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20話「不穏」

「……機嫌を直してくれよ。ユラ」


「へえ、私の事を少しでも気にする余裕があるのかい! てっきりはまのんは私の意見なんて尊重しないものかとおもっていたよ!」


 無事にイデアへと帰還して自室に戻った浜之助だったが、そこにいたのは不貞腐ふてくされて無線にも出なかったユラだった。


 ユラはドローンのワッツを仲間に入れただけではなく、警備ドローンをハッキングして仲間にできるセキュリティクリアランスを持ってきたため、更に憤慨ふんがいしているようだ。


「別にいいさ。どうせはまのんは私と違って機械が好きなんだね。警備ドローンが戦力になるなら、イデアの人たちもきっと喜ぶよ! 私以外はね!」


「否定はしないけどよ。……どうしてそこまで機械が嫌いなんだよ」


 浜之助の言葉に、ユラは怒りの表情から悲哀の顔に切り替わった。


 どうやら、地雷を踏んだのかもしれない。


「はまのんには両親がいるのかい?」


「あ、ああ。ただしもう過去の話だよ。それに俺は両親と仲が悪かった。恨んでさえいた。育ててくれた恩義は感じていたけどよ」


「そう。私はね。私を産んでくれた両親が、大好きだったのさ」


 ユラは慎重な面持ちで、語りだした。


「私の両親はね。外で警備ドローンに遭遇して亡くなってしまったのさ。良い両親だったよ。私にはもったいないくらいにねえ。端末にかじりついていた私を批判することなく、褒めてくれたんだよ。自立してからも生活をサポートしてくれたし、社会からの孤立を避けてくれていたんだねえ」


「そいつは、すまなかった。ユラの事情を考えていなかった俺のミスだ」


「いいよ。ただし約束して、この世から生きた機械たちを駆逐する。その手助けをするって」


「……」


 浜之助はユラの頼みを、簡単に承諾しかねた。


 今は人間だったころの記憶を宿したワッツというドローンもいる。

 機械を葬り去るということは、つまり彼を再び葬送そうそうしなければならないワケだ。


 浜之助は悩んだ。

 悩んで悩みぬいた。


 別にワッツの命とユラの頼みを天秤にかけたわけではない。

 それでも自分の言葉に首を縦に振らない浜之助に、ユラは裏切られたような気持になったのだろう。


「やっぱり機械が好きなんだね。期待していた私が、馬鹿だったよ」


 浜之助はユラに掛ける言葉が見つからず、部屋の外へ出ていく彼女を呼び止めることさえできなかった。


「俺に、どうしろっていうんだよ」


 浜之助は何もできず、苦虫を噛むような顔でユラを見送ってしまった。




 ユラと別れた浜之助は久しぶりの買い物をするため、市場に来ていた。


 必要な物があった、というより気分転換しなければ心に潰されそうであったため、浜之助は意味もなく野菜を触ったり家具を眺めたりしていた。


 浜之助が今日作る献立について頭を悩ませていると、市場の向こう側から騒がしい声が聞こえてきた。


「これ以上はたくさんだ! どうして別のシェルターのソルジャーにまで頭を下げなくちゃならないんだ!」


 浜之助は野次馬の後ろから背の高さを武器にして、喧騒けんそうを眺める。

 するとそこにいたのは、イデアのワーカー達と見慣れない顔の一団だった。


「我々はこのシェルターへ人材派遣されたソルジャーだ。命令するのは当然の権利なのに、何故ワーカー達は不平不満を言うのだ?」


「自分のために荷物を運ばせろ、だって!? 俺達はお前たちの使い走りじゃないんだ! ただでさえ無駄飯ぐらいのソルジャー達に辟易へきえきしているのに、どうして仕事を増やすんだ!」


