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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
シカモアの友達づくり
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54葉 大樹の前の少女

 説明を聞いた後はあっという間だった。

 すぐにシカモアととも里に行く者が集められた。

 といっても、そのほとんどがその辺にいた綿幕楽だが。

 一匹だけいる上位眷属の滝幕楽が、彼らを囲うように泳いでいた。


「妖精さん、いくら滝幕楽でもこの濃霧の中でマクラを率いるのは難しいのでは? みんなはぐれてしまいませんか?」

「我々がいるとしても、確かにちょっと引率役が足りませんね。ユメちゃん、もっと滝幕楽を出せないのですか?」

「ムリ、まだ数が少ないから。早く数を増やして垣根からメジェドを追い出さないと」

「メジェド! すっかり忘れていましたが、ここにはやはりメジェドがいるのですか? 彼らを里へ連れていくことはできませんか? いえ、連れて行けなくても里に帰る前に少し会うことできませんか? 短時間でいいので調べる時間を頂きたいです」

「えらい食いつきでありますね。でも連れて行くのはダメですよ。彼らはここでの仕事がありますからね」

「マヤちゃん、やつらはもうすぐ必要なくなる。タキちゃんの毛には霧をたくさん吸収する力がある。数さえ増えれば、霧の維持はタキちゃんたちだけで十分」


 夢婦屯がとげのある口調で言い放つ。

 シカモアは垣根の霧が一瞬歪んだような気がした。


「確かにメジェドはタイジュさまを襲った外敵でありましたが、今は十分心を入れ替えて真面目に働いているのであります。そこまで邪険にしなくてもいいとは思いますがね。ユメちゃんは案外根に持つタイプであります」

「私は許してないし許さない。マヤちゃんがタイジュちゃんのためになると言うから我慢してただけ」

「あ、あのぅ、いらないということは私がメジェドをもらっても問題ないかにゃ、いえ、ないでしょうか?」

「あなた、急にぐいぐいきますね。というかメジェドをどうやって手懐ける気でありますか? 半端な策じゃ逃げられますよ」

「この杖にはアンデッドを支配する強力な力があります。メジェドがアンデッドある以上、必ず手懐けてみせます」


 シカモアは高々と杖を掲げた。


「あー、そんな力もありましたね。融合のことしか頭になかったでありますよ。全くケプリの杖なんてどこでそんなもの見つけてきたのやら」

「妖精さんはこの杖をご存じなのですか? そういえば、どうしてこの杖の魔法はマクラや霧の力で消えないのでしょうか?」

「シカモア、アドバイスを覚えているでありますか? 長生き、したいですよね?」

「う・・・はい。調子に乗りました。自重します」

「よろしい。それは不思議で便利な魔法の杖であります。それ以上のことは調べようと思わないことです」

「マヤちゃん、あまりシカモアちゃんをいじめないで。あと、タキちゃん達でカバーするから、その分くらいのメジェドを渡しても大丈夫よね? もちろん、タイジュちゃんに許可はもらうけど」

「ホントに頂けるのですか? ありがとう、ユメちゃん」 

「メジェドのことになるホントぐいぐいきますね。まータイジュさまがいいなら私は構いませんよ。では、そろそろ出発しますよ。・・・ってマクラの引率役が足りないって話が全く解決してないのでは?」

「大丈夫。私に任せて」


 夢婦屯が翼を広げる。

 すると濃霧の壁が左右に分かれ灰黒色の砂の道が現れた。


「制御は完璧」

「おぉ。こんな技をいつの間に覚えたでありますか?」

「タイジュちゃんやユメちゃんが信じてくれてるから使えるの。これまでの修業を認めてくれたおかげ」

「ユメちゃんは楽園一の努力家でありますね。おかげで早くタイジュさまに会えそうです。この視界のよさなら引率は楽でありますね。さぁ、行きましょうか」


 濃霧の隙間の道を歩みながら、シカモアは考える。

 タイジュ。妖精と神獣をまとめる上位存在。一体どんな生物であろうか。

 もうどんなものが出てきてもおかしくない。

 神獣クラスを2匹も従えている事を考えると可能性は限られてくる。

 これだけ美しい聖域を生み出したのだし、自然の化身だろうか?

