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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の花壇づくり
43/63

38葉 ため池の密談

 みなさんお疲れ様です。

 姫浜矢であります。


 現在はため池に向かうために垣根の中を飛行中であります。

 もちろん、垣根の上を飛んだ方が飛びやすいのですが、日差しが強いので飛びたくありません。

 紫外線はお肌の敵なのであります。

 巻物でタイジュさまの世界を調べたときに知りました。

 

 視界が開けるとそこには真っ白な山がありました。

 ユメにしては大きいようですが雲でも纏っているのでしょうか?

 って……うわぁ。ユメ、また産む量増やしました?

 そこには綿幕楽がぎっしりといました。

 ため池を埋め尽くし、水が見えないほどにです。

 

 サザナミチガヤが優秀すぎてそうそうにため池がいっぱいになったことは把握済みでした。

 チガヤの水が奇跡力で操作しやすいことを利用して、ため池の許容量を超えて上に上にと水を積み重ねていった結果、ため池は水で出来た丘の様になったことも前回の訪問で確認していました。

 ただ、今回はこの大量のマクラ。

 文字通り山盛りの水と合わせるともうため池エリアは許容量をとっくにオーバーしてると思われます。

 ユメはどこでしょうか……っと見つけました、丘の中央でうずくまっています。

 

「ユメちゃん、遊びにきましたよ。元気……ではなさそうでありますね」

「タイジュちゃん。来てくれたの? ありがとう。うれしい。会いたかった。見て、タイジュちゃんのことを思っていたらマクラちゃんがこんなにたくさん生まれたの。いっぱいいるとよりかわいいでしょ?」


 ダメみたいですね。正気を失ってるのであります。

 タイジュさまから差し入れにもらっていたきのみをユメの口に放り込みます。

 だんだん目の焦点が合ってきました。顔色も少し戻りましたね。

 ただ、以前にこうなったときがあったのですが、その時に比べてやけにあっさり治りましたね。

 ・・・なんとなくわざとらしく思えるのはマヤの気のせいでしょうか。


「・・・。なんだマヤちゃんか。タイジュちゃんが来てくれたかと思ったのに」

「助けてあげたのにずいぶんな言われようでありますね。だいたいタイジュさまが動けるわけないじゃないですか」

「そこは愛のパワーでなんとか」

「かなり強力な奇跡が起きないと無理ですよ。タイジュさまが動くには解決の種が山盛りに作れるくらいの力じゃないと。霧の制御、大分大変みたいでありますね」

「最初はうまくいってたの。ノマドちゃんが来てからだんだん厳しくなってきた。面積がこのまま増えたら私だけじゃきっと制御しきれない」


 ユメはあまり弱音を吐く子じゃありません。

 これは肉体的にも精神的にも大分きてるみたいでありますね。

 もうずっと大好きなタイジュさまに会ってない上に、修行の終わりも見えない。

 タイジュさまに心配かけないとこの状況の報告はユメから止められていましたが、限界はすぐそこにきてるように思えます。


「大変そうなユメに提案があります。垣根の管理ができる新たな眷属を呼びませんか?」

「眷属はマクラちゃんがいるからそれはできないんじゃない?」

「やはりあなたでしたか、以前に2種類目の眷属が生めなかった理由は。でも安心してください。隅呑窓が2種類の眷属の召喚に成功しています。観測者が増えたことで奇跡の性質も変わりました」


 奇跡は観測者の認知によってその姿を変えます。

 タイジュさまが発現した奇跡である‹仲間呼びのきのみ›の効果には種類に関わる制約はなかったはずです。しかし、ユメの思い込みにより実はいままで1種類しか生めないという制約がかけられていました。

 しかし、ノマドという種類に制約がないという認識の観測者が増えたことで、その制約を打ち消すことに成功したのであります。

 まぁ、ここに関してはノマドを煽ってそういう風に持って行った作戦でもあるわけですが。


「マクラ以外にも生めるわけね。でも、そうゆう大事なことはタイジュちゃんと相談したい」

「そういうと思って要望は聞いているのでありますよ」


 もちろん聞いてません。

 だって、ノマドが眷属を2種類生んだことを確認してすぐに飛んできましたから。

 ただ、ユメの負担を考えると悠長にやっている場合じゃありません。

 タイジュさまが言いそうなことはだいたいわかってますし、私がそこを代弁するのでありますよ。

 


