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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の花壇づくり
42/63

37葉 異世界動物観察記004~スフィンクス~

 ここはパラダイス大陸、黒の大地のドゥアト砂漠の北部エリア。

 有名な魔境、深淵の地はこの地の南にある。北西に進むと理想郷(ユートピア)、北東へ進むとミゴ砂漠を経て青の孤島との海峡へ至る。

 広大なドゥアト砂漠ではエリアによって生息生物が大きく変わる。

 例えば、この北部エリアで最も有名なモンスターはスフィンクスだろう。

 

 スフィンクスは砂漠最大の肉体を誇る肉食獣だ。

 その体長は3~4mとなり、肉食獣の中では頭一つ抜けて大きい。

 体形は一般的なネコと同じだが、顔が大きく足が太く短いので幼い印象を受ける。

 今目の前にいる個体は窪んだ岩陰で眠っている。

 その寝顔はまるで天使のようだ。

 大きさを除けば、子猫が昼寝しているようにも思える。


 以前、赤の大地のある街で山人(ドワーフ)たちにスフィンクスについて尋ねてみたことがある。

 すると、やれヒトの頭を持つ獣やらやれ翼を持つネコやらとても誤解を受けていることがわかった。

 寝ているスフィンクスの観察もいいが、今日はスフィンクスの正しい知識を確認しようと思う。


 まず、ヒトの頭を持つという噂から誤解を解いていこう。

 この噂が流れた理由は、ずばり冒険者ギルドの資料にそう書かれているからだ。

 しかし、実際はそんなことはない。なぜそんなことになったかはこんな経緯がある。

 冒険者ギルドにはモンスターの討伐のための参考資料があるのだが、ここ100年で黒の大地には人がいなくなったため資料が更新されていない。

 その資料には確かにスフィンクスについてこう記されている。

 スフィンクスはヒトの頭を持つ巨大な肉食獣である、と。

 黒の大地に住むため誰も見たことがなく資料が更新されないこと。

 詳しくは後述するが白の大地に似た生き物がいることで知名度が高いこと。

 この2点に加え、砂漠最大級の大きさということで、よく冒険者のモンスターの大きさ談義でその名前を出されるため、この誤解があっという間に広がった。


 なぜこんな間違った資料が保管されているかというとこの資料もまた真実であるためである。

 この資料は黒の大地の冒険者ギルドから回収されたものである。

 当然、使用者も編纂者も現地のヒトでだった。

 そう、今は滅んだ獣人である。

 編纂者がネコ頭を持つテト族だったため、そのような文章になってしまったということだ。

 それでも猫頭以外の獣人もいるのでこの文章では本来間違っているのだが、その辺の規則が緩かった黒の大地の冒険者ギルドは正式な資料としてOKを出してしまったとのことである。

 この資料のおかげで、赤の大地の冒険者はスフィンクスを人面のモンスターと認知してしまったのである。


 次に翼を持つという誤解も解こう。

 これには原因が2つある。

 1つは先ほどと同じ例のギルド資料。跳ぶ、と書かれないといけないところが飛ぶ、と誤字のまま記載されていること。

 もう1つは白の大地にいるグリフォンの品種にスフィンクス種というものがあることだ。

 白の大地では野生家畜問わず多くのグリフォンが生息している。

 グリフォンはネコ系の肉食獣の体に猛禽類の頭を持つ一般的なモンスターだが、モンスター博物学においてはネコ系の肉食獣をベースに混合因子が3種以下のキメラ目のモンスターの総称を差す。

 そのため、グリフォンの仲間は数が多くユニークな特徴を持つ種もたくさんいる。よって、スフィンクス種はその中でも特に目立つ存在はない。


 容姿は翼の生えたネコであり、肉食獣の部位が非常に多いこと。

 体毛が非常に短いこと。

 声帯模写ができること。

 白の大地のスフィンクスのわかわかりやすい特徴はこのあたりだろうか。


 当然白の大地ではスフィンクスとはこのグリフォン種のことを差す。

 大方、緑や赤の地の冒険者がユートピアに訪れた際に白の地の冒険者と話し勘違いして、誤解が広がってしまったのだろう。


 おっ、話に夢中になっていた間に観察中のスフィンクスに動きがあったようだ。

 目覚めたスフィンクスは空飛ぶ鳥が気になるらしい。

 遥か上空でゆったりと飛ぶ様子を岩陰から顔を覗かせ、じっと窺っている。

 時刻は夕方。

 彼らが活動するにはちょっと早い。

 しかし、目の前のスフィンクスは狩りをすることに決めたようだ。

 

 信じられないスピードで岩陰から飛び出すとそのままの勢いで後ろ足をバネに使い真上に跳ぶ。

 その巨体は信じられないほど高く高く跳ね上がり、はるか上空の鳥を捉えた。

 落下を始めると素早く態勢を整えるスフィンクス。

 その着地はその巨体が嘘であるかのように砂ぼこりが少ない。

 口には獲物がしっかりと咥えられていた。

 

 獲物はベーヌ。

 最も原始的な不死鳥の一種。

 サギのような細長い首元を咥えられ、足がぐったりと垂れ下がっている。

 ベーヌは決して小さくないのだが、スフィンクスの体格のせいで小鳥のように見える。

 スフィンクスは岩陰に戻ると食事を始めた。

 ぺろりとすぐに平らげたスフィンクス。

 心なしか不満げにみえる。

 他の獲物は先ほどの狩りを見て逃げてしまったし、動くにもちょっと時間が早い。

 普段なら二度寝でもするところだ。


 スフィンクスはじっと見つめる。

 方角は南。深淵の地。

 スフィンクスは何かに導かれるように視線の先へと歩みだした。


 今日は早めに動くことにしたようだ。

 スフィンクスは日の沈む砂漠を恐れずまっすぐまっすぐ進む。

 本日の紹介はここまでのようだ。










・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 そこそこ観察し慣れたモンスターの行動に違和感を感じた。

 深淵の地、いや、その先のあの大樹を中心に砂漠に何かが起こっているに違いない。

 捕獲したメジェドの引き渡しのために帰還中だが、目的だったの透明化の魔法が消失してしまっている。

 深淵の地でしか機能しない魔法だったのか?

 しかしこれで急いで帰る必要はなくなった。


 メジェドの件は使いの者を回し、先ほどのスフィンクスの追跡しよう。

 そして物資に余裕があれば、あの地の再調査を行おう。

 本来なら装備を整えに帰るべきなのだがそうも言ってられない。

 研究者の行動指標は好奇心。

 心が求めだしたらもうそれは止まらないのだ。

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