をフル回転させる。しかし、魔力を見られた以上ゲームオーバーか......ならば、次はほかの人には言わないでいてもらうことか。


「ちょっと話があるから、そうだな......放課後、ちょっと話できるか?」


「いいわよ、その代わり嘘ついたらわかるから。覚悟なさい」


 それが魔眼の効果で、俺にずっと疑惑の視線を向け続けていた理由だったか。


 とりあえず誠心誠意お願いするか。

 司と徹にも相談しないと。

 俺は月曜日の会議のことで頭がいっぱいになった。



 一時間目、二時間目と経過したときに、徹と司が俺のところに来た。


「拓海、大丈夫か? さっきからすごい顔してるぞ」


「拓海、もしかしてぼくのせぇい!?大丈夫ぅ?」


 と二人に心配されてしまった。


「ああ、大丈夫だし司のせいでもないよ。ただ......


「「ただ?」」


「飯塚にばれた」


 そう、今のうちに言っておくのだった。


 昼休み、食堂で定例会議が始まった。


 俺はそこで司に魔銀(ミスリル)の装備を頼んでから、事の顛末を話した。


 五分ほどで話し終えたが、二人は頭を抱えたままだった。


「もう、口外しないでくれって頼むしかないかな」


「そうだねぇ」「それしかなさそうだ」


「条件も不可能でなければ受ける、でいいか?」


「「異議なし」」


 と、ここでこの話題は終わった。


 そこで、ほかに話すことはあったかなと思い出しているうちに、あることを思い出す。


「司、そういえば鑑定、持ってたよな」


「え? う、うん、もってるよぉ」


「俺の両目を鑑定してくれ」


「わかったぁ......って、ナニコレ、魔眼を外から装着......いや、融合させたの?」


 なにそれ、気が付かないうちに俺の両目があのコンタクトと合体していたのか?

 そりゃああんだけ痛いわけだ。


「いや、俺もよくわからんから鑑定を頼んだんだ。それで、結果はどんなもんだ?」


「えっとぉ、魔力を目に通すと、魔力視と幻術が使えるってかんじかなぁ?にしても良かったね、魔眼の魔法はとっても強いから、応用きく能力で、当たりだったんじゃない?」


「そうか、後でステータス確認しておくわ」


 能力はまぁいいんだけど、また魔力依存だから、禁呪が手放せなさそうだ。


 俺は言い訳を考えながら、体育へと向かうのだった。



 放課後。ついに決戦の時になった。

 俺は集合場所である教室へと向かう。


 そこには、一足先に飯塚が来ていたらしい。


「ある程度、私の能力に関しては見当ついてるんでしょう?」


 そう、いきなり切り出してきた。

 ある程度分かっているからこそ、答えを濁す。


「どっちだと思う?」


 その時、彼女は苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。

 やはりか。

 彼女の能力は、正誤判定だろう。心が読めるなら、ここまで顔をしかめっ面にすることもない。


 と、答え合わせをしたところで、俺は切り出す。


「俺はさ、ひっそりと探索者したいんだよ。間違っても天ノ川みたいな陽キャと一緒に行きたいわけじゃない。どころか、俺はできることならだれにも言わずに探索者をするつもりだったのに、こう簡単にばれてしまうとは......なかなか悲しいねぇ」


「会長にもばれているんでしょう?」


「まぁね」


「よく聞くもの、あなたの話」


「え、なんで?」


「いや、あれ私の姉よ」


「......まじで?」


「いや、みんな気付いているわよ、名前だって飯塚だったの聞いてなかったの?」


「俺その時話を聞いてなかったんだよ......いつ名前聞くかちょっと悩んでいたのに」


「あきれた.......まぁ、姉がずっと君の話をするから、気になったっていうのもあるわね」


「ほう、俺のこと気になったんだ」


「べ、べつに恋愛感情じゃないからね! バッカみたい!」


 わかってはいたものの、つい言ってしまった。

 しかし、姉妹だったとは......

