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魔力極振りの迷宮探索  作者: 大山 たろう
第二章 体育祭
10/33

数の暴力と新装備

 今日は休日。親が家を留守にするということで、俺も二日間ぶっ通しで迷宮にもぐろうと思う。


 俺はバッグいっぱいに栄養保存食とスポーツドリンクを買い込むと、その足で迷宮まで行く。


 門の隣にある転移台座に手を当て、十一階層と唱える。


 すると、台座に魔力を少し吸われたかと思うと、魔法陣が展開された。

 その魔法陣は俺を取り囲むように移動すると、一気に魔力を増す。


 光とともに、俺は十一階層へと転移した。


 そこは、森だった。


 草原よりも涼しい風が吹き込む。

 木陰を通り、前へと進む。

 今日の目標は十五階層。そのために、レベルの安全マージンも確保しながら進みたい。


 少し進んだところで、嗅ぎなれないにおいが漂う。

 周囲を警戒する。#強化__エンハンス__#をかけ、#分体__ドッペルゲンガー__#にも来てもらって、いつ戦闘が起きても良いように構える。


 緊張が高まっていったところで、草むらからガサガサッと音がする。


 すぐにその方向に魔弾を放つ。すると、「ギャオォン!」という鳴き声がした後、群れがやってきた。


 狼......いや、ファンタジーっぽく言うとウルフとかのほうがよさそうだ。


 灰色の毛を生やしたそいつらは、俺たちを取り囲むようにして構える。


 俺と#分体__ドッペルゲンガー__#は背中を合わせて全方位に目を配る。



 にらみ合う。にらみ合って、にらみ続け......

 先に手を出したのは、こちらだった。


 にらみ続ける間にリモートマジックを展開し、魔弾を展開する準備は整っていた。


 二人で一気に魔弾を展開し、取り囲んでいたウルフの最前列を撃破する。


 二人で掃射して十体ほど倒したものの、残り40体はいそうなウルフの大群。


 仲間が手を出されて黙っているはずもなく、最後尾にいたひときわ大きいウルフの遠吠えとともに、大規模戦闘が開始した。


 あれから何時間経過しただろう。


 最初に出会った五十ほどの集団を倒したのは十分ほどで終了した。レベルが上がり、スキルが増えたので、感覚強化と、今夜の警戒用として暗視と隠密を習得した。それが、今の地獄の始まりであり、奇跡的にも生きている理由である。


 感覚が強化された瞬間、周囲を取り囲もうとするウルフの存在を確認した。


 幸いにも包囲は完成しておらず、隠密を発動してその地域を抜け出す。


 が、習得したてだったのが災いし、すぐに気づかれてしまった。


 とりあえず二人で魔弾を撃ちこみ、距離をとる。


 しかし数匹倒れたところで引きはしないようで、どんどん距離を近づけてくる。


 俺は魔法刀身を自身の腕ほどにすると、近づいてきたウルフに切りかかる。


 一体、二体。


 切ったものの、一向に数が減る様子がない。

 俺は長期戦を覚悟し、燃費の悪いリモートマジックと魔法刀身を切る。


 魔法刀身を警戒し、距離を詰めるのをためらったところを見て二人から距離をとる。


 そして魔弾を撃ちまくる。この魔法はほか二つに比べると断然効率が良い部類に入る。


 ずっと後退しながら戦闘を続けると、他とは比べ物にならないほどの大樹があった。


 残念ながら、そこは十一階層への門とは正反対に位置すると書かれていたため、十階層を二日は無理があったと反省しながら、次の防衛ラインを大樹に定め、そこまで引くのだった。


 それから数時間は経過しただろう。今は大樹の枝の上から魔弾をひたすらに撃ち続けている。

 あたりはすっかり夜になり、先ほど習得した暗視をフルに使いながら、迎撃を行う。

 ウルフもいい加減引けばいいのにと思うのだが、あいつらはステータスにものを言わせ、大樹の幹を駆け上がってくるので、片時も油断できない。


 恐らく、統率のとれた数の多いウルフは時間がかかるので、戦闘になる前に次の階層へと上がっていくのが一般的なのだろう。

 そのせいで、処理されずに迷宮内にひたすら産み落とされて。これほどの数が集まり、さらに手を付けられなくなったと推測した。


 しかし、そんな推測も戦闘には無意味どころか弊害にしかならないので一度頭の隅へと追いやる。


 今度は三体同時に駆け上がってきたので、焦らずに弱めの魔弾を撃ちこむ。


 とりあえず身を守ることを最優先にしたために、魔弾のダメージより、幹から地面に落ちた、落下ダメージを利用して少しずつ数を減らしている。


 しかし、大樹というだけあって、俺の魔弾がカバーできないほどに大きいため、別のところから登ってきたウルフが上から攻撃を仕掛けてくる。それもあって、二人して気を張りっぱなしなのだ。


