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31話「防衛戦線」

 その日の朝の雨時間は過ぎ去り、雨滴うてきが名残惜しそうに地面に垂れている頃。


 マスターAIの居住地、エレベーター前の防衛地点は激戦区となっていた。


「次の集団が来るぞ! 陣形を立て直せ!」


 浜之助は戦う前に、全体的な防衛陣地の見直しを行った。


 まずはこちらの戦力の大半を占める中型警備ドローン、オニギリに会わせてバリケードを作り直した。


 そのバリケードの素材は、周囲に転がったドローンの亡骸なきがらを使っている。

 戦場であるこの場所で最も多いそれは、今度は味方を守る盾として使用しているのだ。


 またバリケードとしてだけではなく、敵の通路を限定するための障害物としても配置し直した。

 これにより、敵は攻めるためのルートが限定され、火力を集中しやすくなったのだ。


「弾が切れたら後方へ。待機ドローンはできた戦線の穴を埋めろ!」


 浜之助は弾切れを起こしたドローンは後ろで補給、そして待機していたドローンがその穴埋めをする、流動的な防衛方法を採用した。


 これならトラブルに即時対応できるだけでなく、戦線の延命を図ることができる。

 いわゆる流動する血液のように、常に必要な場所へ新鮮な血を送るのである。


 しかし、それもあくまで急場しのぎの作戦だ。


「側面の敵が押してきたの。戦線が維持できないの!」


「分かった。そちらに行く!」


 浜之助はオニギリにピックアップさせた50口径機関銃を動かす。


 これはミノガクレを倒した際に調達した防衛兵装のひとつだ。

 喰らえば中型の警備ドローンなど原型を留めぬ、大口径火器である。


「側面の、更に側面!」


 浜之助は設置しなおすと、機関銃のトリガーを引く。


 50口径機関銃は3Dプリンター弾倉からゴロゴロと指の太さ以上の弾丸を生み出し、ベルト状のキャタピラで運ばれてチャンバーにセットされる。


 そして次の瞬間には炸裂し、遠方の警備ドローンを紙のように引き裂き始めたのだ。


 ――ドドドドドンッ!


