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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
シカモアの友達づくり
56/63

49葉 聖域の密談

ごめんなさい。更新大変遅れました。

38葉と合わせて読むとよりわかりやすいと思います。

 快晴の青空の下。

 猫獣人の少女はサザナミチガヤの穂を摘んでいる。

 彼女に群がる綿幕楽。

 既に穂のないチガヤは羊頭のアヒルたちに踏み荒らされている。

 少女が摘んだ穂はすぐさま奪い取られ、綿幕楽たちが丘のように盛り上がった湖へと運んでいく。

 カゴのようなものが必要だなと少女は思った。

 それにしても、ため池と呼ばれていたがまさかこの湖も霧同様に魔法で作られたのだろうか?

 神獣様曰く、魔法ではなく奇跡とのこと。

 何がどう違うのだろうか? 私の魔法が使えなくなったことにも関係があるのだろうか?

 

 記憶喪失の少女に疑問は尽きない。

 周囲を霧の壁に囲まれたオアシス。

 そこに暮らすは神獣とその眷属。

 シカモアは顎に手を当て考える。

 私はなぜここにいるのか? なぜ里を離れているのか?

 この聖域とも思える場所に来た理由も過程も思い出せない。


 綿幕楽の一匹が頭を胸に擦り付けてくる。

 最初はその力強さに驚いたが既に慣れた。

 撫でてあげると奇妙な鳴き声で嬉しそうに鳴く。

 改めて、ホントにかわいい。

 毛並みはごわごわで弾力が強いが、撫でている手に力を入れると驚くほど沈み込む。

 なんとなく癖になる感触だ。

 

 山なりの湖の真ん中に浮かぶ巨大な毛玉。

 ここを統べる神獣の夢婦屯だ。

 伝説が残っていないことがおかしいほどの莫大な魔力でこの地の霧を制御しているそうだ。

 里に帰れたらこの神獣の逸話を調べてみようと少女は思った。

 

 目覚めた当初こそ混乱していたが今は冷静さを取り戻せたと思う。

 目覚めたときは思わず子供のようにはしゃいでしまった。

 里のみんなに見られてたら族長の威厳を失うところだった。猛省せねば。

 そして、里の長たる私がここに長居するわけにはいかない。

 帰る手段を相談できる相手は彼女しかいないだろう。

 ゆっくりと動き出した夢婦屯にシカモアは声をかけた。

 


「今日もマクラちゃん達はとっても可愛いですね」

「でしょ。もっともっと増やす」

「ええっ。これ以上は池から溢れちゃいますよ」

「シカモアちゃんが褒めてくれるから気分がいい。もっと増やしちゃう」


 初対面では排除などと不穏な言葉を口にしていたが、今はまるで友達のような気軽さで話をしてくれる。

 最初の妖艶でミステリアスな女性の雰囲気はもう感じない。

 会話を重なるほど、シカモアの中での神獣のイメージは快活な少女へと変わっていった。

 

 神獣はやさしい。

 今も蛇のように長い首を寝転がるように地面に投げ出し、なるべく目線を合わせてくれようとしているくらいに。

 しかしそれ故にどう接したらよういかがわからない。

 シカモアとしては人智を超える存在に対し、仰々しく接するのが正しいと思うのだが本人はそれを好まない。

 かといって、今以上フレンドリーに接するほどの度胸もない。

 さっさと話を本題に移す。


「それで美しくも偉大な神獣さまは私の願い事を叶えてくれる気にはなりましたか?」

「ここに来た理由を思い出したい、魔法の杖を返してほしい、里に返してほしいの3つね。残念だけど今すぐはダメ。決してイジワルじゃないの」


 困り顔の夢婦屯からの説明をシカモアは静かに聞いている。

 予想できていた答えだった。


「1つ目の記憶。シカモアちゃんの記憶は垣根の霧でぼやけてる。〈密寝具の秘め事(ミッシングベール)〉による奇跡の力。垣根に入らずに普通にしていれば自然と思い出せるはず。何かきっかけがあればすぐにでも」


 こくりこくりと頷く猫獣人の少女。

 その手はゆっくりながらも未だにマクラを撫でている。


「2つ目の杖。これはとっても不思議。魔法なのに、洗い落とせない。だから危険。これはタイジュちゃんを傷つけるかもしれない。ホントはマヤちゃんに調べてほしいけど、シカモアちゃんを匿ってることは秘密。だからダメ」


 それだけ強大な力があるのになぜあの杖一本が怖いのかわからない。

 シカモアは不可解に思う。

 そしてそれを調べることができる人物がいること。

 会いたいという好奇心を必死に抑える。

 察するに、この温厚な神獣に外敵の排除を頼める存在。

 見つかれば、次は命はないかもしれない。

 自然とマクラを撫でる手に力が入る。

 シカモアは頷き、次の言葉を待つ。


「最後に3つ目。送ってあげたくても霧の制御をマスターするまで私はここを動けない。たとえ送ってあげられても、シカモアちゃんはそれでいいの? 記憶がないからシカモアちゃんの用事がわからない。そんな状況で帰っていいの?」