 いや、初対面のユメちゃんやこの妖精の態度を考えれば、ヒトとの敵対勢力、つまり新たに生まれた魔王という線もある。

 いやいや、これだけ大きな変化を伴ったのだ。

 ひょっとすると、神そのものが顕現したなんてこともあり得る。


 視界が開ける。

 一面の緑。そして、いままでなぜ見えなかったのかわからないほど巨大な木だ。

 濃霧の垣根よりも高く聳え立つそれはあまりの大きさで、シカモアは距離感を掴むまで時間がかかった。

 何度瞬きしても低位の幻術で惑わされてるような違和感が拭えなかった。


「あちらがタイジュさまであります。さぁ、向かいましょう」


 巨木の根元まで近づくと妖精と神獣がその巨木に向かって何やら話しかけている。

 その様子を見てシカモアはタイジュの正体を考察する。

 その思考が小声で零れているが、本人を含め誰一人気付いていない。


「なるほど。納得がいきました。神獣クラスを複数従える存在、さすがにいるわけがありませんでした。これは妖精が作った象徴としての上位存在。あるいは偶像と言えばいいでしょうか。確かに信じられないほどの魔素(マナ)を放ち神々しいオーラのようなものを感じます。でも、この木自身が妖精さんやユメちゃんに指示を出したりなんて、まさかしないしょう」


 シカモアはさらに続ける。


「おそらく、奇跡の力の源ととして活用しているのですね。圧倒的な魔素(マナ)を感じますし、周囲にたくさんの生き物の気配も感じます。奇跡を起こす説得力としてこれ以上のものはないでしょう。さらには協力者でかつ同格のユメちゃんと同じ法則の奇跡を使うための同調装置としての・・・」


 シカモアは顎に手を持っていこうとして慌ててやめる。


「・・・って、いけないにゃ。妖精さんのアドバイス。流石にこれ以上あれこれ考えてると見逃してくれないかもしれません。長生きはしたいです」

 

 幸い、妖精さんは巨木に夢中でこちらには気づいていない。

 ほっとするシカモアは脛をくすぐられる感触に驚き、足元を見る。

 いつの間にか、小柄な黒っぽい獣が数匹集まっていた。

 チャーミングな大きな耳でぺたぺたと触ってくる。


「カーバンクル・・・でしょうか? 本で見たのとちょっと姿が違うような・・・って、にゃ?」


 シカモアはわが目を疑った。

 そのカーバンクルたちが自分の体長を優に超える大きさの果実を運んできたからだ。

 きのみをぐるりと囲み、その大きな耳を腕代わりにこちらへ運んでくる。

 その様子はまるでアリだ。


「シカモアちゃん。これがタイジュちゃんのきのみ」

「これがきのみ・・・ですか。いくら何でも大きすぎませんか」

「あなたのお仲間に奇跡を信じてもらうには、これくらいのインパクトは必要でありますよ」


 きのみに続いて次々と運ばれてくる。

 泥団子に何かの種、芝生の苗などだ。

 タイジュの葉で出来た入れ物に山盛りに入った物資。

 それを綿幕楽の毛のロープで引っ張ってくる黒いカーバンクルもどき。

 この生き物たちは道具も作れるのかと一瞬思うシカモアだったが、すぐに妖精が作ったのであろうと思いなおした。


「シカモア。心優しいタイジュさまがあなたの里を憂い、この物資をあなたに与えるそうです」


 呆然としていたシカモアだったが、妖精の声で現実に引き戻される。

 偶像と言えどこの楽園で最上位の存在。下手な態度はとれない。


「タイジュ様、貴方様の聖域に土足で踏み込んだ無礼な私めを許して頂いたことに加えてこれほどのご慈悲をいただき、感謝の言葉もございません。このご恩は一生、忘れません」

 

 私の発言の後、妖精は巨木と二言三言話した後にこちらに話掛けてきた。


「聖域という言葉はタイジュさまが控えてほしいとのこと。ここは楽園。これからはそう呼ぶように」


 楽園。

 確かに聖域という言葉はヒト視点の表現だ。

 これからは呼び方が混在しないようにこちらの表現に合わせた方がいいだろう。

 奇跡を扱う上でも表現の一致は重要だ。


 その後は、物資をひたすら夢婦屯に詰め込む作業が続いた。

 先ほどのカーバンクルや、やたら仕草が乙女チックなモスマンも手伝ってくれたので思ったほど時間はかからなかった。


 最後にシカモアが乗り込むと、夢婦屯はゆっくりと空へ舞い上がる。

 空の道中、シカモアは疲れのためかほとんどに眠りに落ちていた。


シカモアは大量の物資、多くの楽園生物と一緒におおきな友達の背に乗せられて、懐かしの故郷へと飛び去っていった。

 

  

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