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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の花壇づくり
48/63

43葉 黄金色の建材

「おお、できたのか。今回は間に合わないと思っていたのだ」


 ノマドが枝から飛び降りるとズシンと着地音が響く。

 体長の10倍近くの距離を飛び降りてもノマドはケロッとしている。


 その事実も驚きだが、それよりも運ばれてきたものに注目だ。

 形だけで判断すると石か岩のようだが違うだろう。

 透明感のある黄色味を帯びた光沢がきれいだ。

 金属のようにも見えるが、こんな砂漠と芝生しかない場所に金属の塊なんてあるはずない。

 しかも、さっき回収された精霊達用のイスがその物質に全体をコーティングされている。

 短時間でこんな加工できるなんて樹脂かプラスチックの類かな? この物質に全く見当がつかない。 


「タイジュ、お前の睨んだ通りなかなか面白いものができたのだ。ガハハ」


 心当たりのない言葉。どういうことか考えているうちに、ノマドはハチミツの魅力に支配された会場に向けて声高々に解説を始めた。


「皆の者、ここでもう一つ発表なのだ。ハチミツを舐めながら聞くとよい。今、お前たちが食べているハチミツはすべて花音蜂たちによって作られたのだ。その一方で、決闘蜂たちもそのハチミツと同等の価値があるものを作ったのだ。それがこれなのだ」


 ケット達が持ち上げている物質を指して嗤うノマド。


「言葉で説明するのも面倒なので実演するのだ。決闘蜂、タイジュの枝を我に投げるのだ」


 以前素材用に渡していた枝の一本を1ダースのケット達がノマドの上に落とすように放る。

 俺からすれば小枝だが、そのサイズはノマドの胴くらいの太さ。

 それは丸太と言っても差し支えない。

 それどころか、元の世界基準で考えると一般的な杉の木の幹よりも太いだろう。

 落ちてくる小枝(まるた)めがけて、ノマドは素早く剛腕を一振り。

 悪魔のような鉤爪によって枝は6等分にスライスされて地面に転がった。


「タイジュは頑丈だが我の爪にこんなものなのだ。ガハハ」


 その光景を見てマヤが非難する。

 

「タイジュさまがお与えになった枝をあんな風にするなんて」


 ゆーちょ達からもブーイングの嵐。いつも抱きついてくるあの子が後輩から弓と筒を受け取っている。

 目が笑っていない。彼女に影響されて次々と武装し出すゆーちょ達。

 会場の雰囲気がとげとげしいものへと変わりつつある。


「なっ、早まるなよお前たち。落ち着くのだ。ええいさっさと次なのだ。これを見ればわかる。さぁ早く投げてくれ」

 

 例の物質で一番大きな塊を投げるケットたち。さっきの枝に比べて小さめだ。

 再び振るわれる剛腕。その威力は先ほどと同等なのは明らかだ。

 枝と違い、例の塊は地上へ落ちていない。

 粉々になったかと一瞬思ったがそれは違った。

 ノマドの爪に刺さっている。

 爪は4分の1ほどの深さまで食い込んでいるがその他に傷もヒビもない。

 金属のような光沢がキラキラと眩しい。


「どうだ、この硬さ。これが決闘蜂たちの作った・・・って、こら。お前たち、弓を撃つな! 痛くはないが鬱陶しいのだ。なっ、この羽虫共、さっきの枝で我を叩くなー」


 残念。どうやら今回の実演は失敗のようだ。

 ゆーちょ達が俺の枝を切り刻むパフォーマンスに怒ってしまった結果、後半のパフォーマンスへの興味より主を馬鹿にされたという怒りが勝ってしまったらしい。

 マクラたちもその価値を理解してないみたいだしね。小っちゃな塊を蹴って遊んでる子もいる。

 結果、ノマドはゆーちょ達から猛攻撃を受けている。

 長い体毛のおかげでケガはしてなさそうなので、急いで助ける必要もないだろう。

 

 しかし、これは思いがけない吉報だぞ。

 どうやら加工も簡単らしいし、使い道はいくらでもあるんじゃないか?

 マヤとユメちゃん、そして地下の女王バンクはその価値が理解できたようでいろいろと思案しているようだ。というかバンク達はちゃんと地上の状況が分かってるのね。どうやってるかしらんけど。

 まぁそれは置いといて、ノマドにはこの会が終わったら改めて説明してもらおうか。

 ゆーちょ達の攻撃はより苛烈になっているが、俺の枝から落ちても無傷の頑丈なボディならゆーちょからの弓撃も殴打もどれだけやっても効かないだろう。

 ・・・っておい。誰だ。

 ユメちゃんの毛で作ったロープ持ち出したやつ。というかいつの間にそんなもの作ったんだ? 

