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1話「たぶん世界最後の人類に」

 ゲームで見知らぬ生物に会ったらまず何をする?


 とりあえず、銃をぶっ放すべきだ。

 それがゲームの掟のようなものなのだ。


 杵塚浜之助きねづかはまのすけは、低木から覗く人間の頭部と同じ大きさのウサギの頭に向けて、手に持ったアサルトレールガンという銃をぶちかました。


『急に無線越しで銃を撃つのはやめてくれないかい。ちゃんと銃を撃ちますと宣言して、相手によろしいですか。私によろしいですかと聞くべきだね』


 浜之助の左腕に装着されたリストバンド型の端末から、鈴を弾くような凛とした女性の叱咤しったが聞こえる。

 だが、構うことはない。浜之助はアサルトレールガンの引き金を絞り続けた。


 アサルトレールガンからは空気を加熱するような蒸発音が何度も聞こえる。

 そのたびに、ローレンツ力で加速した金属の弾丸が、ウサギの頭を狙って射出された。


 浜之助が両腕で構えているアサルトレールガンは電磁投射銃、つまり電気で発生させた磁力を基に弾丸を飛ばす兵器だ。

 装填する弾は弾倉の液体金属を3Dプリンターで超高速生成することで、装填されていく。


「それよりも装備のステータスを確認してくれよ、ユラ。通信でこちらの状態は確認できるんだよな」


『しょうがないわねえ。今そちらにアップデートするから。上手く活用しなさいな』


 通信越しの女性、ユラの言う通り、リストバンド型の端末に浜之助の装備している武器のステータスが表示される。


 それによれば、アサルトレールガンの弾倉に入った液体金属の残りは僅か。

 交換しなければならないと、警告が出ていた。


「リローディング!」


『援護する味方なんて、そこにはいないよ。ボケたのかい?』


「うるさいな! これは癖なんだよ」


 浜之助は腰に吊った他の弾倉を装填し、ホロサイトと呼ばれる照準器を覗き込む。


 その向こう側にいるのは、人懐っこい赤い両目が眩しく、真っすぐ伸びた両耳と、好奇心旺盛なピンクの鼻を持ち合わせたウサギの頭だ。


 ただその胴体は人間だ。

 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な両肩が心臓のように波打ち、腹筋が満面の笑みで引き締まる。

 そんな首から下が人間の生き物が、そこにはいたのだ。


 頭はウサギ、首から下は人間のウサギ人間は腰に毛皮を纏った半裸姿で銃弾をかわし、草原を気持ちよく走っている。


「動きが速い! 常時作動パッシブスキルの<射撃制御プロトコル>じゃ捉えきれない!」


 浜之助は着用している外骨格スーツに備え付けられた、右腕側の端末のボタンに目を通す。

 そこには4つのスロットのうち2つに、<射撃制御プロトコル>と<ブーストパック>が表示されている。


『あれも見覚えがあるのかい?』


「そうだ。あいつは<フォールンギア>に登場する<二足ウサギ>とまるっきり同じだ。だから攻略方法も必ずあるはずだ」


 浜之助は頭の回転を、思考を、急速に回転させ、状況に適応させていく。


 二足ウサギの行動パターン、弱点、攻撃方法、移動方法、能力。

 それらを記憶から算出し、リアルの動きにトレースさせていくのだ。


「洞察し、分析し、解析し、攻略しろ。活路は必ずここにある」


 ここはリアルだ。ゲームじゃない。

 だがゲームのような、未来だ。

 これまでと同じように、活路はフォールンギアの知識にある。


「動きの速い相手には、点じゃなく面だ」


 浜之助は銃撃を一旦やめ。3つの銃口がリボルバーのように回転して、そのうちの1つが選ばれる。


 3つの銃口は大、中、小の口径をしており、選ばれたのは中くらいの大きさの口径だった。


 その中くらいの口径の横には、SHOTGUNTYPEと刻印されていた。


「くらえ!」


 浜之助はアサルトレールガンを二足ウサギに向けて、撃つ。

 銃口からは小口径の弾の連射ではなく、少し大き目な銃弾が発射された。


 銃弾は二足ウサギを追うと、中空で破裂する。


 破裂した銃弾からは、前に向けて小さい鉄球が無数に飛び散り、地面や岩を削り取った。


 そして鉄球の一部は、二足ウサギの逆関節のような脚を少しばかり傷つけたのだ。


 しかしダメージは十分ではない。

 鼻息が荒く、興奮した様子の二足ウサギは更に加速する。


 今度は、浜之助に向かってくるようだ。


「二足ウサギに遠距離攻撃はない。攻撃は鋭い前歯か、発達した筋力による近接攻撃だけ!」


 浜之助はアサルトレールガンの散弾で、近づく二足ウサギの軌跡を追いかける。


 それでも二足ウサギの脚は速く、小回りも利く。

 浜之助が狙いを絞った次の瞬間には、別の場所へ移動し、立ち止まることはない。


『浜之助、近づかれすぎてるわよ。逃げた方がいいんじゃないかい?』


 通信から浜之助を心配する声が届くが、浜之助は笑っていた。


「いや、こいつから逃げるには骨が折れる。けど大丈夫。クリアの方法は決まった!」


 浜之助は再びアサルトレールガンの銃口を替え、大口径の銃口にする。


 二足ウサギはその間に、浜之助に肉薄してきた。


 急速に接近する二足ウサギは口を大きく開き、必殺の前歯が浜之助を襲う。


「スキルブーストパック!」


 浜之助が掛け声とともに、右腕のブーストパックと呼ばれるボタンを押す。


 その途端、浜之助が着用している外骨格スーツから透明な蒸気が吹き出し。

 身体は跳躍した。


 無反動で打ち上げられた浜之助は、空中で手足を動かしてマニューバブーストを調整する。

 それから両手に抱えたアサルトレールガンを、地上で直進する二足ウサギに向けた。


「攻撃時は動きが単調、これで」


 浜之助のアサルトレールガンから一際ひときわ大きな弾が放たれる。

 それは拳ほどの大きさで、中身には電磁式の炸裂装置と鉄片が込められているものだ。


「終わりだ」


 グレネードは二足ウサギの背中に当たり、電気と磁力のエネルギーで破裂した。


 その爆発は凄まじく、音速で飛来する鉄片は二足ウサギの肉体をぼろきれのように引き裂き、身体は爆散した。


 浜之助が片膝を付いて着地する頃には、その場所は血だまりの池に変わっていた。


「うへえ。こいつはひどいよ。生き物にグレネードは極力使用しない方がいいな」


『その前に、スキルブーストパック、って何なのだい。技名を言うのが過去人種の鉄則なのかい?』


「うるさいよ! 俺の勝手じゃないか!」


 浜之助が着地で血に濡れた作業服とパワードスーツに辟易へきえきしていると、その間に頭上からウサギの頭だけが落下してきた。


 そしてウサギの頭は地面で勢いよく跳ねると、血の飛沫しぶきを浜之助に浴びせてきた。


「……こいつはひどい」


 浜之助は顔に付いた血を腕で拭いながら、広大な世界を見上げた。


 上には晴天の空と雲海うんかいが広がっている。

 けれども、それが人工的な映像であることを、浜之助は知っている。

 ここは箱庭。閉じられた世界なのだ。


 時折ノイズが走る空を見ながら、浜之助は深呼吸するように大きく息を吸い、血の臭いで咳き込むのであった。


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