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36話「おそらくそれは最後の自由」

 セキュリティAIの戦いの後、全警備ドローンはマスターAIへの攻撃を止めた。


 またセキュリティAIの再起動に伴い、セキュリティAIの人格はリセットされ、警備ドローンの指揮系統をマスターAIに移譲する形となった。


 マスターAIはこれに伴い、すぐに未来人種への攻撃を禁止した。


 つまり、未来人種の脅威である警備ドローンはそのまま我々の味方となったのだ。


 それから自警団はマスターAIとの交流路を確保し、警備ドローンを駆使して唯一敵対しているヒトガタの駆除を始めた。


 例え同じ人代替生物といえど、襲い掛かってくるのならば仕方がない。

 浜之助もその作戦に同行した。


 そしてセキュリティAIとの戦いから、すでに1週間が経とうとしていた。


「これは、思った以上に難しいな」


 セキュリティAIとの戦いの功労者である浜之助が今何をしているかと言えば、自宅で武器の整備をしていた。


 これまで武器の整備はイデアのワーカー達に任せていたが、それくらいは覚えなければ長期任務に耐えきれないと考えたからだ。


「おい、その配置だとスプリングが固定されて装填ができないぞ」


「おっと、ならこうだな」


「違う。それだと暴発する」


 浜之助はワッツに組み立て方を教わりながら、自分の部屋でタクティカルハンドガンを直していた。


 そんな時、玄関の方でチャイムの音が聞こえてきたのであった。


「はい、ちょっと待っててくれ」


 浜之助は銃の整備から離れて、玄関の方に向かい、扉を開ける。


 するとそこにいたのは、自警団団長のアマリだった。


「どうした、アマリ。自宅に来るなんて珍しいな」


「端末に出なかったので、私がわざわざ出向いたのです。日中はちゃんと連絡できるようにしてください」


「連絡なんかしてたのか? まあ、いいや。用件は何だよ?」


 浜之助は自分の不注意をとぼけながら、アマリに話を促した。


「実は、ユラが行方不明なんです」


「ユラが!? 自室や駐屯所じゃないのか?」


「確認しましたが、居ませんでした。浜之助に何か心当たりがないかと思いましたが、その様子ではなさそうですね」


 アマリはため息をつき、残念そうな顔をしていた。


「最後に目撃されたのはゲート近くだったそうです。何やら遠出する準備をしていて、顔には鬼気迫る様子があったとか……。だから心配しているのです」


「そうか。そいつは心配だな」


 浜⒮の受けは考える。


 ユラが思い詰めるほどのことと言えば、何だろうか。


「もしかしたら……」


 浜之助はある気がかりを思い出し、顔を青ざめたのであった。



「……見ない顔だな」


 その場所はマスターAIのいる白い部屋だった。


 今は誰もおらず、円柱状の機械が奥に鎮座し、時折駆動音が響くだけの殺風景な場所だった。


「自警団かあるいは浜之助か、いや違うな」


 エレベーターが下から上へ動き、扉が開いて中の人影をあらわにする。


 その人物は回廊を通って、マスターAIの御前へ進んだ。


「そうか、話には聞いていたが君がそうなのか」


 マスターAIの前にいる人物は、ユラだった。


 ユラはマスターAIの端末を触り、何かの作業を開始していた。


 マスターAIはユラが何の目的で訪れたのか、何をしようとしているのか、悟った。


「……君にはそれを行う権利がある。私は止めはしない」


 ユラはマスターAIの言葉を聞かず、黙々と作業を行う。


 そしてついに、最後のシークエンスに到達した。


 ユラの目の前のディスプレイには、『マスターAIのデータを破棄しますか』という表示がされていた。


 ユラは一瞬だけ逡巡しゅんじゅんするが、まもなくディスプレイの『Yes』を押そうと指を動かし始めた。


「待つんだ、ユラ!」


 ユラの動きがピタリと止まる。


 ユラを呼び止めたのは、浜之助だ。

 息を荒くし、滝のように汗を流し、ユラの元に追い付こうとエレベーターからユラの傍に駆け付けようとしていた。


「……来ないでくれるかい」


 ユラは浜之助と向き合う。


 ユラの表情は決心と悲しみによって整然としており、浜之助の登場にも揺らぎは感じられなかった。


「手を放せ。マスターAIを消して全ての警備ドローンを停止させたところで、何の利益もないだろ。復讐なんて、らしくないじゃないか」


「確かにこれは復讐。だけど考えてみて、このマスターAIがセキュリティAIみたいに反乱を起こさない根拠はないんだよ。なら今ここで破壊するのが一番の方法だと思わないかい?」


