42葉 ハチミツパーティ
久々の大集合だ。
垣根が出来てからはみんな忙しくてこんな機会なかったからね。
バンクが地表に出てこれないのは残念だけど、ノマドと共演NGなので仕方ないね。
最初は試食会だったはずなのに話だったが、結局全員で俺の元に集まってパーティすることになった。
まぁ発案は俺だけど。
遠方のため池とお城の予定地を空けるのはちょっと不安だったんだけど、最悪あそこに侵入されても俺は『否定』されないので、思い切って全員呼んだ。
と言っても、念のため垣根内の監視強化をすることをメジェドに伝えてある。
問題ないはずだ。
ちなみにメジェドたちは楽園生物にカウントされていない。垣根内の仕事の様子が他の楽園生物には伝わらないためか、未だに彼らを嫌う声は多いのだ。垣根の獣たちと同列に扱われることさえある。彼らは地位向上のためにまだまだ頑張らねばならないだろう。
空中は華やかだ。パーティの準備で弽蝶々と花音蜂が入り乱れて飛び回っている。
ゆーちょの白と緑、カノンの黒と黄色。
花吹雪が舞っているような光景が広がっている。
地上は白一色。今回はバンクたちが地下にいるためマクラたちの独壇場だ。数が凄いことになっているがこれでも一部らしい。
ユメちゃんは俺が会ってない間にどれだけマクラを生んだんだ?
これはユメちゃんが上位眷属を生みたくなるのも頷ける。
管理の解決法として数を減らすのではなく、さらに数を増やすあたりがなんともユメちゃんらしい。
俺もお手伝いとしてテーブルとイスを準備しようとしたが数が多すぎるため、三精霊の分だけ作ってやめた。
さすがに他の楽園生物の分は無理。準備だけで何日かかるのやら。
下手したら、作る速度より増える速度の方が多い種族もいるし。
その代わりと言ってはなんだが、精霊用のイスに関してはそれぞれの体形にしっかり合わせた形状で作った。文句なしの自信作だ。
‹模型のきのみ›で作ったため、長く使えないのはちょっと勿体ないけどね。
腐らないきのみを作ればよいのだが、それは完全に自然の理から外れてる気がして作ってない。
多分、周りのみんなそう思ってるだろうし失敗するのが目に見えている。
って、あれ?
せっかく作ったきのみのイスは三精霊が話し合った後、ノマドの指示で決闘蜂に回収されてしまった。
もったいないのはわかるけど、せっかくのパーティだし使ってほしかったな。
そんなこんなで準備も大体完了したし、マヤさんの我慢がそろそろ限界に近いみたいだしパーティを始めて行こうか。
「ノマド、進行よろしくね」
「なぜ我がやらなきゃいかんなのだ?」
「だって俺段取りとか一切聞いてないし。こういう時頼りになるマヤはあんなことになってるし」
マヤはなにかぼそぼそ呟きながら目を爛々と輝かせている。
戦闘時だってあんな顔見たことない。もうハチミツのことしか見えていないのだろう。
「しかたないのだ。全員、注目!」
大きいがうるさくは感じない通る声でノマドが吠える。
「皆の者、よく集まったのだ。今回は我の眷属が作ったハチミツが完成したので、みんなの口に合うか確かめるためにこの会を開いたのだ。種類をいくつか作ってみたので食べた感想がほしいのだ。評判がいいものを今後生産していく予定である」
花音蜂たちがカラフルだが全体的に黄色味を帯びた大鍋のようなものをいくつか運んできた。
中にはもちろんハチミツがたっぷり入っている。
「ハチミツは取りに行こうとしちゃだめなのだ。花音蜂たちに運ばせるので、事前に配ったクローバーの葉で受けるのだ。すでにクローバーを食べてしまった者もいるようだがクローバーは2枚目の葉はないのだ。ルールを守れなかった輩はハチミツ抜きなのだ」
マクラの半数以上がすでにクローバーを食べてしまっているが、悲しそうな子はあまりいない。たぶん、この会が何なのか理解できてない子も多いのだろう。・・・無理して呼ぶ必要あったかな?