 っと、話が脱線した。


「話を戻すぞ。俺からのお願いは探索者のことを口外しないことだ。」


「いいわよ。その程度」


「......いいのか? 姉と違って代わりにとか要求しないのか?」


「あいつなにやってんのよ......それくらい構わないわ」


「ありがとう、女神様!」


 そういうと、俺は法外な約束をされなかったうれしさからそれを言い残すと、すぐに走り去ってしまった。


「女神って、ばか......」


 もう少し残れば、このつぶやきを聞けたというのに。


「たっだいまー......」


 家に帰る。今日はいろいろあった。友達が実は探索者をしていることがわかったり、姉がその子をいいように使っていることが発覚したり......め、女神って言われたり......


 容姿こそ優れていたが、その性格から今まで褒められることも少なかった。



 容姿に加えて、成績も優秀な姉と比べられ、、性格は姉のほうが親しみやすい。

 小学校から散々姉と比べられ、一緒にいても姉の周りにだけ人は寄ってきて、私の周りには誰も来ない。


 ずっと、友達がいなかった。


 けど、高校に入って、あの人たちの募集を聞いて、私も友達ができると思った。


 けど、実際は魔法を組み立てるのに時間がかかるのに、確実に命中するわけではない、しかも当たっても近接職のほうが

 威力がある。



 彼らにはぼろぼろになるまで暴言を吐かれたし、天ノ川君も全然私のことを守ってくれなかった。


 一人で魔法職なのに前線に立って、魔法を撃って、少しずつレベルを上げ、やっとのことで習得した魔眼。


 私は習得するとき、心の底で思った。

 もし、本心じゃなかったら、まだ一緒に行ってもいいのかな?



 その願いが具現化したかのように、私の眼には正誤判定の能力が与えられた。


 その目を起動させながら、恐る恐る、彼らのところへと行く。


 魔眼が使えようと、増えたわけではない攻撃力。

 やはり、みんなから暴言を吐かれる。


 しかも、正誤判定はあるところにしか反応しない。


 天ノ川君だけだ。嘘をついているのは。



 私はパーティー脱退を告げると、走って自宅へ帰って泣きじゃくった。


 それが、昨日の晩。




 そして、今日、彼に会った。


 興味本位で使った魔眼だが、彼の周りには膨大な魔力が漂っていた。

 そして、酷使された魔力回路。


 これだけ酷使されているだなんて、彼はどんな魔境を歩いているよ......

 何はともあれ、このありさまで、探索者をしていないなんて嘘はつけまい。まぁ、嘘をついたところで私の魔眼で見破ってやる。


 そう言って、彼と話し、いろいろあって、彼にあんな言葉をかけてもらえたわけだ。




 しかも、正誤判定に反応はない。つまり、本心で。


 その事実が、私の顔を赤くする。その言葉に、嘘偽りのないその言葉に、私の胸は満たされた。



 幸福感に包まれながら、私は部屋のドアを開くと、服も脱がずに布団へとダイブした。

 なんで、こんなに顔が熱くなって、彼にもう一度本心でお話ししたいと思うのだろう。





 あぁ、これが。これが―――――





 ―――――これが、恋なのだろうか。




――――――――――――――――――――




 ―――――とか、思っているころかしら?

 私が予知でこの未来を見ていたら、確実に阻止したであろうイベント。


 しかし、気が付いたころには、魔眼を獲得していた。


 そうなると後は、彼を見て、あのイベントへと。運命の強制力が、こうしろと囁くように、物事が、タイミングが、世界が、その一点へと収束するのだった。


 紗耶香が、まさかあの子に惚れちゃうなんて。


 予知では二年後をなぜか見ることができないが、一番最後のポイントでも、紗耶香は拓海と付き合うことすらできない、と出ている。


 後は、そこに流れ着くための運命をどれだけ変えずに進めるか。


 話しかけるタイミング一つ変わるだけで、イベントが発生するか否かが変わる。


 未来とは、本来はそういう不安定なもののはずだ。



 だから、これだけ干渉したのだから、彼が探索者を引退するなんて言う未来も、変わってもらわないと困るのだ。


 紗耶香の未来はこのまま、だが拓海はこう、だなんて器用なことはできない。

 だから、変えるか、変えないか、その判断に悩み、ああして中途半端なアドバイスしかできなかった。



 彼が探索者を引退したら、私と彼の接点がなくなってしまう、それだけは避けないと。



 いつの間にか、今までの関係が崩れ去るのを恐れていることに、彼女はまだ気が付いてはいなかった。

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