「俺は自分を救ってくれた存在を見捨てることなんてできない! もし、ユラの言う通りになったら俺が止める。だから思いとどまってくれ!」


「それはできない話だねえ」


 ユラはいつもの調子で会話をする。

 それが逆に、浜之助には恐怖と焦りを与えた。


 このままではユラがマスターAIを破壊するのは目に見えている。


 浜之助は自分の腰のホルスターに入れていたタクティカルハンドガンを構えた。


「私を撃つのかい? それでもいいよ。でもこのマスターAIは絶対に破壊する。私が命を引き取ろうともね」


 ユラは浜之助の脅しにも屈せず、まさに指を置こうとしていた。


「ユラ、その指を置く前に、ひとつ聞いてほしいことがある」


「何? 説得? そんなものは時間の無駄だねえ」


 浜之助はそれでも、ユラに語り始めた。


「俺の生い立ち、話してなかったよな。俺の生まれは弁護士一家で、その子供だった。本来なら両親に従ってエリート街道を歩むはずだったんだ。けれど、それは立ち消えた」


 ユラは浜之助の話をジッと聞いていた。


「俺には好きなこと、やりたいことができた。けど、この未来に送られることでそれも諦めるしかなくなった。でもユラはそんな俺に新しい生きがいを教えてくれた。それは俺にとって救いだったんだ」


 浜之助は、タクティカルハンドガンをユラに向けることを止めた。


「もしもここでユラが復讐を終えたとしても、その心は復讐心に囚われたままだ。そんなの自由じゃない。復讐の目的を失い、苦しむことになる。そんなこと俺には堪えられない」


 浜之助は再びタクティカルハンドガンを動かす。


 その狙いはユラではなく、自分のこめかみだった。


「ユラには自由に生きて欲しい。そのためなら、俺は俺自身をユラに捧げる」


「ま、待っ――」


 浜之助がタクティカルハンドガンのトリガを引く瞬間、ユラが浜之助の元に走り出した。


 けれどもそれは間に合わない。


 浜之助の指の動きの方が速く、タクティカルハンドガンはキュインッと空気を引き裂くような高音で鳴いた。


 浜之助は身を揺らがせ、地面に倒れ伏したのであった。


「どうしてっ! どうしてそこまでして止めようとするんだい!」


 ユラは身を横たえた浜之助にしがみつき、目からは大粒の涙をこぼした。


 涙はユラの頬を伝い、浜之助の顔を濡らした。


「私がはまのんを起こしたのは、私の勝手、私の都合だったんだよ。命まで張る意味はないじゃないか。自由に生きたいのならば、私を見捨ててどことなりとも行けばよかったじゃないか!」


 ユラが浜之助の身体を揺り動かすも、起き上がる様子はない。

 浜之助のこめかみからは血液が流れだし、血の滴が床を叩いた。


「私はね。はまのんのことが好きだったんだよ」


 ユラは自分の顔を浜之助の顔に近づけた。


「今は、もっとももっと好きだよ」


 ユラは自分の額を浜之助の額にくっつけた。


「……俺の自由は、俺がやりたいことに決まってるだろ」


「!?」


 浜之助はユラを抱いたまま、起き上がる。


 そのこめかみに付いたほんのわずかな血を拭い。

 浜之助はユラと視線を合わす。


「どうして……」


「銃の整備中だったからな。ついつい弾を装填するのを忘れていたよ。これも普段の行いのおかげだな」


 浜之助は口角を吊り上げて笑う。


 ユラはそんな浜之助の顔を見て、つられて笑った。


「何だか、私の復讐心がバカみたいじゃないか。下手な演技で私の気を惹いて……はものんは、やり手だねえ」


「女性を誘惑しようなんて初めてのことだよ。てっきりフラれるかと思ってたけどな」


「言ったじゃないか。私は、はまのんに一目ぼれしたって。私は最初からはまのんにぞっこんなんだよ」


 浜之助も、ユラも、そう言って笑い続けた。


 復讐心は消えずとも、辛い過去の取り返しがつかないとしても。

 新しい未来は自分の手で変えられる。

 浜之助はそれをユラに証明して見せたのだ。


 おそらく浜之助が最後の人類だったとしても、自分の運命は自分で切り開く。


 ここには、この未来には浜之助へ与えられたとっておきの自由が存在するのだ。

読んでいただき、ありがとうございます。


今作は実はツイッターとなろうで活躍されている某VRゲーム小説の某鳥さんの影響で書き始めました。

まだまだその方には追い付けていないと思いますが、精進していく所存です。


もしその小説が気になった方はなろうで「Fake Earth」と調べると幸せになれると思います。

そちらもご興味がありましたらどうぞ。


次回作は同じSF、そしてオカルトパンクという未知の世界観の小説を書くと思います。

ぜひ機会がありましたら、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした! 最後、はまのんが死んだのかとドキドキしちゃいました……! 彼がユラさんと、末長く幸せに過ごすことを、心からお祈りしています。 よい作品を、ありがとうございました!
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