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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の花壇づくり
45/63

40葉 垣根上の防衛戦

 今日の日差しは、昨日よりちょっと弱い。

 アレロパシーの特訓を始めて温湿度の感覚などは鋭くなってきた気がするが、肝心の芝の言っている()()はわからない。


 ハチミツ、そろそろできただろうか?

 マヤを通してユメちゃんから上位眷属の呼び出し許可の申請がきたり、ノマドが材料が足りないと言って俺のきのみや枝を大量に持って行ったりはしたけど、大きな変化もなく日々を過ごしている。

 飛び地のクローバー畑のおかげで食糧事情が改善したため、俺はゆーちょ用のきのみを生む量が減った。

 時間と奇跡力に余裕ができたのだ。

 まあ、時間の方はアレロパシーの練習に取られてるけど。


 ただ、奇跡力を持て余してるのもなんだかもったいないな。みんなもがんばってるわけだし。

 改めて楽園の課題を整理してみよう。状況が変わったことで意外と奇跡による力技でなんとかなる問題があるかもしれない。


 垣根が出来る前の最初の話し合いで出た3つの課題はもうクリアしたよね。

 防衛策として垣根、水源にため池、そして戦闘員にノマドと眷属たち。

 とは言ってもまだまだ細かい問題点は多いから、改良していく必要はあるけどね。

 垣根内は危険地帯だし、戦闘員の戦力はまだ大きな戦いをしていないので未知数。

 一番問題ないのはため池だけど、マヤの話だと既に水が溢れていそうだ。なぜかそのへんの詳しい話をしてくれないけど。ため池の拡張が必要ならなんとか垣根の間を縫ってバンクを派遣しなきゃね。


 新たに出てきた問題も緊急性の高いものはクリアした。

 食糧問題と建材問題。

 食糧は現在ハチミツ製造中でもっと改善していくだろうし、建材はミスったがまあ緊急性があるわけではない。


 となると現在の一番の問題はやはり<打開の種>だね。

 種は完成してるけど安心して育成実験できる場所がない。

 ああ、そうだった。それで仕切りが欲しくて建材が欲しかったんだっけ。

 ハチミツやらアレロパシーやらでちょっと忘れてたよ。

 建材。緊急性あるじゃん。今、超欲しい奴じゃん。

 奇跡力に余力がある俺の次の課題は建材づくりかな。

 きのみはすぐに腐って使えなさそうだから、ここやはり枝だね。

 よくよく考えれば、もとの世界でも木材は優秀な建材だったし。

 まだちょっと自身の形状変化系の奇跡は苦手意識あるけど、ちょっと前にゆーちょたちの弓を作ったからいけるいける。

 どういう形がいいか早速、マヤに相談を・・・


 ん? 飛び地付近の空気が変わったな。

 なんか張り詰めた感じに。ちょっとやな感じ。

 よく見てみると保護色になってわかりにくいがこちらに近づく影が一つ。

 ノマド程じゃないが結構大きいな。


「おはようございます、タイジュさま。どうかされました?」

「おはよう、マヤ。飛び地付近に大きめの生き物がいるっぽい。多分だけどノマドの半分くらいの大きさ。この辺じゃアメミットより大きい生き物なんてそうそういないのになんだろうね?」

「そこまで大きいとなるとスフィンクスでしょうか? この辺りには確かにいないはずですが」

「そういえば、ノマドが最近遠方の生き物の姿を見るようになったって言ってたね」

「そうなのですね。垣根が出来からその辺のことはノマドに任せていましたから初耳であります」


 待てよ。もし、スフィンクスが俺の世界の神話生物と同じモンスターならば。

 あれって翼生えてなかったっけ?


