表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の開園準備
5/63

5葉 楽園と新たな仲間

 太陽の日差しを感じる。

 全身の枝先まで意識を巡らせると、葉っぱから一気に爽快感が流れ込む。意識が覚醒し、頭が冴えわたってくる。

 俺が大樹(タイジュ)になって数日が経過した。感覚も大分慣れた。というか、体が動かんから操作感とかはないけども。


「おっはようございます。タイジュさまっ。今日も元気に張り切っていきましょー!」


 マヤは早起きだ。いつも俺より先に起きている。モンシロチョウみたいな翅でふわふわと俺に近づいてくる。

 瞼の機能を失った俺は、朝日が昇ると同時に勝手に体が起きてしまう。日が沈むと体の酸素が足りないのか、気絶するように眠ってしまう。一日の半分近く眠れることは素晴らしいが、強制的なのはどうにかならないものか……


「今日も今日とて奇跡の練習でありますよー」

「おはよう。今日もご指導よろしくお願いします」


 そうだな。奇跡をマスター出来れば自由に眠れるかもしれない。ここ数日で簡単な奇跡なら結構練習したし。<いろんな味のきのみを生む奇跡>に、<いろんな色のきのみを生む奇跡>、さらには<いろんな形のきのみを生む奇跡>まで。あれ?もしかして俺、きのみしか作ってない?


「さあ、今日はどんなきのみをご馳走してくれるでありますか」

「今日もきのみを生む奇跡?マヤが食べたいだけじゃないの」

「復習でありますよ。今から言うきのみが作れたら今日から次のステップであります」


 マヤの指示通りのきのみを作る。

 これが結構難しい。前回のように俺が考えた奇跡なら、マヤが誤解していても奇跡は起こる。ただし、思い描いた内容と一致する保証はできない。

 しかし、マヤが発案した奇跡を起こすとなると話は変わる。俺が誤解している場合は、俺の起こしたい奇跡の内容を観測者が信じていない扱いとなり奇跡は起こらない。さらに失敗するほど難易度が上がる関係であまり試行錯誤も出来ない。

 俺はここ数日で頭に叩き込んだ、食いしん坊の相棒好みのイメージを膨らませる。


「これで……どう?」

「おめでとうございます。1発で奇跡が発現しましたね」

「これできのみの次のステップに移れるんだよね」

「いやいや、きのみ以外で応用は難しいでありますよ。この数日互いにきのみのことばかり考えたからの一致でありますから」


 きのみを噛りながらマヤが言う。じゃあ、次のステップとは?


「タイジュさま、小石を拾うのと岩を持ち上げるのでは必要な腕力は違いますよね」

「その通りだね」

「それと同じように小さな奇跡より大きな奇跡を起こすのに大きな力が必要であります。この発現に必要な力を奇跡力と呼ぶであります」


 もっともな話だ。ゲームの魔法でいうところの魔力みたいなものだろう。そう言えば、俺はいままで奇跡を使っても、精神的な疲労くらいしか感じてない。


「しかし、何をもって必要な奇跡力が大きいか小さいかは精霊である私たちにすら明確な基準がわからないのです。だから、いままでは確実に小さいと思われる<きのみ生み>ばかりしていました」

「なるほどね。いままで練習してきた<きのみ生みの奇跡>をどうにか応用して大きな奇跡を起こすのが次のステップってわけね」

「むー。ちゃんと全部お話を聞いてほしかったであります。正解であります」


 きのみに能力付与か。

 真っ先に思い付いたのは、食べた者に特殊能力を与えるきのみだね。ありきたりだけど、あまり凝った能力だと相方がわからないだろうし。


「さあ、タイジュさまはどんなきのみを作りますかっ!食べられても再生するきのみや、ウサギやリスの入ったきのみなんか面白そうであります」

「まさかそのウサギやリス食べないよね?いままでのきのみも全部食べちゃってるし」


 相方のヒントはありがたい。ウサギやリス、他の生き物か。

 そう言えばここは黒い砂漠の真ん中。芝の原っぱ。辺りに水源がないからオアシスではなさそう。よくわからん場所だけど、いままでマヤと二人っきり。妖精さんとの二人暮らしも悪くないけど、動くものが少ないから刺激が少ない。俺も動けないし。ここらで一緒に暮らす仲間を増やしたいよね。


