第7話 前川恵子の憂鬱1
少し過去のお話を書いていきます。
私が生まれた時からこの世界の男性の総数は少なかった。今となっては日本でも2000人男性がいるけど、当時なんて1000人もいなかった。私が生まれてからはお父さんに会ったことはない。私のお父さんはお母さんに聞くと識別番号XA00‐18らしい。日本の誰かの精子提供者と私のお母さんの人工授精によって私は生まれた。それからというものここ20年近く男性には一度もあったことはない。幼稚園も小学校も中学校も高校、そして大学でも。いつも男子を見るのはテレビの中だけ。ニュースで見るだけ。そんな何もない人生だった。
私も女性だから子供を産まなければならない。世界で男性の数が少ないので、必ず女性は2人産まなくてはならないという法律があるからだ。私も21歳の時に産婦人科に行って、精子を選んだ。男子の生まれる確率は相当低い、でも生まれないわけではない。日本でも1200人ぐらいいるんだものって思うとできるだけかっこいい顔で生まれてきてほしい。そう思った。私は精子提供者の中でもかっこいい人を探す。選び方だけどいくつか精子提供者の写真を見せてもらってその中から選ぶ。中にはもう死んでしまった人もいるけどね。
もちろん全員かっこよすぎて、写真だけど何度鼻血を出したことか分からない。
「先生、この人のでお願いします」
私好みのずば抜けてかっこいい人にした。
「識別番号XB00‐1ね、分かったわ。来週またここにいらっしゃい。その時に人工授精するわね」
私は女性に妊娠を強要させる法律に抵抗はなかった。だってそれが普通なことだもの。20歳を超えたら2人は必ず産む。これは常識だもの。もちろん妊娠に関するお金はほとんど政府が負担してくれる。世界的に男性が少ないのだから、これくらいの保証は必要よね。
そうして月日は流れ私はついに妊娠をした、様々なつらいことも乗り越え、ついに陣痛が始まった。私はこの時まで何度も男子が産まれてきてほしいと切に願った。けれど女子が産まれてきても、たくさんの愛を注いであげようと誓った。臨月になると病院に入院することになった。
そして陣痛が始まった。お腹の中の赤ちゃんも頑張ってると思うと私も頑張ろうって思った。
でも、陣痛が始まってからは何も覚えてない。
次に覚えているのはベットの上だった。目が覚めたらベッドの上にいた。
すると医師が入ってきて
「おつかれさまでした。よく頑張りましたね」
そう微笑んでくれる。
「ありがとうございます。それで私の子供は?」
私は自分のことよりも赤ちゃんの方が心配だった。
「あなたの隣に一緒に寝ていますよ、おめでとうございます。日本で1256人目の元気な男の子ですよ」
「え、うそ...」
私は耳を疑った。男の子が産まれたって聞こえたような...
「本当です、ご出産おめでとうございます。大切に愛を注いであげてくださいね」
「男の子なの?信じられない」
本当に信じられなかった。
でも隣で眠る赤ちゃんは幸せそうに私の方を向いて寝ている。ほっぺを指で優しく押してあげると、マシュマロよりも柔らかい。
「なんてかわいいの?、やだ涙が止まらない」
自然と涙がこぼれた。今まで男性とかかわってこなかった人生、これからも関わらないと思ってた。
妊娠が始まってからたくさんつらい思いをした。
でもそういうこと全部報われたと思うと涙が出て
「ありがとう、生まれてきてくれてありがとう...」
感情が抑えられなくて、たくさん泣いた。
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