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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の開園準備
8/63

8葉 異世界動物観察記001~アメミット~

*今回のおはなしの視点ではタイジュではありません。

 ここはパラダイス大陸、黒の大地のドゥアト砂漠。

 大陸最大の砂漠であり、凶暴な動物たちが住む魔境でもある。本日はこの砂漠にすむ代表的な動物のアメミットを観察してみよう。


 アメミットはドゥアト砂漠の食物連鎖の頂点にして、最恐の捕食者である。アメミットは体長2m前後のハネナシグリフォンの仲間だ。ワニの頭を持ち、ライオンの(たてがみ)と上半身に、カバの下半身という体形をしている。オスはメスに比べて鬣が長く単独で生活するのに対し、メスは子育てしながらメス同士で群れを作って生活する。今日の観察対象は小さなオアシスを縄張りにしているメス4頭、子供6頭の群れだ。子供は生まれてから日が浅いらしくまだ鬣が生えていない。


 どうやらメス2頭が狩りに出かけるらしい。ついて行ってみよう。大人は1週間ほど獲物がなくても十分だがこの群れには育ち盛りの子供がいる。狩りには積極的に行かねばならない。

 アメミットの狩りは追い立て役と待ち伏せ役に分かれて行う。アメミットは瞬発力とパワーは素晴らしいが、スタミナが少ない。如何に省エネで獲物を捕らえられるかが大事なのだ。


 アメミットが最恐と言われる理由の1つが、索敵能力の高さだ。魂感知の黒魔法【バーセンサー】を使用することができる。魂を感知するため、いかに見た目を偽り匂いを消したとしても、アメミットたちから逃げることはできないだろう。

 ただし、夜の砂漠には命がなく魂だけの存在であるアンデッドも多い。餌にならないアンデッドも【バーセンサー】には引っかかるため、この魔法だけを頼るわけにはいかない。目、鼻、耳、魔法、いままでの経験、全てを使って獲物を探すのだ。

 

 やがて2頭は大きなサボテンの近くまでやってきていた。どうやら獲物を発見したらしい。相手は4匹のオイハギアリだ。体長が40~50cmとかなり大型である。相手はこちらにまだ気づいていない。しかし、アメミットたちはアリを襲おうとはせずその場から離れてしまった。


 アメミットは非常に賢い動物である。

 オイハギアリは4~5匹のグループで行動するが、このとき同じ群れのグループが近くにいることが多い。複数のグループで群れを形成し、特定の巣穴を持たずに生活している。さらにオイハギアリは執念深いため、1匹でも狩れば群れ全体で襲ってくるだろう。どんなにアメミットたちが強かろうと数の暴力と正面からやりあいたくない。たとえ勝っても、手負いとなれば他の動物から襲われる。経験からこれらのことを知っているアメミットは獲物を見逃したのだ。

 

 一方、見逃されたアリたちだがよく見ると別の動物であることがわかる。こいつらはドゥアト・カーバンクル。砂漠にすむカーバンクルの仲間で姿を幻惑の黒魔法【ハーフェイク】でオイハギアリに擬態していたのだ。【バーセンサー】では対象の正体まではわからない。アメミットをやり過ごしたことで、カーバンクルたちはサボテンの水分とサボテンに集まる昆虫たちというごちそうに無事有り付けた。今回の化かし合いはカーバンクルに軍配が上がったようだ。


 センサーに引っかかるのはアンデッドばかり。いつの間にか、アメミットたちは獲物を求めて普段の狩場より遠い場所まで来ていた。遠くに巨大な樹が見えている。アミメットたちが身を潜め気配を絶つ。次の獲物が現れた。獲物は先ほどアリたちより4倍は大きい。小さな群れ全体で騒いでいる。縄張りの近くでは見ない動物だが、アミメットたちはこの動物を狩ることに決めたようだ。

 一匹が潜み、一匹が距離を詰める。

 哀れな獲物たちはまだ捕食者の接近に気付かない。

 体重を上半身に寄せて伏せる。

 真っ白な動物たちはまだ騒いでいる。

 一気に前肢で砂を掻き、獲物に突進する。

 対象の反応が鈍い。追い立て役は欲を出す。

 牙に纏うは破魂の黒魔法【イブブレイク】。


 ぐめぇーー。ぐめぇ。ばさばさばさ。ばさ。


 羽毛が舞う。

 あっさりと間近の獲物の喉元に牙が通る。

 【イブブレイク】により命だけでなく精神と魂まで失われているだろう。

 治癒や蘇生の機会すら奪う冒涜の魔法は、アミメットがヒトたちから畏怖の対象にされた最大の理由だ。

 追い立てのための突撃で、なんと1匹仕留めてしまった。この苛酷なドゥアト砂漠でこれほど警戒心の低い動物は他にいないだろう。残りの獲物たちはやっと散り散りに逃げ始めた。

 本来は獲物を逃げる方向を誘導するのが追い立て役の仕事だが、獲物を掴んで離せない。なぜなら、獲物たちが騒いでいたせいで他の肉食獣も集まってきていたからだ。このまま、仕留めた獲物を離せば、横取りされてしまう。追い立て役は運よく待ち伏せ場所へ向かってくれた獲物に視線を向けていた。


 岩場の影に隠れていた待ち伏せ役は下半身に体重を預けて獲物到着を待つ。一見すると鈍重そうなカバの後ろ足だが、この砂漠で待ち伏せ上では強力な武器だ。足の取られやすい砂の上で獲物を一撃で仕留めるパワーを安定して出せるのだ。その後ろ足を軸として全身を使って繰り出される凪ぎ払いや叩きつけは岩すら粉々にしてしまうほどだ。さらに、この構えの時に投擲や魔法で遠距離から攻撃するのは危険だ。前足に纏うベクトル操作の黒魔法【リルート】により攻撃は跳ね返されてしまう。全く隙のない構えだ。

 獲物が間合いに入る。

 待ち伏せ役は踏み込む。

 上半身を遠心力に預けてそのまま斜めに振り抜いた。

 叩きつけだ。

 獲物は頭を潰されていた。正に一撃必殺だ。


 二頭はそれぞれに獲物を咥えて合流する。獲物は無事に狩れた。まわりには他の肉食獣がさらに増えてきてる。ほとんどはこちらより小柄だが、中には大柄のオスのアメミットまで混じっている。早くも2頭は縄張りに向けて撤退を始めていた。縄張りに戻るまで決して気は抜けないのだ。


 アメミットは砂漠最恐の捕食者であり、非常に賢い動物だ。縄張りから巨木の方角に行くとよい狩場がある。この情報が今日の獲物以上に大きな収穫だと既に気付いているだろう。砂漠に朝日が昇り、猛獣とアンデッドたちが太陽から身を隠し始める。本日の観察はここまでのようだ。

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