 浜之助の前の野次馬達も「そうだ、そうだ」と賛同する。


 浜之助が推測するに、ワーカーに糾弾されているのは、武器庫のシェルターから銃の取り扱いを教えに来たソルジャーらしい。


「黙れ! ワーカー風情ふぜいがソルジャーに口出しをするな。一体ここのシェルターはワーカーたちにどんなしつけをしているんだ」


しつけだと!」


 イデアのワーカーたちはついに武器庫のソルジャー達に詰め寄りだした。


 このままでは衝突は必至だ。


「待て待て待て。事情は何となく察した。ただ暴力はダメだ!」


 浜之助は野次馬を掻き分けて、争いの仲裁に入る。


「おお、救世主の過去人種様じゃないか!」


 いざこざを起こそうとしていたワーカー達も、野次馬達も、現れた浜之助に注目した。


 いつのまにか浜之助は、ワーカーたちに英雄扱いされているらしい。


「警備ドローンを手下にする方法を発見したという話は、本当なのか!?」


「この間の医療品は助かったよ! おかげでうちの女房はピンピンしてやがる。この間も元気すぎて俺の尻を叩きやがった」


「大型ドローンをたったひとりで倒したという話は本当なの!? 素敵だわ。そこのソルジャーや無駄飯ぐらいと違って、頼りになるわ」


 ワーカーたちは口々に浜之助のことを話しながら、周りを取り囲む。


 もう争いのことなどどこ吹く風。

 ワーカーたちは浜之助に夢中だった。


「くそっ。例の過去人種か。やめだやめだ。さっさと宿舎に戻るぞ」


 武器庫のソルジャー達は浜之助のことを嫉妬しっとの目で睨みながら、野次馬の間を抜けて去って行った。


 浜之助は大きな衝突で外交問題へと発展しなかったことに、安堵した。


「一体何があったんだ? もめ事か?」


 浜之助がワーカーたちに訊くと、その場に居合わせた黒く濃い髭を生やした男性が答えた。


「聞いてくれよ、旦那。別のシェルターのあいつら、俺達を小間使いみたいに扱いやがって感謝もしないんだ。確かに客人は歓迎しないといけないが、あそこまで酷使されると俺達も我慢できねえよ」


 髭の男がそう言って、寝具や雑貨品、日用品の山を指し示した。


「荷物を持つのはまだいい。それに加えて無料で渡せときたもんだ。旦那だって、タダ働きは勘弁ならねえよな?」


「そ、そうだな。それはちょっと御免こうむりたいな」


「だろう!」


 髭の男は他のワーカーたちに賛同を求め、ワーカー達も応えて「そうだ、そうだ」と次々に口にした。


「ここは旦那を筆頭に、ワーカー差別を無くすデモを起こそうじゃないか!」


「お、おい。それは待ってくれよ」


 浜之助はワーカーたちの雲行きが悪い方向に行くのを感じ、彼らをなだめた。


「これはクロノとも相談する。それに、自警団の中にもワーカーはいるんだろ? 身内同士の衝突はダメだ」


 浜之助の説得に、ワーカーたちは顔を見合わせた。


 そして、ワーカーたちは浜之助の言葉をジョークと思い、笑いだしたのだ。


「ガハハハ。旦那はユーモアの天才だ! ワーカーがソルジャーの仕事をできるわけがないでしょ」


「そ、そうなのか?」


「そうだとも。ワーカーは生まれてから死ぬまで労働、ソルジャーは警備の仕事。それが当たり前じゃないか」


 浜之助は微妙な違和感を感じ取った。


 ワーカーたちは自分達の仕事を労働と決めつけ、それはソルジャー達も同じなようだ。


 そもそも、ワーカーやソルジャーとは苗字のようなものではないのか。

 それにワーカーやソルジャー、それにワッツが言っていたロイヤルとは何なのだ。


 浜之助奇妙な感覚に襲われ、小声で呟いた。


「まるでアリやハダカデバネズミみたいな、真社会性じゃないか」


 真社会性、それは生まれた時から自分の役目が決まっており、個体差も違う種族特性のことだ。


 アリなら働きアリ、兵隊アリ、女王アリ、それぞれの仕事と運命があるワケだ。


 まさか、未来人種達も同じなのだろうか。


「おい、お前たち。旦那の頼みだ。今回はひとまず落ち着こうじゃないか。長老のクロノだって、救世主の旦那の言葉に耳を傾けてくれるだろう。もしも破談した時は、俺達が旦那に加勢するんだ」


 ワーカーたちは「そうだな」と同意すると、やっと集団が散り始めた。


「これは早く解決しないといけないな」


 浜之助は買い物を中断し、クロノと話を付けるために長老の家に急いだ。


 その頭にはもう、ユラとの話など入っていなかった。


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