「ねぇ。スフィンクス。まさか飛んでこないよね?」

「……十分に考えられます。跳んで垣根を越えてきますね。ノマドに急いで連絡してきます」


 そう言い終わると矢のように飛び去ったマヤ。

 それと同時に飛び地の影、推定スフィンクスのスピードも上がる。

 確実にこちらに向かってきている。


 やばい。

 垣根の上を越えてあんなに大きな魔法生物が楽園に侵入したら、俺に入る『否定』のダメージは計り知れない。なんとしても止めないと。

 念のためにバンクとゆーちょに配備指令を……


「ガハハ。初手真打の登場なのだ」


 おお、対応が早い。さすがだ。って


「ノマド。ここ垣根の内側だけど大丈夫? 来る場所間違えてない? 侵入されたらアウトなんだけど」

「問題ないのだ。敵の進行方向はこっちで間違いないな。タイジュ、やつが飛んだら合図を頼むぞ」


 とりあえず、合図だね。了解。

 よくわからんがこういうのは専門家に任せよう。

 いつの間にか決闘蜂(けっとほう)たちも垣根上空に配備されてる。

 迎撃できる算段はあるのだろう。


 スフィンクスと思しき影はかなり近くまできている。

 俺の想像とは違って翼は持ってないが、マヤの反応を考えると飛行手段を持っていると思って対応した方がいい。

 これが垣根の水分目的で、水を飲んで帰ってくれたら助かるのだけど。


 スフィンクスは垣根の前でピタリと止まる。

 周りの時が止まったように誰も動かない。

 風に舞う砂と漂う垣根のみが動いている。

 張り詰めた空気が楽園内外を支配する。

 

「ノマド、来るよ」


 砂が巻き上がる。

 スフィンクスはカタパルトに射出されたかの様に砂地から跳び立つ。

 どのように知ったかはわからないが、射出の角度から垣根越えを狙っていることを窺える。


 ギュイイイイイイイイイン


 爆音轟く。

 楽園中の空気が音源へと収束しているのを幹を撫でる風が伝えてくる。


 その間にも事態は動く。

 垣根に隠れていた花音蜂(かのんほう)たちがスフィンクスの射線の上を取る。

 その6つの手足で透き通った黄金色の球を持っている。本人たちより格段に大きい。

 スフィンクスが真下を通過する少し前のタイミングで花音蜂たちは一斉にその球を放した。


 球へと次々と突っ込むスフィンクス。

 球はまるで水滴の様に弾けたかのように見えたが、その体から離れない。

 風圧任せに体を這って進み、スフィンクスの胴へと至ると不自然に止まった。

 やがて集まってきた球がくっつきあい、スフィンクスの胴を覆う。

 球に勢いが殺されたところに、どこからともなく現れた決闘蜂たちが外敵の手足へと掴みかかる。

 胴を覆った黄金色の物体は風圧をもろともせず徐々に上へ上へと膨らんでいく。

 スフィンクスは重心を上げられたことによりひっくり返る。

 さらに決闘蜂によって手足を抑えれているので、そのまま吊るされる形へとなってしまった。

 すでに勢いは完全に殺され、空中で静止している。


 その間にも、轟音は止まない。

 ふと、ノマドを見ると音源はそこにあった。

 四つん這いの姿で胴を風船のように膨らませている。

 その口はまるでバキューム。

 楽園を真空にする勢いで周りの空気を集めている。

 空気の動きが垣根の霧で可視化されノマドの口にまるで楽園内の力が収束しているようにも見える。

 音量が一段低くなる。


 スフィンクスは蜂たちにまとわりつかれてぶれることなく空中に固定されている。

 もがいて手足を動かしているが、その重心は一点から動かない。

 スフィンクスは全力を込めて右前足を振りぬく。

 その瞬間、蜂たちは一斉に散る。

 スフィンクスの表情が緩んだ瞬間、景色がゆがむ。


 ぼう


 暴風が吹き乱れる。

 遥か上にあるはずの枝まで風が届き、葉がなびく。

 びっくりして切ってしまった視覚の奇跡を改めて発現させると、すでにスフィンクスの姿は見えなかった。

 ノマドの足元はさっきの砲撃の反動で大地がめくり上がっている。

 芝がめちゃくちゃだ。

 垣根もなんだか薄くなって中が見えてしまっている。

 垣根の獣たちが混乱している様子がわかる。


「タイジュ、どうだ! 我の空気砲の威力は。これで外敵はイチコロなのだ。ガハハ」

「ばか。やりすぎだよ」

「やりすぎであります」


 戻ってきたマヤも激しく上下に飛び抗議している。

 戦力は申し分ないが、ありすぎるのもまた問題の種になるようだ。

 あーあ、芝はともかくとして垣根はどうやって修理しようか。


「そう。やりすぎ」


 気づくと、真っ白な羊毛の鳥がこちらへ向かって飛んできていた。

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