 機関銃の音はまるで雪崩打つ滝のような音圧を響かせる。

 放たれた弾の方は、警備ドローンに穴を穿うがち、次々と新たな機械の残骸ざんがいを築き上げた。


「戦線維持確保、次っ!」


 浜之助はこんな調子で、5日の間も防衛を保っている。

 敵は多く、味方が少ない中でも、立案と奮闘によって敵の侵攻を阻止していた。


 けれども、それは根本的な解決にはならない。


 この5日間、敵の数は衰えることなく、ひるみもせずに襲い掛かってくるのだ。


 そのうえ雨時間が訪れると、定時帰りのサラリーマンのごとく、それまでの優勢劣勢関係なく退いていく。


 浜之助はそんなマイペースな重圧によって、徐々に気勢を削がれていた。


「底が、全く見えない……」


 相手は保有戦力1000体、道の狭さによって全軍突入はなくとも、断続的に続く砲火は浜之助たちの戦力を削り、疲労はピークに達していた。


 浜之助も、フゥも、戦線を抑え込んでいるが、限界だ。


「あっ――」


 そんな時、空中にいたフゥが傾く。


 どうやら、銃撃を喰らってしまったようだ。


「フゥ!」


 フゥの喪失によって、辛うじて支えていた防衛線が崩れてしまう。


 こうなっては、もう抑え込むことは不可能だ。


「くそっ! 戦線を第3ラインまで下げろ! 急げ急げ!」


 浜之助が急いでフゥの元に駆け寄ると、彼女はまだ息があった。


 だが、エクゾスレイヴの羽は折れ、フゥの片足はだらりと力なく垂れ下がっていた。


「動けるか? 戦線を下げる。いくそ!」


 浜之助はフゥに肩を貸し、オニギリに殿しんがりを任せて後退した。


「浜之助、もしも私が捕まるようなことがあったら――」


「馬鹿言え、まだ猶予はたっぷりある。安心しろ」


 浜之助はフゥを元気づけるが、戦況の方はかんばしくない。


 構築したばかりの第3ラインも、既に崩壊間近だった。


「……戦線を最終防衛ラインまで、下げる」


 浜之助は力なくつぶやき、フゥと共にエレベータへ登るのであった。




「イデアからの連絡はあったの?」


「……今ユラが説得中だ。何、話も順調でもうすぐ援軍が来るよ。ここは耐え時だ」


「ふふふっ。浜之助は嘘が下手なの」


 フゥの出血は大したことはなく、命に別状はない。


 しかし片足は骨折しており、これ以上の戦闘は不可能な状態だった。


「フゥの言う通りだ。今から援軍が出発したとしても、間に合わない。もう時間だ」


 浜之助にそう声を掛けたのは、傍らにいる円柱状の機械であるマスターだった。


 時間とは、マスターとフゥを敵に捕まらないために破壊する猶予ゆうよの事だ。


「待て、時間ならまだある。ここから挽回ばんかいの策を」


「そんなものは私たちの持ち札に無い。今は決断の時だ」


 敵の警備ドローンは3つある隔壁の2つまで突破している。


 この最後の壁がなくなった時、マスターとフゥの運命は変えようがなくなる。


「こんなことがあってたまるか。人間は幸福を願う生き物だ。こんな、バットエンドなんて、許せるかよ」


 浜之助は膝を付く、ここまで頑張ったのに、努力したのに、全てが水泡に帰す。

 弁護士になることを拒絶し、プロゲーマーになる夢を破られ、逃げに逃げてきたのに望みのひとつも叶えられない。


 もし運命と言う歯車が決められたものなら、浜之助はそのシステムを呪った。


 そして希望の最後の壁も、もうすぐ破られようとしている。


 だけど、それでも――。


 この戦いに意味はあったのだ。


『待たせたね。はまのん』


「っ! ユラか」


『今から援軍の本隊が出発するよ。もう少し持ちこたえておくれ』


 浜之助はユラに励まされる。


 それでも、もう時間はないのだ。


「ユラ、最終防衛ラインがまもなく突破される。時間遅れだよ」


 浜之助は諦めたように、かすんだ言葉を投げかける。


 今まさに最後の隔壁がトーチの光で焼き切られ、敵の警備ドローンとこちらのオニギリがスクラムを組んでいる最中だった。


『いいや、手遅れじゃないさ』


「何を根拠に――」


 浜之助がユラの自信満々な言葉を否定しようとした時、敵ドローンのスクラムが突然、弾けた。


 浜之助が何事かとそちらを向くと、見覚えのある顔があった。


「さて、旧最高戦力のお手並み。現最高戦力にお見せしようかのう」


 それは、白い髭と裸の頭頂部をしたクロノだった。


 クロノは薙刀なぎなたのような長柄ながえの武器をやずさえ、敵の波を裂いているところだった。


「あらよ、さっさ」


クロノが武器を振るう度、警備ドローンが畑の土くれのようにたがやされていく。

 普段の落ち着いた調子はそこになく、袖の先から老体とは思えぬ鋼の肉体が現れていた。


「次はこちら、その次は向こうじゃな」


 クロノの走る姿は稲妻、暴れる姿は暴風のごとく、警備ドローンをほふっていく。


 更にその後ろからは、銃を構えた存在がいた。


「おじいちゃん! 独りではしゃがないでください!」


 後ろにいたのは、アマリだ。


 クロノほどの暴れっぷりはないけれども、狙いは正確で数発の銃弾を使い、敵の警備ドローンを沈黙させていく。


 2人の戦いっぷりは台風のようにその場の敵ドローンを破壊し尽くし、一掃することで満足したように収まった。


「クロノ、アマリ! 来てくれたのか」


「おじいちゃんが先走りするから、仕方なくです。少数ですが、頼りになる者ばかりを連れてきました。これなら1日は持つでしょう」


「ああ、助かる。それにしてもクロノがここまで動けるとはな。見直したよ」


 浜之助がクロノに話しかけると、本人は自分の腰をもみほぐしているところだった。


「ふぅ。久々の急な運動は身体にこたえるのう。じゃがしかし、こうして恩人を助けられるのはいい気持ちじゃ」


 クロノとアマリの後に続き、他の自警団員もこちらに合流し、互いに労をねぎらったり握手を交わした。


「それにしても、どうして……」


「皆には反対されたのじゃがな。今まで浜之助に助けられた分、動けぬようなら未来人種の誇りなどないようなものじゃろ? だから率先して動くことで見せつけたのじゃ」


 クロノはそう胸を張って見せた。


 おそらく、クロノのこの動きが他のシェルター住人の心を動かし、本隊が動くことを決定したのだろう。


「私達はいわゆる先方部隊です。本隊到着は間もなく。本隊には自警団員だけではなく、交易相手のシェルターからも来ます」


「……! あいつらもか!?」


「これも浜之助の人徳ですよ。浜之助は自分が思う以上に、頼られている存在なのです」


 浜之助は助けに来た彼らと、これから来る者たちに感謝して、涙がにじみ出るのを感じた。


 けれども、それは後だ。

 今はするべきことをしよう。


「今日の夕方の雨時間までもうすぐだ。このまま防衛線を維持しよう!」


 浜之助とクロノやアマリ達は一致団結して、その場の維持を開始する。


 そうしてしばらくすると、外では雨足の音が聞こえてきた。


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