三話
春香が家に来てから3日目。深刻な問題が発生した。
お金がないのだ。
もともと自殺するつもりだったし貯金も底をついていた。仕方がないので家具を売ることにした。
僕としては必要なものは何も無いので全て売ってしまってもいいかと考えていたが、春香は生活必需品は残すべきと言い売却するものを選別した。
結局リサイクル業者とやり取りをしたのが春香だったので、僕のゲームだとか娯楽品のみを売却。少しばかりの収入となった。まぁ数日分の食費にはなるか。
と、リサイクル業者が帰ったのはすでに15時すぎ。夕飯の買い物に行かなくては。
「夕飯の買い物に行こう」
ふと春香に向かって話しかけている自分に驚いた。人と話すのが苦手になっていたのだが春香には気軽に話しかけることができたのだ。人として大切なものを一つ取り戻した気になり一人浮かれていたが春香からの返答は拒否だった。
「行かない。行ってきて」
一人トボトボと買い出しに向かうこととなった。
買い物は人と話さなくていい。
たまに試食を進めてくる人さえよければ会話せずに購入が可能だ。
今夜はカレーにしよう。もともと僕の料理のレパートリーなどたかがしれているしこった料理なんて作れる技量もない。
人参、玉ねぎ、じゃがいも、ルーをかごのなかに入れレジへ向かう。途中薬品コーナーを覗くと風邪薬が目に止まった。
買い物を終え、帰宅した僕は春香に風邪薬を渡した。
それを見て春香は驚きながらも受け取った。
「風邪早く治したほうがいい」
「あ、ありがと」
春香はすこし困り顔で笑った。
夕飯はカレーは良い。苦手な人がいない料理。は言い過ぎか、大好きな人が多い料理の代名詞だと思っている。
春香は待ちきれなかったようでひょいと一口食べると感想をこぼす。
「…甘い」
「あぁ、昔から我が家のカレーは甘口だったから僕の舌が慣れちゃってね。母親が甘いのばかり作ってくれて…小学生の頃一緒に作ったんだ。母親が教えてくれたのはカレーの作り方くらいだったかな…」
と、春香が僕の頬を手の甲で拭うと水滴が付いていた。
「悪い。つい…話しすぎた」
席を立ち自室へ戻ろうとした僕を春香が抱きしめる。
「…カレー美味しいよ。食べよう?」
「あぁ…」
それから僕らは無言で食事を続けた。
今夜くらいは皿洗いをさぼってもいいだろう。
夜、春香の寝室から咳がずっと聞こえていた。薬はちゃんと飲んだのだろうか。
僕は彼女の事が気がかりで眠れずにいた。