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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
シカモアの友達づくり
62/63

55葉 種蒔く族長

 少女は寝床に伏していた。

 泥のようにうつ伏せでぐっすりと眠っている。


 暗い炎が灯る翼が広げられ、火の粉の靄を部屋いっぱいに広げる。

 きぃきぃとホルス鳥のネフティーが鳴き声を上げる。

 少女はまだ眠っていたかったが、相棒は許してくれなさそうだと判断し、のそのそと起き始める。


 「ネフティー、もうちょっと寝かせてくれてもいいのに・・・なかなか戻ってこなかったこと、まだ怒ってるの?」


 ネフティーの止まり木からふと視線を部屋の隅に送ると、見慣れない影があった。

 思わずビクリと反応してしまう。

 

「にゃあ!・・・そうだった、メジェドさんを2匹を寝室まで連れてきたんだった。それにしても昨晩と同じ姿勢、もしかして一晩ずっと立っていたのでしょうか?」


 同じ姿勢で並んだメジェドは無気力な瞳でじっとこちらを見つめている。

 その半実体の体を一日中調べ尽くしたい欲求を抑え込み、身支度を整える。

 ネフティーを左腕に乗せ、メジェドたちを両サイドに控えさせるとシカモアは外に出た。


 真っ直ぐな日差しのいい朝だ。

 家を出ると既にたくさんの猫獣人たちが活動を始めていた。

 こちらの姿を見ると手を止めて声を掛けてくる。


「シカモア様、お帰りニャー」

「昨日の噂はホントだったニャ。これで安心ニャー」

「雲に乗って帰ってきたって本当かニャ。お話聞かせてほしいニャ」


 昨日はわざわざ夜まで待って里に入ったのに、すっかりバレてしまっていたようだ。

 テト族にとって、日が昇り切る前の時間は外仕事を楽にできる貴重な時間だ。

 しかし、気分屋でいい加減な性格の者が多いため、普段は今日ほどの人数が働いていたりはしない。

 おそらく、私が帰って来たからだろうとシカモアは思った。

 同時にいつもこのくらい勤勉でいてほしいものだとも思う。

 なにか大声を叫びながら遠くからどたどたと近づいてくる人影が一つ。

 こちら目掛けて近づいてくる。


 「事件です、事件ですニャ。あ、シカモア様、おはようニャ。それよりも事件ですニャ。なんと族長様が昨日無事にお戻りになったとのことですニャ。これは大事件ですニャ」

 「朝から大声で叫ぶのはやめてください、アビン。あと、その報告、私にしても意味がないと思うのですが」

 「そうですニャ、シカモア様ぁ。アビンは心配してたのニャ。ご無事でなによりニャ。あぁ、もう一つ事件があったのニャ。族長様のお土産を巡ってシニア様とエジ様がケンカしてるのニャ」

 「そちらの事件を先に伝えてほしかったです。アビン、案内しなさい」

 「了解ニャ!」


 里の集落から少し離れた空き地。

 普段は里の狩人たちの修練の場に使っている場所だ。

 昨日帰った時に、楽園から頂いた物資や生き物たちがまとめて置いていた。

 今日里のみんなに説明した後に渡す予定だったのだ。

 

 遠目から見ても、空き地から張り詰めた空気が伝わってくる。 

 武装した狩人たちを率いるエジと一列に並ぶメジェド、滝幕楽の前に立つシニアがにらみ合いをしている。

 綿幕楽たちが興味津々の様子で狩人たちに近づこうとするが、滝幕楽とメジェドに阻まれていた。

 シカモアは急いで駆けつける。


 「シニア、この騒ぎはどうしたのですか?」

 「族長様。このシニア、族長様の説明がスムーズに行くようにと思いまして、職長たちに事前に説明をしていましたのじゃ。するとこの分からず屋どもが勘違いを起こしまして」

 「勘違いなどであるものか。シカモア(サミャ)が獲物をこれだけ取ってきたのミャ。最近は狩りにも行けずみんな元気ないミャ。ここは族長(サミャ)が帰ってきたお祝いも兼ねて、みんなでご馳走を食べて盛り上がるミャ」

 「やはり話を聞いていないのじゃ。族長様はこれらを育てると言ったのじゃ」

 「シニアこそわかってないミャ。家畜を飼うのはとても大変な仕事ミャ。今この里には人手もノウハウもないミャ。経験の足りない族長の補佐をするおミャアが絵空事を言ってどうするミャ」


