41葉 ユメとノマドのおねだり
SD大賞に応募したところ、たくさんブックマークを頂きました。
ありがとうございます。
また誤字脱字報告をしてくれた方もありがたかったです。
3章もそろそろ完結です。
「密寝具の秘め事」
ユメちゃんが垣根を修理してくれている。
どうやら垣根の異変に気付きすぐに飛んできたみたいだ。
眷属の蜂たちとめくれた芝生を直してる。といっても気休め程度だが。
さすがにノマドも今回の件は自分が悪いと感じたのだろうか。
「隅呑窓、タイジュさまを守るために全力を出してくれたことはありがたいですが、周りの被害も考えてください。だいたい眷属たちだけで外敵を留められていたのだからあのまま任せてしまってもよかったのでは?」
マヤが早口にまくし立てる。ご立腹だ。
「何を言うか。奴の他にも似たようなことを考える輩が見ていたかもしれん。ここは圧倒的パワーを見せつけることで襲おうという気力を削ぐ作戦なのだ。見栄えを気にしてちょっと派手にやりすぎたかもしれんがな。ガハハ」
全然悪いとは思ってなさそうだ。
でも一応、ノマドなりに防衛のことを考えてくれてるようだ。
ただ後で話をして考えを詳しく聞いておかないとな。
今回の件は思うにノマドが挙げてくれたメリットより楽園の防御に隙が出来たデメリットの方が大きいように思える。
独特な価値観を持つ彼への理解を深めないと、もっと大きな危機が起こったときに適切な指示が出せないかもしれない。
ノマドの戦力は絶大だが、バンクが行動できない制限も付く。
仮に今回のような事件が起こっても、過剰な戦力を動かさないように調整する仕組みが必要なのかもしれないな。
突然、タオルに包まれたような柔らかな感触が襲ってくる。
ああ、もはや懐かしいな、これは。
「タイジュちゃん、タイジュちゃん会いたかった。本当に久しぶり。寂しかった。タイジュちゃんもさびしかったでしょ? 今晩はもう離さないから」
最後にユメちゃんが巻き付いてきたのはいつ以来だったっけ。
「ユメちゃん、垣根の管理いつもありがとね。そしてごめんね。大変な仕事を任せっきりにしちゃってて」
「もういいの。もう少ししたらいつでも会いに行けるから」
「ということは垣根制御の修行を終える目途が立ったんだね。おめでとう」
「違うの。前にお願いした上位眷属の話。タイジュちゃんの要望通りに生み出せた。今はまだ赤ちゃんだけど、これからはその子たちも垣根の管理を手伝ってくれるから、少しくらいはため池を離れても大丈夫」
「そうゆうことね。俺もユメちゃん一人に任せっきりなのはどうかを思ってはいたんだ。その子たち、今度ここまで連れて来てね」
「任せて。いっぱい産んで、いっぱい連れてくる」
「それより俺の要望通りって言ったけど、そんな話したっけ?」
「タイジュさまー。ノマドから朗報であります。ハチミツ完成してるそうでありますよー。ユメちゃんもちょうど来てますし試食会でも開きませんかー」
話に割り込んできたマヤからの提案にテンションが上がる。
来た来たハチミツ。さっそく準備をしよう。
話を振ってきた本人は既に用意を始めているみたいだしね。
「タイジュちゃん、試食会始める前にちょっといい? お願いがあるの」
「お願いね。なぁに?」
「猫を1匹拾ったのだけど、ため池で飼っていい?」
猫? なんだろう。まさかさっきのスフィンクスじゃないだろうし。
まぁ、そんな危険な動物なわけないだろう。それに楽園の門は多くの生き物に開かれるべき。
許可しちゃっていいだろう。
「マクラたちには放任主義のユメちゃんが生き物を飼うなんて言うのはちょっと意外だね」
「そう? 立場が違えば愛し方も変わる。マクラちゃん達には自由に生きてほしいけど、それとは別の方法で愛情を注ぐ相手がいてもいいと思うの。もちろん、タイジュちゃんはその中でも特別」
「その猫は魔法生物だよね?『否定』は大丈夫?」
「ちゃんと垣根で魔法は洗い落とした。大丈夫」
「それなら問題ないよ」
「タイジュちゃんありがとう」
そんなところにノマドが四つ足で走ってくる。
「これ夢婦屯。おまえもハチミツ試食会の準備を手伝うのだ」
「もっとタイジュちゃんとお話ししたかったのに。まぁいいわ。私もハチミツは気になる。何すればいいの?」
「姫浜矢とその眷属のいる所に行くのだ。そこに仕事がある」
「じゃあタイジュちゃん。また後でゆっくり、ね。」
ユメちゃんは名残惜しそうに俺から離れるとユメの元まで水面を泳ぐように滑っていった。
「タイジュよ。さっきの話聞いておったぞ。ずるいのだ。我も女を囲いたいのだ」
うわ。面倒くさい提案がきた。
ユメちゃんの場合、ため池管理頑張ってくれてたし、猫一匹だけだしすぐOKした。
けど、コイツは一度許可したら絶対やりたい放題始めるぞ。
やっといろいろ問題が片付いてきたのにここで問題を増やそうとするなよなー。
「ダメ。ちゃんとお城ができてないでしょ。住ませる場所がまだなら連れてこられた方も迷惑だよ。そもそもどこから連れてくるの?」
「垣根になかなか美人なアメミットがいるのだ。手始めにその子からと思っていたのだ」
垣根の中での出会いか。あ。いいこと思いついちゃった。
「ああ、垣根内にいるのね。そうだ、それならまずは垣根のパトロールを手伝ってくれるようにお願いしてみたら? 一緒に同じことをしてるうちに仲良くなれるんじゃないかな」
「タイジュ。手軽な垣根の治安強化策を思いついたってアレロパシーが漏れ出ておるぞ。獣でも受け取れる念波形態で。送信するのは受信するより簡単だが、送信内容や送信相手を絞るのにはそれなりに熟達した技術が必要なのだ。もっと精進するのだ。ただ、まずは仲良くなるということには賛成なので、今回はその意見に乗ってやるのだ」
うっそ。今、俺アレロパシー発信してた? 全然無意識だったんだけど。
もしかして、前からマヤやユメちゃんに考えを読まれることが多かったのはこのせいだったのかな?
「我も試食会の準備に戻るのだ。ハチミツ以外にもいろいろ作らせたからそれの発表も兼ねてな。ガハハ」
「せっかくだから俺も手伝おうか? イスやテーブルくらいならすぐにきのみで用意できるよ」
「まったく便利な奇跡なのだ。よろしく頼むのだ」
そういえば、今日は外敵の襲撃を受けて初めて楽園に被害がなかったな。
めでたいことだし、どうせなら楽園生物全員集めてぱーっとやりたいね。
「それはいいのだ。ちょっと姫浜矢と話してくるのだ」
・・・聞かれてた。
アレロパシー、もしかして受信より送信の練習の方が大事なのでは?