「神獣さまのおっしゃる通りですね。もう少しの間、お世話になってもいいですか?」

「もちろん。あと神獣さまじゃなくてユメちゃんって呼んで」

「いや、それは・・・、流石に畏れ多いです」

「そう。残念」


 突然、夢婦屯が首を持ち上げピンと張る。

 水面は飛沫を上げ、風が走る。

 焦りを孕んだ言葉が口早に紡がれる。


「嘘っ。マヤちゃんがくる。前回からそんな経ってないのに。まずい。シカモアちゃんは隠れて!マクラちゃん達、彼女をしっかり隠して!」


 心構えができる前にシカモアの体は綿幕楽の波に押され、ため池の淵まで流される。

 そのまま肩まで水に押し込められ頭だけが水上に出してる所をマクラに囲まれ、視界は真っ白になった。

 獣人故、頭上に突き出た耳のおかげで音だけは拾える。

 落ち着きを取り戻しその事が理解できたシカモアには、来訪者に見つからないかどうか気がかりだった。

 しかし、自分ではどうしようもできなかった。

 なぜなら水中までもマクラがいて自力で水に潜ることすらできなかったからだ。


 視界が遮られた中、入ってくる情報のほとんどは音だ。

 自然と神獣と来訪者の会話に集中してしまう。


 夢婦屯は隠し事から気を逸らすためか、具合の悪い演技をしている。

 心配する来訪者だが、慣れっこなのかすぐに会話は別の話題に移った。

 どうやら神獣様の憧れの存在であるタイジュは共通の知り合いらしい。

 いままでの対応を考えると信じられないことに来訪者は夢婦屯と同格の存在のようだ。


 次の話題にシカモアは耳を疑う。

 なんと、新たな眷属を生み出すなどというとんでもないことを相談し始めた。

 各国の守り神など強大な力を持つ生き物の中には周囲の生き物を眷属として統べる力があると書物で読んだことがある。

 100年前に封印された四天の竜・アポピスと魔蛇・アスプなどの関係は有名だ。

 ヒトだって使い魔の契約やアンデッドの支配などで役立つ生き物を使役することもある。

 私だって杖さえあればそのくらいはできる。

 強きが弱きを従えるはとても自然なことである。


 しかし、神獣たちは支配ではなく創造するための打ち合わせをしている。

 担わせる役割に合った具体的な能力について真面目に議論をしている光景はため池に来る前のシカモアであれば呆れて物も言えないほど滑稽に見えていただろう。

 ただ、今の少女は知っている。砂漠の真ん中に山のような湖ができたことを。綿幕楽という新種の生き物が産み出されたこと。

 そして少女は気づいてしまった。この神獣たちを従えているさらに上位の存在がいることを。


 興奮と畏怖で揺れる感情を必死に抑え込むシカモア。

 必死に呼吸を整える。大きな音を出さないように。

 この数日で慣れたつもりだったがとんでもない。

 慣れたのではなく麻痺していたのだ。

 いくら優しかろうが相手は神獣、ここは聖域。

 ここがヒトがいていい場所ではないだと少女は思い至った。 


 そして次の話題。

 侵攻、獣人、住処。

 これらのワードにびくんと体が震え、胸が締め付けられる。

 これらの単語が頭を巡り、会話の中身が入ってこない。

 危機感と罪悪感が自分の心に広がっていくのをシカモアは感じた。

 聞こえてくる会話を頭から追い出し、自分の内側へ集中する。

 頭にかかったもやがかかっているような違和感。

 もう神獣たちの会話は聞こえない。

 自分の使命がなんで合ったかを思い出すために、猫獣人の若族長は必死に先ほどの単語を反芻した。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「マヤちゃんは帰ったわ。もう大丈夫。・・・寝ちゃってた?」

「・・・どうやらそうみたいです。ご心配をかけました」

「顔色悪いけど大丈夫?」

「・・・あまりよろしくないので今日はもう休ませてもらってよろしいですか?」

「それがいい。おやすみなさい」


 アメミットを始めとした砂漠の生き物たちの活性化、里で起こった綿幕楽の狩猟と狩人たちの魔法不全の事件、突如現れた濃霧とその中にあった神獣の聖域。

 シカモアは全てを思い出していた。それらはすべてが繋がった。

 そして、綿幕楽による侵攻計画。


 シカモアは理解した。

 聖域(ここ)は敵地で、夢婦屯(しんじゅう)は敵、だと。


「うう。どうしてこんなことに・・・」


 少女は思わず弱音を零す。

 真っ白な綿毛を纏う獣たちにぐるりと囲まれている。

 ぐめぇ、ぐめぇと奇怪な鳴き声が其処ら中から聞こえてくる。

 さきほどまで愛らしく見えていたはずなのに、今はとても不気味に感じる。

 少女は辺りを見渡しながら必死に脱出策を考える。

 配下のアンデッドも、頼れる相棒も今はいない。


 答えは出ないまま少女は眠りにつく。

 彼女が寝付いた後、数匹の綿幕楽が寄り添う。

 険しかった彼女の寝顔は少しだけ和らいだ。

以下、更新遅れの言い訳です。読み飛ばしてもらって構いません。

仕事が忙しくなるとは聞いてたけど、まさか引っ越しを伴うほど大仕事とは思わなかった。

ばたばた引っ越し準備して、新たな職場にも慣れて、やっと落ち着いて気付けばこんな時間が・・・。

はい。改めて申し訳ありませんでした。

以後、更新ペースは週1回。筆が乗れば2回くらいで再開していきます。

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