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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
シカモアの友達づくり
55/63

48葉 神獣との出会い

「あっ、甘い。お水以外にもちゃんと実もあるんだわ」

 

 一心不乱に瑞々しい穂と格闘するシカモア。

 先ほどの失敗もあり、慎重に食べ方を模索している。

 先ほどより若い茅花を手に取り捕食に挑戦する。

 水が抜けたもみ殻を齧り取り、口の中でよく噛み潰す。

 すると口の中に上品な甘さが広がる。


 噛み終えたもみ殻を吐き出し、次のもみ殻を噛み割る。

 あふれ出る水を地面にこぼし、水切りを十分にしてから齧り取る。

 既に喉を潤した彼女の目的は空腹を満たすこと。

 生のもみ殻は非常に硬いがお構いなしに噛み続ける。

 

 里では穀物はめったに食べられない。

 隠れ里の水源は潤沢とは言えず、また育成技術も持っていないため穀物を育てていないからだ。

 食事のほとんどはイモやマメの類。

 たまに狩猟で獲られた獲物。

 小麦などはビス族との交流時に少量手に入ることがある程度。


 空腹と疲労、そして非常識な体験の連続でシカモアの感性は既に麻痺していた。

 水や食べにくい部位は捨て、穂の甘味が凝縮されている箇所のみを食べている。

 今彼女が行っているのは平常時であれば確実に遠慮していたであろう贅沢な行為。

 しかし、それを咎める人もいなければ止める理由もない。

 シカモアはひたすらその植物の蜜のみを吸い続けた。

 

 ふと、辺りが暗くなっていることに気づく。

 自分を覆う大きな影。

 上を見れば水の丘と同じ青が広がっている。

 日はまだ落ちていない。

 胸騒ぎを覚えゆっくりと振り返る。

 広がる景色は白。

 しかし、地上に敷き詰められた羊頭のアヒルだけではない。

 そこには壁があった。羊毛の壁だ。

 どこまであるのだろうを見上げていくとそれが壁でないことがわかる。

 

 顔があった。

 羊の頭。しかし、いままで見たものとは比べ物にならないほど大きい。

 その顔にはあの生き物から感じる幼さはなく、妖艶さのようなものを感じられた。

 きっとこの生き物たちの親だとシカモアは思った。


「この子が外敵ちゃん? 随分と可愛らしい」

「えっ。喋った」

「喋れるの?」


 互いに固まる一人と一匹。

 静止した時間の中で必死に頭を働かせる。

 そのうちにシカモアが今自分があの生き物たちの縄張りに入って餌を横取りしていたという事実に行き着いた。

 言葉が通じる相手に出会ったこと、その相手が本能レベルで恐怖を感じるほどの巨体でこっちを認識していること、そしてなりより自分が敵対行動をとってしまったかもしれないこと。

 これらを理解し少女は慌てふためく。

 かの四天の竜ですら人の言葉は理解できない。それができるのは各国にいる守り神を筆頭として神獣と呼ばれる生き物くらいだ。

 よって今目の前にいる生き物は1匹で国家の戦力の切り札を務めることが出来るほどの膨大な魔力を持っている可能性が高い。


「あっ、そ、その、ごめんなさい。勝手に縄張りに入った挙句、魔草を食べてしまって。誤って霧にはいってしまい彷徨っていたらここに辿り着きました。どうしてもお腹が空いていたのです。申し訳ありません」

「困る。そういうこと言われると排除しづらい」

「ヒェ。ごめんなさい、ごめんなさい」

「まぁいいわ。悪い子じゃなさそう。最近、タイジュちゃんと会えてない。修行の合間のささやかな楽しみには話相手が必要。外敵ちゃんは名前がある?」

「ひ? わ、私はシカモアと言います」

「シカモアちゃんね」


 突然の浮遊感。

 空中に放り投げられたと少女は一瞬理解できなかった。

 わかったときには柔らかで真っ白なものの中に埋もれていた。

 いままで経験したことのないような肌触り。

 気を抜くと気持ちよさで眠ってしまいそうな感覚だ。


「背中にちゃんと乗れた? じゃ、行くわね」


 どこに、と問いかけたかったが、声が出せない。

 正確には真っ白な綿毛に阻まれて自分にすら声が届かない。 

 綿毛の海から必死に這い出し、頭だけを出す。

 ぐんぐんとすごいスピードでシカモアが目指していた水の丘へと進んでいっている。

 しかし、揺れはほとんどない。

 まるで滑っているような移動だ。

 さらに辺りを見渡すとここら一帯が霧の壁に囲われていることに気付く。

 神獣の上から見た景色。

 霧、羊毛、穂。様々な白色が折り重なった世界の中心に水の丘。


「キレイ・・・」


 思わず言葉が零れる。

 いままで読んだ物語の世界でもこんな幻想的な場所はなかった。


「私のこと?」


 神獣が問いかけてくる。


「へ? は、はい。とても美しい毛並みだなと思って」

「ふふん。シカモアちゃん、わかる子ね。この毛はタイジュちゃんのために毎日手入れしてるの」


 恐怖が抜けないシカモアは神獣の勘違いに話を合わせることにした。

 すると巨獣は饒舌に語り出す。先程の話し相手発言を思い出される。

 

「最近は毛の中に少し雲を仕込むことで艶の出し方にもこだわってる。知ってる? 暖かい雲と冷たい雲じゃ光方が違うの。その日の気温と気分に合わせた自分を表現できるって素敵よね。タイジュちゃんにも早く見せたい」

「なるほど。雲や霧を操れるのですね! 素晴らしく偉大な魔法です。さらにお洒落にも生かせるなんて夢のようですね。もしかして、ここ一帯の霧も操っているのですか?」

「そう。垣根の制御がまだ不十分。形は維持出来るようになってきたけど効果がダメ。気を抜くとすぐにただの霧になる。そのせいで外から外敵がやって来ちゃう。タイジュちゃんに迷惑かけちゃう」

「これほどの魔法が使えて尚、向上心があるなんて尊敬です。そして、よく話に挙がるタイジュちゃんとはどんな方なのですか?」


 急に周囲の気温が上昇する。

 汗ばむほどだが暑苦しさはなく、不思議とポカポカ暖かい。


「聞いてくれる? タイジュちゃんはとても素晴らしいの・・・


 そこから先は長かった。

 あらゆる角度からタイジュを褒めたたえる巨獣。

 こちらの相槌すら待たずに紡がれる賛美の声はやがて子守唄に変わる。

 シカモアはふかふかの体毛に包まれながらいつの間にか眠りについてしまった。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「シカモアちゃん、…きて」


 里では決して呼ばれない呼び名を耳にし、シカモアは違和感を覚えながらも目覚めることができない。

 今の場所がとても居心地がよいからだ。

 肌に吸い付くような肌触りに包まれて力が入らない。


「シカモアちゃん。そろそろ起きて」


 だんだんと頭が働き現状を思い出してくる。

 少女は自分が神獣の背でうたた寝してしまったことを理解し慌てて飛び起きる。


「ひい。ごめんなさい。話の途中で寝てしまって。貴方の背中があまりにも気持ちよかったのでつい・・・。あ、あの命だけはお助けください」

「気持ちよかった? それはよかった。タイジュちゃんのお布団としてそれは必須項目。私の名は夢婦屯。夢で婦女子と(たむろ)すると書いて夢婦屯。タイジュちゃんにこのため池を任された者よ」


 それがシカモアと夢婦屯の最初の出会いだった。


 

本業が忙しくなってしまったので、これから週1の投稿になりそうです。お仕事が落ち着いたらまた投稿ペースを戻していこうと思います。

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