表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
シカモアの友達づくり
63/63

56葉 隠れ里に芽吹く

 夕刻。

 日は沈みかけ、空は茜色。

 隠れ里のテト族たちは広場にぞくぞくと集まってくる。

 椅子に座った猫獣人たちはそわそわしながら、宴の開始を今か今かと待っていた。

 

「シカモア様、本当にいいのですじゃ? 宴を始める前でないと話を聞いてもらえないのでは?」

「シニア、逆ですよ。宴を楽しんだ後でないとこの話は効果が薄いのです。開始の合図は貴方がしなさい」


 シニアの合図で様々な料理が運ばれる。

 目玉はもちろん綿幕楽を使った料理。

 その中でも一番目を惹くのは姿焼きだ。

 調理棟の前で獣人の子供サイズのほどの綿幕楽が吊り下げられて丸々1羽調理されている。

 お腹に豆などを詰めて焼いた一品だ。

 調理師のマウがナイフ片手に叫ぶ。

 

「お皿に乗らニャいので、この場で切り分けるニャ。ほしい人からとりに来るニャ」


 香ばしい香りを嗅ぎ、皆爛々と目が輝いている。

 テト族の宴に特別な挨拶はない。

 マウの元へ獣人たちが殺到したのと同時に宴会は自然と始まった。


「肉ニャー。久々のお肉ニャー」

「何の肉かニャ。うおお、鳥ニャ。でも何の鳥ニャ? これ、ホントに鳥かニャ? こんなにでかい鳥見たことないニャ」

「そんなことどうでもいいニャ。食べないならお先に頂くニャ」

「待つニャ。俺が先ニャ。マウさん、もものお肉をとってほしいのニャ」


 大人も子供も我先にと綿幕楽のお肉を受け取り、席には戻らずその場で頬張る。


「こんなに脂ののった肉、初めてだニャ」

「張りのある食感なのに、噛むうちに溶けてなくなるニャ」

「こんなのいくらでも食べれるニャ。おかわりニャ」

「この味は事件です、事件ですニャ」


 あっという間に、姿焼きもテーブルの料理も食べつくされた。

 大人は話に花を咲かせ、子供はそろそろ飽きてくる頃合い。

 いままで静かに宴を見守っていた族長が登壇し声を上げる。


「みなさん、実はご馳走はこれだけではありません。マウ、あれを持ってきて」


 大きな歓声が上がる。

 運ばれてきたのは先ほどの姿焼きが小さく見えるほどに巨大な果実だ。

 既に半分に切ってあり、中の真っ赤な果肉から上品で甘い香り漂ってくる。


「私は猛獣たちの活性化の原因を調べにドゥアト砂漠へ行きました。その結果、信じられないことに、未知の神獣の聖域を発見しました。そして、神獣は我々の守り神となってくれることを約束してくださいました。今回のご馳走は守り神様からの贈り物です」


 誰もが静かに話に聞き入っている。

 その表情には興味、喜び、困惑など様々な感情が現れている。


「今から私たちは守り神様の奇跡を目撃することになります。アビン、前へ来なさい」


 緊張気味の返事の後、アビンは小走り気味にシカモアの前に来た。


「貴方は以前に綿幕楽、守り神様の眷属を狩ったために魔法を失いましたね」

「まさかお仕置きかニャ。族長様ぁ、アビンはそんな事情知らなかったのニャ、許してほしいニャ」

「そうではないのです、アビン。むしろ、褒美を与えましょう。貴方がこまめに事件を知らせてくれたおかげで砂漠の異変に気付けたのですから」

「ホントかニャ。もしかしてこの大きなきのみをくれるかニャ」

「最初の一口を食べる権利を貴方に与えましょう。マウ、切り分けて彼に渡して」

「族長様、ありがとうございますニャ。さっそく、いただくニャ」


 シカモアは渡したばかりの果実を取り上げる。


「待ちなさい。宴の準備の前にお話ししましたね、守り神様は奇跡を授けて下さると。その実には守り神様の力が宿っています。食べる前に力を願いなさい。まわりのみんなにもはっきり聞こえるように、大声で願いを叫んでから食べるのです」

「族長様、待つニャ。力って言ってもよくわからないニャ」

「アビン、貴方の魔法の技量は素晴らしかったですが、魔素量が低いことを嘆いていましたね」

「そうですニャ。でも、もう魔法は使えないですから、低いも何も・・・」

「ならば、それも含めて願いなさい。その果実に祈りを込めなさい」

「ん、これを食べたらまた魔法が使えるニャ?」

「それを決めるのは貴方の想いの強さです。遠慮をしてはいけません。さぁ、里のみんなに思いを伝えその果実を口にするのです」

「じ、自分は、エジさんを超える強い魔法を手に入れたいニャ。どうか魔力が戻ってきてほしいニャ。まぐ・・・思ってたよりすっぱいニャ。あ、後から甘さが徐々に・・・もう一口ほしくなるニャ、族長様良ければあと一口・・・」