 ああ、吊るすのはまずい。

 首はダメ、それはいけない。

 はい、ストップ。もうやめてあげて。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 大乱闘もなんとか鎮まりパーティは終了。

 楽園生物たちはそれぞれの持ち場へと戻っていった。

 今は三精霊とお話し中。

 マヤとユメちゃんからノマドが説教を受けた後、話題はハチミツ色の物質へと移る。


「それで結局のこれはなんなの? ハチミツとは違うんだよね?」

「とぼけなくともよいぞタイジュ。元はと言えばおまえの発案でできたものなのだ。ただしかし、お前が手柄を全部譲ってくれると言うことならば、ありがたくいただくのだ。ではタイジュも知らないという体で話すのだ。ずばり、この物質はだな

「おそらくこれは、蜜蝋(みつろう)でありますね。蜂が蜂の巣を作るときの材料でありますよ」

「こらぁ、姫浜矢。まだ我が説明しているであろうが! いいとこを持って行くな」

「みんなもう気づいてる。そんなことよりどんな奇跡的な性質を持つか説明して」


 まだ機嫌が直らないマヤとユメちゃんの対応にムッとしながらもノマドは解説を再開する。


「ええい、わかったのだ。これはクロークローバーの爪と花粉を決闘蜂の分泌液に混ぜた後に(ろう)を抽出したものなのだ」

「前から思ってたけど、ノマドってちょっと抜けてる喋り方の割には結構難しい言葉使う時あるよね」

「脳筋そうなのに意外」

「こいつは前から頭はよかったのでありますよ。ただ、使い方が残念なのであります」

「お前たち好き勝手言いよって。タイジュが欲しがってた極上の建材を開発してやったのに、なんで俺はこんな扱いなのだ?」


 垣根作成並みにすごい偉業のはずなのにこの扱いである。

 空気に流されて俺も意地悪を言ってしまったが、今説明したことがいままでの楽園にはない画期的なものだ。

 直接建材を作らずに原料として生むことで、他の材料との組み合わせで様々な種類の建材を作ることができる素晴らしい手法だと感心した。俺じゃ思いつかなかったよ。

 流石に可哀想になってきたので真面目に聞く空気を作るとしますか。

 二人とも、そろそろ自重しようね。


「そういえば、すごく硬いのに加工もしやすそうだね。俺の作ったイスをあんなに短時間でコーティングできるってことは形は自由自在なのかな?」

「ガハハ、自由自在だぞ。クロークローバーの花粉は我の眷属の分泌液と混ざることで一時的に軟化し後で硬化する性質を持つのだ。柔らかいうちに形を整えれば、どんな形にも成形できるのだ」

「しかし、固まるまで形を維持するのが難しそうでありますね。コーティングしたイスはともかく、デモに使った塊はどうやって作ったのですか?」

「それは花音蜂の能力なのだ。<絶対掌握>、蜜だろうが水だろうが好きなものを確実に掴むことのできる力なのだ。掴んでいれば、どんな複雑な形も崩さずに固まるまで形を保ってられるのだ」

「なんか地味」

「辛辣だな、夢婦屯。確かにそうかもしれないが、とても応用の効く能力なのだぞ」

「スフィンクスの時もそれで交戦してたよね。あれは固まってない蜜蝋だったのか、なかなかでえぐいことするね。質問なんだけど、好きなものを掴めるってことはもしかして蜜が溶けた水から蜜だけ掴んで取り出すとかできるの? もしかして空気なんかも掴める?」

「タイジュさま、素晴らしい発想であります。奇跡の力は周りの認知が大切なので、強大な奇跡力を持つタイジュさまとマヤたち三精霊がそう思った時点でできるようになっていると思いますよ」

「やはり天才だな。普段とぼけたふりしてとんだ策士なのだ。これでまた我が眷属が強力になってしまったのだ。ガハハ」

「ノマドちゃんの眷属を思ってタイジュちゃんが優しさを見せてあげたの。ノマドちゃんはもっと感謝すべき」


 ただ質問しただけなのになぜかヨイショムーブが始まっている。

 気恥ずかしいので話を逸らそう。


「話を戻すど、その蜜蝋は扱いやすくて丈夫なのはわかったけど建材としての弱点はないの? 固まっちゃった後に再加工は難しそうなのはわかるけど」

「再加工か。確かに失敗作を壊すことができなくて、我が城の予定地周辺にばら撒いてしまっているのだ。それ以外だと蝋である故に高熱には弱いと思うのだ」

「うーん。楽園には火を扱える手段がないから確認しようがないね。でも、外敵でも熱を使う生物はまだ見たことないし、対策は後回しでいいかな。他に問題がなければ、打開の種の育成スペースをこれを使って作っていこう」

「隅呑窓、蜜蝋の在庫は現在どの程度ありますか? ハチミツがあれだけあったのですから、それなりの量が残っていますよね」

「・・・」

「なぜ黙っているのですか? まさか・・・」

「せ、せっかくのパーティーだと思ってある分全部使ってしまったのだ。それに花音蜂に比べて決闘蜂は数が少ないから生産時間もそこそこかかるのだ。ガ、ガハハ」

「マヤちゃん」

「ユメちゃん、わかってます。手加減なしでやりますよ」

「おい、夢婦屯。真っ白な毛が黒く染まっていくぞ? どうしたのだ。 マヤ、なぜ弓を構えているのだ」

「お仕置き。乙女の涙、‹暖寝具の奔流(ダンシング・スコール)›」

「ぬおお、なんだ洪水か? 流され・・・うっ。ちょ、姫浜矢。その矢はしゃれにならないのだ。やめるのだぁぁぁ」

「うるさいであります。この考えなしのナマケグマ。少しは反省しなさーい」


 哀れノマドはユメちゃんから放たれた水流に流されていく。

 そのあとをマヤが弓構えながら追いかけていった。

 

「・・・ふう。もう夕方ね。タイジュちゃん、そろそろ寝ましょう」 


 気づけば空は茜色。

 なんだか最後にとんでもない爆弾を落とされた気がするけど、それはまた明日考えることにしよう。

 どっと疲れた体にユメちゃんが巻き付いてくる。体毛はすでにいつもの白色に戻っている。

 久しぶりのこの感じ。ふかふか。

 もうなにも考えたくないし考えられないや。

 それじゃあ、おやすみなさい。

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