「タイジュさまからの要望は3つ。垣根の管理のお手伝いができること、マクラの面倒を見て統率できる彼ら上位の存在であること、そしてマクラとは真逆な落ち着いた性格であること、であります」


 これに関しては結構自信があります。

 一人で考え事してるときのタイジュさまって独り言のように思考が零れるときがありますからね。

 普段から思っている意見を上げたのでほぼ間違いないでありますよ。


「垣根の管理、上位眷属、マクラちゃんと真逆、ね。わかった。でもちょっとより詳しく能力を練るから時間がほしい」

「なんだったら参考までに巻物を貸しますよ」

「今日のマヤちゃん、なんだかやさしい。なにか企んでる?」

「失礼な。こっちはユメちゃんを心配してのことでありますよ。まぁあえて他の理由を加えるなら、以前に話した計画をそろそろ実行する時期なのではないかと思いましてね。幸い、マクラの数は十分ですし」


 ここはいい場所であります。垣根に阻まれて誰も盗み聞きできませんから。

 ここにいるのはユメちゃんと大勢のマクラ、それから垣根で分断されるときに巣に帰り損ねたバンクとゆーちょが少数くらいなものです。


「私が転生してすぐに話してくれた話?」

「そう。マクラを使った侵攻の話であります。あ、ここからの話はタイジュさまにはナイショでありますよ」

「マヤちゃん、まだ時期尚早じゃない?」


 おや? 以前は乗り気だったように思えたのですが今はそうでもなさそうですね。

 ユメちゃんは何やら焦り顔であります。

 やはり、心が弱ってしまっているからですかね。

 それともなにか隠し事でしょうか? 少し気になります。


「以前の報告で砂漠から帰ってきた子から獣人の住処を割り出せたみたいじゃないですか。今が絶好の機会でありますよ」

「でも、マクラって基本自由だから大量に送っても目的地までほとんどの子がつかないと思うのだけど」

「そのための新眷属ということです。マクラを指揮し、いままでできなかった作戦行動を可能にさせてください。それにこれはマクラの自殺を嘆くタイジュさまが最も望んでいる力でもありますよ」

「なるほどね。場所はだいたい把握してある。送り出すマクラもこの通りいっぱい。引率できる頼もしい子を生み出せば状況は整うというわけね」

「その通りであります、ユメちゃん。成功したらきっとタイジュさまも褒めてくれますよ。ちょっとくらいわがままに甘えても許してもらえるであります」

「タイジュちゃんが褒めて・・・あっいやでも、今じゃなくていいと思う。せめて新眷属を生み出した後に奇跡の性質をちゃんと調べてから改めて計画でいいと思う」

「ユメちゃんは弱ってても冷静なのですね。ノマドの眷属がハチミツを作るそうでマヤはちょっと浮かれていたのかもしれません。完成にしたら一緒に食べましょうね! じゃあ、とりあえず侵攻の話は置いといて、垣根管理の負担軽減に向けて新眷属の準備を進めて参りましょう」

「ええ」

「私はいよいよ打開の種育成の目途が立ちましたので下準備を始めます。あと以前も伝えた通り、クロークローバーのおかげでこちらの食糧事情も改善したのでため池へ来る頻度は落ちます。もちろん、相談事やタイジュさまへの言付けがあれば遠慮なく呼んでくださいね」

「うん。マヤちゃんも頑張って」


 さてと、私も新たな眷属を生み出すとしますかね。

 きっと打開の種の管理には今の楽園生物にはない才能を持つ子が必要になるはずでありますから。


 ・・・にしてもユメの態度に違和感を覚えました。

 たぶん、心が弱ったせいだけではないと思います。確実に何か隠してます。

 深刻な悩みじゃないといいのですが、こればかりは本人から話してくれるのを待つ他ありませんね。

 案外、タイジュさまの顔を見たら治るかもしれませんから、ユメちゃんの負担がはやく軽くなるようにマヤもサポートするとしましょう。


 ため池での用事は済みましたし、タイジュさまのもとへ帰りましょう。

 今日のごはんは、どんなきのみを用意してくれてますかね。 


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