「アビン、貴方の得意な魔法は【シュトスピア】でしたね。やってみなさい」

「おお、そうだったニャ。魔法が戻っているかもニャ。ふっ、【シュトスピア】。・・・おお、魔法が復活してるニャ。むしろ、前よりも強くなっているニャ」


 拍手と歓声。

 アビンはおめでとニャの嵐にたじたじになっている。


「みなさん、これが守り神様の奇跡です。魔法が使えなくなった者は前に来なさい。優先してこの実を与えましょう。その後に余りをみんなで分けて食べましょう。各々の願いを込めて」

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 翌日。

 シカモアは滝幕楽たちがいる修練広場へ訪れていた。

 しかし、昨日とは広場の様子が異なっている。

 なんと荒地の地面が芝生へと変わっていたのだ。

 そして、その芝生地帯で猫獣人たちと綿幕楽たちが取っ組み合いをしている。


「こら、芝生から出ていくんじゃないニャ。今は食事の時間ニャ」

「族長様。こいつら、全然言うこと聞かないニャ。行動がめちゃくちゃニャ」

「あれ? 昨晩より数が増えてるニャ。どういうことニャ?」


 対応しているのは狩人たち。

 昨晩の宴会前に狩人たちに植えさせた芝生付き肥料団子がうまく働いてくれたようだ。

 安堵も束の間、シカモアは狩人たちに指示を飛ばす。


「無理やりマクラたちを押しとどめなくて結構です。マクラさん達の自由にさせてあげてください。いざとなれば滝幕楽に頼めば集めることが出来ます。それよりもこのままだと芝がマクラたちに食べ尽くされてしまいます。みなさんは芝生の拡張を当たってください」 

「族長(サミャ)、若い連中が頑張ったおかげでもらった芝の苗は全部植えたミャ。これ以上、どうやって育てるミャ?」


 狩長のエジが代表して質問してくる。


「この芝は奇跡の力を糧に成長する植物で、水やりの世話すら不要です。芝生を広げるには守り神様を讃えなさい。授かった奇跡の力を鍛えるのです」

「なるほど、よくわからんミャ。確かに魔法・・・じゃなかった奇跡の力が使えるようになったから族長様の話は信じるミャ。けど、イマイチ守り神様がぴんと来てないミャ。昨日からいろんなことが起こりすぎてみんな頭がパンクしてるミャ」

「では会いに行きますか? 守り神様に」

「可能なのかミャ? そんな気軽に会ってくれるかミャ」

「ええ。守り神様のユメちゃんとは友達ですから」


 さわやかな風が吹き、生えたての芝の上に落ちている綿毛を巻き上げる。

 その風に乗ってある狩人の声が里中に響き渡る。

 その狩人は族長と狩長のやり取りを聞いて驚くように声を上げた。


「族長と守り神様が友達!? これは事件です、事件ですニャー」

 

 アビンをはじめ狩人たちが騒ぎ立てる中、シカモアは思う。

 これから世界は大きく変わる。

 あの妖精はヒト社会の在り方を揺るがす程の大きな事を起こそうとしている。

 奇跡の力を受け入れた以上、我々は従うしかない。

 だが、このままだと確実にその事件に巻き込まれ、ヒトたちに見つかってしまう。

 見つかれば、確実にこの里は火の海になるだろう。

 その前になんとか対策を練らなければ。

  

 世界はまだわからないことだらけで、もっとたくさんのことが知りたい。

 奇跡のさらなる秘密、妖精の思惑、楽園のルーツ。

 しかし、それを知るのは今ではない。

 今回の旅で思い知った。

 重大な情報には相応の重さがあると。

 

 妖精からの指令は2つ。

 里に奇跡を根付かせること。

 そして、奇跡力の高まった獣人をあの大樹の元へ連れていくこと。

 今は大人しく従おう。そして、力を蓄えよう。

 もっと多くの知識を抱え込めるように。

 

 綿幕楽の一匹が、顔を擦り付けてくる。

 思わず顔が綻びかけるが、狩人たちがいる前でにやけるわけにはいかない。

 族長としての威厳があるのだ。

 涼しげな表情を作り、その羊頭を撫でてあげる。

 なにやらスカラベの杖に止まってるネフティーが喚いているが今は無視をする。

 ああ、後でしっかり遊んであげないと。


「守り神様と友達なんて、なんだか族長様が神々しく見えてきたニャ」

「神の眷属を愛でる姿が様になってるニャ」

「流石、単身で魔境から帰って来ただけあるニャ」

「よくよく考えたら、守り神様を味方につけてくるって亡アアルア王国でも出来なかった偉業なのではないかニャ。本物・・・本物の英雄ニャ」


 妖精は私に奇跡の才能がないと言った。

 しかし、それは私の性格や気質の話である。

 奇跡は他人から認められることが大事だとも妖精から教わった。

 私にセンスがなくても、周りがそう思わなければいい。

 里中のみんなが私が強いと思えば、結果的にホントに強くなれるのだ。


 少女は新たな友への負い目があった。

 命を救われ、故郷へも返してもらったのにこれらからは何もしてあげられてない。

 それどころか、一度疑ってしまった。

 なんらかの形でお返しがしたい。

 そのためにも。


 強くなってみせる。

 少女はそう決意する。

 そのためにはまず・・・。

 

「アビン、シニアを呼んできなさい。さぁ、これからもっと忙しくなりますよ」 


 

これにて4章は終わりです。閑話を1つ挟んで4月から新章スタートの予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