 無理もないだろう。

 昨晩、こっそりとシニアの元に行ってこれからの計画の話をしていた。

 彼は信じてくれたが、そうじゃない者もいる。

 この計画には里のみんなが心から信じてくれないと成立しない。

 これは少し、説得の仕方を工夫しないといけないようだ。


 「エジ、貴方の言うことも一理あります。条件次第では貴方の意見を聞いていいかもしれません」

 「老いぼれと違って族長様(サミャ)は話がわかるミャ。それで族長様(サミャ)。条件とは何かミャ」

 「それは私の連れてきた中で一番大きな生き物、この滝幕楽を倒すことです。どうですか狩長殿?」

 「ミャミャミャ。確かに大きい。アメミットより大きな生き物は生まれて初めて見たミャ。ただ、それだけミャ。その体はどう見ても猛獣の類には見えないミャ。魔法は使えなくなったが、長手の得物さえあればこんなの余裕ミャ。アビン、俺の長斧を持ってこい!」

 

 エジに釣られて笑う狩人一行。中には自分も戦いたいなどと言う血の気の多い者もいた。

  

 「狩長に恥じない素晴らしい自信ですね。しかし、この生き物達は守り神様の眷属です。油断しないことです。他に戦いたい者も出てきてください。臨時の戦闘訓練です。お相手はこのメジェドたちが務めますよ」


 威勢の良い掛け声とともに、狩人たちは未知の獲物目掛けて駆け出して行った。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 「打つ手なし・・・参ったミャ・・・」


 何事もなかったかのように首を傾げる滝幕楽とその下敷きになっている狩人の長・エジ。

 静寂に包まれた修練場。

 その後、一気に徐々に湧き上がる歓声。戦いを見守っていた者はもちろん、メジェドを戦っていた者も手を止めその様子を見て驚愕の表情を浮かべている。


 「あのエジ様の攻撃が全く効かないニャんて。魔法の補助がなくても筋力だけアメミットを叩き斬れる腕力なのに」

 「あのクチバシ雲だけじゃないニャ。このふざけたオバケも攻撃が全く効かないニャ」

 「守り神の眷属・・・。まさか冗談じゃなくて、ホントかニャ」

 「本当です」


 その場の全員がシカモアに視線を移す。


 「狩人のみなさん、臨時の戦闘訓練お疲れさまでした。この生き物たちに私たちの常識が通用しないことは分かってもらえましたか? これが守り神様の力です」


 これで狩人たちは理解できただろう。しかし、里にいる他の者がまだだ。

 狩人たちでわかった。言葉じゃダメだ。体で分かってもらえないと。


 「詳しくは里の全員が揃ってからお話しします。エジ、よく私の不在の間、里を守ってくれました。魔法を失っての職務は想像以上に過酷なものだったでしょう。その働きに免じて、特別に今日は貴方の意見を聞き入れましょう。今日は宴です」


 先ほどより大きく湧く修練場。


「ただし!」


 族長のよく響くの声ですぐさま静まる。


 「食べていい綿幕楽、この一番小さい鳥のような生き物ことですが、この戦闘訓練に巻き込まれた者のみです。生きている守り神の眷属に手を出すことは今は許しません」


 この訓練中、監視の目を掻い潜り、戦闘に突っ込んで命を落とす綿幕楽たちが数頭いた。

 戦っていた狩人たちはそのことに今更気づいたようだ。

 その中の狩人の一部が怯えだす。


「ニャ!? こいつって確か魔法の力を奪うんじゃ・・・」

「ま、魔法が使えなくなるニャ。気を付けてたのに・・・」

「信じなさい!」


 族長の少女が幼さを感じさせない鋭い口調で言い放つ。

 ここで不安を広げるわけにはいけない。


「勇敢に戦い魔法を失った者たちよ、私を信じなさい。魔法を失った者を中心に倒れた綿幕楽をマウの調理棟へ運びなさい。シニアからマウには話を通してあります。そしてマウの手伝いをしながら守り神様に祈るのです。失った力の再生を」


 シカモアはスカラベの杖を掲げ、影の玉を上空に飛ばす。


「さすれば、守り神様は奇跡を授けて下さるでしょう。見ての通り、私は力を失ってはいません」


 シカモアはさらに続ける。


 「魔法が使える狩人たちには他の仕事です。大変ですが、宴までには終わらせましょう。今日、私たちは守り神様の奇跡に立ち会うことになりますよ」

次回で4章はラストです。


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