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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の開園準備
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4葉 奇跡の起こし方・下

「タイジュさまはタイジュさまなんだから、動けなくて当然でありますよー」


 どうしよう。マヤが喧嘩を売ってきた。

 可愛らしい妖精のはずなのに、今はすごく憎たらしい。しかし、いままでの流れを考えるに、動けないのには理由あるはず。ここは大人の対応だ。


「さっきと状況はあまり変わらなかったのに、一体なんで奇跡が使えなかったの?」

「タイジュさまが動けなかった理由は2つあります。大事なことなんでちゃんと聞いて下さいね」


 さっきの態度は気に入らないけど、マヤの口調はいままでになく真剣だ。ここは話をちゃんと聞くことにしよう。


「1つ目の理由はさっきまでのタイジュさまの行動であります。タイジュさまは、先ほどから何度も体を動かそうとして動けませんでした。一度ならともかく失敗を繰り返すと、それは出来ないことだと思ってしまうものであります」


 確かに。俺は心のどこかに動けないと思っていたかもしれない。


「つまり、失敗した奇跡は失敗を重ねるほど、それを起こすことが難しくなってしまうでありますよ」


 なるほど。つまり目覚めてからさんざんチャレンジした<タイジュが動く奇跡>は難易度が跳ね上がっていると。


「2つ目の理由はマヤであります」


俺の奇跡のはずなのに、まさかのマヤさん登場っ!?


「奇跡を起こすには、教えられた相手がちゃんと納得してることも大事なのです。マヤは昔からずっとタイジュさまのお世話をしてきました。いままで1度も動かなかったのに、今更動くなんて思えないのでありますよ!」


 む、これ、かなり厳しい制約じゃないか。神秘の力なはずなのに、根拠が求められるとは。


「不安な顔しないでください! 例えめちゃくちゃでも、相手が納得する理由さえあればなんでもできるであります。原理や道理を飛び越えるのが奇跡でありますよ!」


 だめだ。選択肢がイメージ出来ない。

 自由で無敵な力だと理屈じゃわかる。

 ただ、使いこなせるビジョンが見えない。


「最初から使いこなせる(ひと)なんていないでありますよ! 簡単にイメージできることから始めましょー」

「まぁ、その通りなんだろうけど」


 マヤが慌ただしく飛び楕円を描く。


「例えば、樹になったからこそ出来そうなことはありませんか? せっかく人間の皮を脱ぎ捨てたのです。大雑把なイメージでいいので樹だけの良いところを考えるのでありますよー」

「……きのみ」

「き・の・み! 素晴らしいイメージであります! 自然の理を超えて、自らの意思で果実が実る神秘の樹。甘美な響きじゃないでありますかー」


 マヤが必死に盛り上げてくれている。確かに。よし。とりあえず、きのみを出してみよう。俺はリンゴを強くイメージする。俺が何の樹かは知らないが、奇跡の力でどんな果実だって産めるはずだ。


「ありがとう。早速、きのみを出してみるよ」

「了解でありますよ。ではタイジュ様、指先(えださき)()の付け根に意識を集中して、そこに視界を移して下さい。」


 指示に従い、視界を動かす。枝先には節がある。


「出来ましたか。そしたら、そこから無理やり涙を流すイメージで、よいよいよいっと、果実を絞り落としてください」


 風船が膨らむ。

 まるでそんな風に青い果実が成長する。

 すぐにマヤくらいまで膨らむと今度は色づき始める。

 赤黒く熟れた涙型の果実は大地に落ちる前にマヤに回収された。

 あれ?リンゴじゃない。別のきのみだ。


「ここが奇跡を使う一番の肝であります。奇跡発現の内容は発現する人のイメージでなく、まわりで観測する人のイメージで形を成すのであります」


 厄介な! 俺が使うのに?


「そして、同じ奇跡は成功を繰り返す度に簡単に使えるようになります。そして、その効果や必要な力も安定していくのであります」


 むーん、いままで教わったことを整理しよう。

 奇跡の力は強力な現実改変力である。しかし、その能力は周囲からの観測と信用が必要。さらに発現する内容は観測者のイメージが優先される……と。

 マヤは奇跡でなんでも出来ると言った。確かに理屈の上では出来るだろう。しかし、実際はマヤのイメージできる範囲でと言う制約がつく。例えば、現代知識を参考に俺が思い付いた奇跡は、まず起こらないだろう。マヤに前提とする知識がないからだ。俺に教師の才能があればいけるかもしれないが、教えるための教材がない。きっと無理だ。


クチャクチャという音が聞こえる。さっきからマヤの姿が見えない。探してみると、俺の太めの枝にいた。先ほどの果実から赤い袴が生えている。おいっ、なんて行儀が悪い食べ方を……


「ぷっはー。流石はタイジュさま。マヤ好みの甘酸っぱいカンジがたまらんのでありますっ!」

「そりゃそうでしょ。観測者(マヤ)のイメージ通りの実なんだから」

「どうです? 奇跡の力はお分かり頂けたでありますか?」

「分かりやすい説明のおかげでよくわかったよ。ただ、使いこなせる気はしないね」

「最初は変にいろいろ考えるよりゆるーく考えるであります。奇跡の力は不思議で便利! はい。これでOKでありますっ」

「流石にその認識は軽すぎかなー」


 いつの間にか太陽が沈み、夕焼け空が広がっていた。それどころか空の赤みも抜け始めて、少しだが星も瞬いている。なんとなく息苦しい。どうして。あぁ、光合成か。日が落ちたからね。でも、植物は呼吸もしているわけだしそこまで息詰まることはないだろう。


「いつの間にかこんな時間でありますね。もうすぐ日が落ちますし、今日はもう休むとしますか」


 マヤがそういう言うと俺の大きめの枝に止まり、まるで猫の様に丸まった。いままでピンと張り詰めていた翅がしおしおと萎れ丸まる。その翅、畳めるんだ……


「続きはまた明日にしましょう。ふわーう、おやすみなさいでありますぅ……」


 程なくして、マヤは寝息を立て始める。

 あたりはもう真っ暗だ。

 前言撤回。想像以上に息苦しい。

 だめだ。頭が働かない。

 眠気も急にきた。

 奇跡についてもっと考えたかったのに。あぁ。

 俺は睡魔に身を預けた。



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