 まだか、と思ったところで、日が昇る。


 日の出の時間になったようで、暗視なしで見えるようになってきた。


 俺は門の方向を再確認すると、#分体__ドッペルゲンガー__#と一つになる。


 そして最後っ屁ともいわんばかりに魔弾でとどめを刺していく。


 しかし、ウルフがしびれを切らしたようで、遠吠えとともに全員が幹を上ってきた。


 さすがにこれは処理しきれない。が、これを待っていた。


 俺は幹から飛び降り、かかとあたりから思いっきり俺を魔力で射出する。


 それにより、フライボートのように一気に空を飛んだ。




 着地まで魔力が持つはずもなく、最初に高度と速度を稼いでからはほぼ自由運動だった。


 しかも着地方法はすかしっぺのような魔力を手から射出するという、ほぼ賭けの方法だが、今に始まったことじゃないと、着陸態勢に入る。


 とはいっても、手を下に向けて受け身をいつでもとれるように心構えをしているだけなのだが。


 心臓をバクバクさせていると、見えてきた陸地。


 俺は自由落下の速度を落とすために下に手を向け、俺を上方向に射出した。



 ごく微量だったために速度が完全になくならなかったのだが、体への負担もすくなかった。


 しかし結果的に横の衝撃を殺しきれず、地面と熱いキッスを交わす羽目になってしまった。

 うつぶせで突っ込んだのに鼻や歯が折れていないだけましだろう。


 しかし、体は前面を中心にケガだらけ、特に股間が大災害だ。

 何がとは言わないがつぶれたりしたわけではないのだが、ただひたすらに痛い。


 しばらく俺は着地地点から動けなかったが、幸い転移台座の前だったので、迷宮を脱出してから痛みに悶えよう。


 俺はいまだに痛い股間を片手でちゃんとあるか確認しながら、


「転移、一階層」


 そう言って、一階層に戻るとすぐに迷宮を脱出したのだった。


 時刻を確認すると、朝の4時半らしい。

 痛みも引いたので、俺はポーションを買いに行く。


 ポーションは、薬師が作る調合ポーションと、錬金術師の作る錬金ポーションの2種類がある。


 錬金ポーションのほうが同じ材料でも効果は高いのだが、作成してからの消費期限が極端に短い。

 薬師が作れば効果10のポーションを3年持たせられるのに対し、錬金術師は効果20のポーションを作れるが、3日間しか持たない、そんな感じらしい。


 俺は今痛いのを治すので、探索者ギルド付近にあった錬金術師の店へ行く。


 迷わず千円で低級ポーションを三つ買う。


 低級にしたのもわけがあったりする。基本的に、低級と中級の違いは効力なのだが、そのほかにも聞く範囲が変わる。

 低級は肌の擦り傷や打撲などの外傷しか治せないのに対し、中級は臓器も一部の種類を少しなら治せるらしい。

 なのでその分割高になる。


 なので打撲しかない俺は一個五千円の中級ポーションではなく低級ポーションを三つ買ったというわけだ!


 俺は迷わず三本ぐびぐびと飲んだ。

 すると、今までの体中の痛みが嘘のように引いて行った。

 一部分を除いて。


 股間は臓器扱いなのか、痛みが引かない。

 自転車に乗るのも苦痛だが、もう金もないので歯を食いしばり我慢して帰宅することにした。


 日曜十分休養して月曜日。

 とりあえず、装備を整えたいと思ったので、昼休み、司の進展を聞きに行く。調子がよさそうだったら、装備も頼もうかな。


「司、生産職どうだ?」


「順調だよぉ、装備作ってあげようか!」


「おう、頼む、支払いは魔石でいいか?」


「いいよぉー、いつにしようか?」


「今度の土曜でもいいか?」


「わかったぁー、それなら入口入ったところでしゅうごうしようかぁー」


「了解。装備は......胴体に着ける軽めの装備とか頼んでいいか?」


「わかったよぉー」


 司との定例会議を終え、俺は五時間目の体育に備え更衣室へと向かった。


 更衣室は男臭いので、さっさと来てさっさと着替える。いつもは中に体操服を着ていたのだが、今日は中に切るのを忘れていた。服を脱ぎ、体操服を着ようとしたところで、異変に気付く。


 魔法陣の三分の一......よりは少し小さい、十分の三とか、それぐらいの範囲が黒く変色していた。


 とりあえず服を着て、周囲に誰もいないことを確認すると、ステータスを確認した。

 しかし、異常はなく、しいて言えば俺のレベルとスキルレベルが上がってた程度だ。


 心当たりのないものをいつまでも眺めても仕方がないので、さっさと運動場へと向かってしまおう。


 記憶の片隅にこのことを追いやると、走って更衣室を出ていくのだった。








 放課後。

 俺はバッグを持ち、すぐに帰ろうとして、席を立った。が、残念なことにすぐには帰ることはできなさそうだ。


「一年、藍染君。放送であることないことこれからのことをばらされたくなかったら、今すぐ生徒会室へ来なさい」


 会長の声が校内全域に響き渡る。

 そして教室から向けられる二対四つを大きく超えた数の視線が俺に集中する。

 会長め、なんてことをしてくれるんだ!