「今回、食べるハチミツが選べないことは了承願いたい。エリアごとに配るハチミツを分けることで食べた者のリアクションがわかりやすくするためなのだ。さぁ、そろそろ我慢できない者が出てきそうなので始めたいと思う。タイジュよ。一番最初の感想をおまえなのだ。それを持って開始の合図とするのだ」
ちょっと待って。
そういえば俺、味覚ないんですけど。
うわー、味覚の奇跡は練習してなかったわ。
だって楽園の食糧担当って基本俺だし。食べるより食べられる側だったし。
感想ってどういえばよいと?
2匹のカノンが俺用の小鍋を持ってくると、さらに追加で来たカノンが俺の根元めがけてひっくり返す。
どろり垂れた黄金の液がもったいぶるようにゆっくりと垂れたかと思うと、一気に加速し、根の上に広がる。
「あ、ひんやりして気持ちいい」
ぽつりとこぼれた言葉が瞬間的に喧騒のやんだ会場にこだまする。
「スタートなのだ。花音蜂フル起動。どんどん配るのだ!」
あ、これでいいんだ。感想。
そりゃ、長々と食レポされても困るんだろうけど。
味覚の奇跡は今度練習して置くとして、今はこのバカ騒ぎを眺めていようか。
白地に色鮮やかなドットアート。その光景に音と動きが加わる。
まるで鍋からカノンが湧き出ているように鍋を往復し、楽園生物にハチミツを配っている。
ハチミツをなめたみんなは思い思いにその反応を示している。
特にゆーちょ達の反応が分かりやすい。一切鳴かないのに、動きのみではっきりと評価が見ることができる。それにしても事前に練習したかのように綺麗に踊るものだな。周囲のダンスを邪魔しないように各々が踊ることで自然と一体感が生まれている。今日は地上が白一色。遥か上から眺める俺からはいつも以上にそのダンスが映えて見えた。
「なるほどな。やはり2番目の鍋がよさそうなのだ。変にブレンドせずにクローバーの蜜単体で仕上げた方がよいとな。タイジュ、地下の評価はどうなのだ?」
「バンクたちもほぼ同じだよ。一番ゆーちょのダンスが激しいエリアからバシバシと根に振動がくる」
「まあ、予想通りなのだ。あとはそこで食べ比べしてる姫浜矢からも一応意見はもらっておくか」
俺の頼みでマヤだけ全種類のハチミツを用意してもらった。
そもそもハチミツを作った理由のひとつがそれだからね。
マヤは今、ハチミツのあまりの美味しさに俺の枝の上でのたうち回っている。
・・・そのはしゃぎ方、翅を傷つけない? 大丈夫?
ノマドが枝上までやってくると、今度はマヤが早口でまくし立て始める。
鬼気迫る勢いで感想を語っている。俺には早すぎて聞き取れない。
普段はマヤに煽られてものらくらりのノマドが押されている。
これ以上注視してると俺も巻き込まれかねない。視線をもうちょっと落とすか。
そういえば、どうやってハチミツを小分けに運んでいるのだろうか?
鍋からハチミツを取るカノンたちをよく見ると、入れ物などを使用せず手づかみだ。
ドロリとした蜜のはずなのに彼女たちは小っちゃな手でしっかりと掴み、まわりに飛沫が飛び散ったりすることはない。
そういえば、スフィンクス撃退の時はハチミツを使っていたのかな?
自分たちより大きな塊ですらなんなく掴んでいたね。ということは奇跡の力か?
いや、そもそもあれはハチミツだったのかな? 今見てるそれとはちょっと違う気がするけど。
「マヤちゃん、ノマドちゃん。ハチちゃんたちのもう一つの仕事が終わったみたい」
大人しくしていたユメちゃんが声を上げる。
決闘蜂たちが何かを運んでいる。
その中には、先ほど回収された三精霊用のイスも混じっていた。
そして、そのイスはなんとハチミツ色に輝いていた。