「よし。ずっと二人は寂しいし、仲間を増やすきのみを作ろう」

「それはいい考えでありますね! どんな仲間を増やすのですか?」


 ここはやはり、妖精さんを増やしたい。マヤだって同種が増えたら嬉しいはず。決して俺が妖精さんに囲まれたいわけではない。決して。


「マヤの仲間を増やそう。みんなで飛んだ方が楽しいんじゃないかな?」

「その通りでありますね。仲間の()()実を作るでありますか?」

「いや、食べると仲間を呼ぶ力を得るきのみだ。マヤが食べると仲間を召喚できるみたいな。想像できる?」

「ふむ。きっと女神さまが私たちを生み出したような力でありますね! 女神さまを真似るなんて、タイジュさまはなかなか大胆なこと考えるでありますよ」


 おお。思ったより伝わってそう。これはイメージ通りに行けるか?

もしマヤが妖精を召喚できるなれば、妖精召喚はマヤがしつつ、俺は他の奇跡に集中できるはず。俺が直接産むよりずっといい。それに自分で生き物を産み出すってなんか怖い。


「最後に俺の奇跡力で足りそうかな?」

「大丈夫でありますよ! ただ、いままでの奇跡に比べてとても大きな力ですので、反動に備えるでありますよ」


 よし。イメージのすり合わせOK!奇跡力OK!

この実を産み落として、フェアリーたちの楽園(エデン)に俺は行くぞ!まず、枝先に視界を移し、葉の付け根に意識を集中して……


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 はっ、意識が飛んでた。失敗か?

 俺の楽園は?


「タイジュさま。お目覚めですか?思った以上に大きな力でした。見立てが甘く申し訳ないであります。」

「それより奇跡は?」

「大丈夫です。成功でありますよ! 今、お見せします」


 マヤが俺の葉の一枚に近づいて、人差し指で2度つつく。するとそこに光が溢れ、やがて米粒のようなものが現れた。


「これは卵?」

「はい。卵であります。今から成長して一緒に飛ぶのが楽しみでありますね!」


 この世界の妖精は卵から生まれるのか。

 ちょっと召喚イメージに違いがあるものの、この程度は誤差範囲。妖精が増えることになるなら問題ない。


「あっ、先に産んだ卵がもう孵ってます!見てください。」


 そこにはキレイな緑色をした4匹の青虫たちがいた。今は卵の殻に夢中らしく一生懸命食んでいる。


 イモムシじゃねーか。

 一体どこで俺は間違えたっ!いや、間違えたのはマヤか?


「タイジュさま。安心してください。矢虫は成長して羽化したらちゃんと妖精になりますから。二人で一緒にお世話しましょう。ねっ。」


 ふいに景色に変化が起こる。まわりの芝生が少し広がったのだ。初めてのことに戸惑う俺。マヤが解説してくれる。


「矢虫たちがタイジュさまを認めたので、タイジュさまの奇跡力が強まりました。奇跡は多くの信者から観測されることでより確かなものになるのであります」

「すごいな。力が溢れてくるね。よし、マヤ、矢虫の卵もっと追加できる?」

「様子を見た方がいいと思うでありますよ。」


モシャ。モシャモシャ。

痛い。どうした。はっ、矢虫たちが俺の葉っぱを食べてる。これ人間でいうと髪の毛をむしられてるのに近いのかな。これ。小さいとは言え、4匹でこのペースはちょっと怖い。てか、痛い。


「調子にのってたくさん卵産んじゃいましたので、これ以上はちょっと……」

「マヤさん、ちょっとなにやっちゃってるの?」

「だって、タイジュさまはいっぱい妖精さんみたいって思ってたでありますから。楽園(エデン)を作るって張り切ってましたから。」

「喋れるようになったんだから、心読まないでよ。」


 これは後の話だけど、俺の回りの芝生地帯はみんなから楽園と呼ばれることになるのでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