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6話


「逃げるな!」


声の主は春香だった。

春香は息を荒げ、足元は泥だらけだった。


「どうしてここに…」


「職場の人が連絡をくれたから!仕事でミスしてすごく気にしてたから心配で、って」

きっと岩田さんだ…

「やっぱり僕なんかじゃだめだったんだ。僕みたいなクズ人間は生きてちゃだめなんだよ」


「なんでそんなに悲観的なの?誰もそこまで優一を責めてる人はいないんだよ?」


「僕は、もうだめだ。生きていけない。生きていく自信がないんだ」


木に吊るしたロープを手に取り、首にかける。躊躇う理由など何もない。誰かに迷惑をかけるなら、もう生きていても仕方がない。脚立を蹴り倒すと体重が首にかかり、首が締まる。


春香は力強く走り出すと僕を下ろそうと引っ張る。それによってロープが首に食い込み余計に苦しくなり思わず「うぐっ」と声が漏れる。

「死なせない!絶対!!」

春香に力が入り余計に苦しくなる。意識が朦朧もうろうとしてきた。このままだと自殺ではなくて春香に殺されてしまうかもしれない。

と、ビリビリと音がするとロープがちぎれ落下した。


ゴホゴホと咳き込みながら春香を見ると息を荒げ、目に涙を浮かべていた。

「うるさい!あんたは生きなきゃだめなの!死んだら私が許さない!」

「もう死なせてよ…嫌なんだ!どうせこの先、生き続けても同じことの繰り返しだ!皆んなに蔑まれ、疎まれ、傷つけるだけの人生なんて…」


「うるさい!あんたは生きなきゃ駄目なの!簡単に死んだら私が許さない…だから…!」

突如春香が胸を手で押さえると、苦しそうな表情で倒れ込む。

一体何が起こったのか…

呼吸は早く、脈もおかしい。何かが春香の身に起きている。一体何が起こったのかわからない、自分の知識の無さを恨んだ。


とにかく、春香を助けないと。

僕を動かしたのはこの思いだけだった。


春香を背負い、樹海を歩き出す。

歩き出してまだ数分しか経っていないのにもう足がガタガタと震えだした。


それでも、と歩き続ける。


次第に足の感覚がなくなった。足が棒のようになるとはこのことか。男のくせに情けない。


倒れたらダメだ。


一歩一歩。ただ歩く。


街道に出るのにどれほどの時間が経ったかわからない。民家に駆け込む。


「すみません!」

おばあちゃんが顔を出すと僕の背中の春香を見て驚いた。余程顔色が良く無いのだろう。

「どうしたの!?」

「すみません!救急車!」

おばあちゃんはすぐに対応してくれた。



救急車が到着したのは10分くらい後だろうか。

救急隊員は春香の顔をみると驚いた顔をした。

「春香ちゃん!」

僕の顔をみると救急隊員は問いかける。

「自分この子の掛かり付けの病院がわかります。そちらに搬送しますがよろしいですか?」

「はい!お願いします!」

僕は付き添い人として同乗し病院へ向かった。


早く、病院へ。

病院にたどり着けばなんとかなる。


この頃の僕はそう考えていた。



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