 俺は会長への復讐心をたぎらせながら、生徒会室へと直行した。



「あら、遅かったじゃない」


「十分早く来ましたよ?それより、放送のあれ、どういうことですか?」


「あなたをせかすためのちょっとした悪戯心よ」

 反省した様子がなく、むしろ喜んでるまである会長を見てさすがに俺もイラっと来た。

「その様子でしたら、魔力譲渡の契約も破棄でよさそうですね」

 そう切り出すと、会長の顔から笑みが消えた。

「それはさすがにシャレにならないから今日はここらへんでやめておくわ」


「もう二度としないでください、心臓に悪い」

 俺はため息を吐きながらそう言った。


 そういえば。

「そういえば会長、今日の要件は何だったんですか?ここまで急かさせて何もないとか言ったらしばきますよ

 というと、会長はあたかも忘れていたという表情をした。

「そうそう、予知結果を先に教えておこうかと思って」


「ズレも発生しないという認識であってます?」


「まぁね。これからのズレは大きくても最近のほうはほぼ確定した未来だから。それで結果だけどね、あなた今のうちから

 #分体__ドッペルゲンガー__#のレベルを最高の10目標で上げておきなさい」


「ほう、理由は聞けないんですね」


「まぁ、そうね。そこは言えないわ」


「わかりました。今度から意識的に上げてみます」

 だあ

 そう言い、いつものように生徒会室を立ち去ろうとしたのだが。


「あ、そうだ、これは個人的な話なんだけど......」

 と呼び止めた。俺に個人的な話とは何だろうか。

「誕生日って、いつなの?」

 なんだ、そんなことか。


「六月六日ですよ、そういう会長はいつなんですか?」

 一応お世話になっているのだし、その日にプレゼントでも送ってみるか?

 しかし会長の次の言葉で打ち砕かれる。

「私に誕生日プレゼントを贈ろうだなんて十年早いわよ、出直してきなさい」


「えぇ......」

 最初に感じていた恨みはどこへやら、なぜか負けたという気持ちが俺の心を占めていた。










 今日は土曜日。なので会長に言われて通りにするのは少し癪なところもあるな......

 拓海は会長を信じたのではなく、スキルの予知を信じたのだと言い聞かせ、迷宮へと向かう。

 前回ニ十階層を目指したが、行けなかったときに余った食料がまだ残っていたので、自転車をこいで集合場所へと向かう。

 そこには少し早く着いたのか、大きめの袋を抱えた司がいた。


「司、お待たせ」


「ああ、拓海ぃ、今できたところだったから問題ないよぉ! はい、これ注文の品ぁ!予算のなかで一番いいものを作ったよぉ!」


 そう言って見せてくれたのは金属でできた、急所を守る構造をしたチェストプレートを渡される。


「皮とかのほうがよかったんだろうけどぉ、創造で素材を生成するときにぃ、やっぱり生物由来のものとか使うと魔力消費跳ね上がるっぽいんだよぉ......この装備も会長が急にくれた魔力バッテリーがなかったら作れなかったくらいだよぉ」


「あ、あの会長が?」


「うん、ばれてたの教えてくれても良かったじゃない、あ、そうそう、会長から伝言もあずかってるよ、『少し早い誕生日プレゼントよ』だってぇ?女の人に祝ってもらえるなんてぇ、もしかして気があるんじゃなぁい?」


 とニヤニヤしながら司が肘で俺の腹をつついてきた。


 その顔はもうあれだろう、『早く付き合え』ということだろう。

 しかし、脈はないだろうな。


「あ、脈がないっていう顔してるぅー!脈があったら付き合うとか、そんなのなんかずるいよぉー」


 その言葉に俺は気づかされる。もし仮に、会長が俺に好意を抱いていたら、俺は会長と付き合うのだろうか。

 恐らく、告白されたら断らないと思った。

 だからこそ、俺の感情がどうかわからない。


 そういえば、あの人と出会ってから、異性に対して胸をキュンキュンさせるなんて言う甘酸っぱい感情、感じていないな......


 俺が思い出す......否、思い出してしまうのは、忘れたくても忘れられない、あの人だった......


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