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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の花壇づくり
34/63

29葉 垣根の獣たち

 陽の光を浴びると共に目が覚める。

 素早く枝先まで奇跡力を巡らす。

 まずは眼下に広がる垣根をチェックだ。

 視界をぐるりと一周させる。

 濃霧で出来た真っ白な垣根はいつも通り。

 俺と芝生を砂漠から守るように囲んでいる。

 そして、楽園を囲った円の縁から北東の方角へ伸びて続いている。

 あの先にため池があるのだろう。

 

 芝生の上では既に働くバンクたち。

 ただし、葉やきのみを巣に運ぶような個体は少なく、多くは垣根を注視している。

 バンクたちには安心した様子はなく、その瞳には警戒の色が浮かんでいた。

 並び立つバンクたちによる灰黒色の輪が垣根の内側に出来ている。

 3つの瞳は全て黒。

 よかった。赤目がいないということは昨晩は何も垣根から這い出してきてないらしい。

 興奮、戦闘、奇跡の発現などによりバンクの第三の目は赤く染まるのだ。


 垣根を作ったあの日以降、楽園は以前にまして警戒体制だ。

 外敵から身を守るはずの垣根を作ってなぜこんなことになってしまったのか。俺はあれからのことを思い出す。


 垣根に感激した俺たちは、早速メジェドたちの体質の研究を始めた。

 マヤ、ユメちゃんと一緒に検証実験を行い、ため池の水に置換されたメジェドを様々なシチュエーションに置いてその原理を推定していった。

 メジェドはデフォルメしたお化けに足が生えたようなモンスターであり、肉体を回りにある塵砂や水などで構成する性質を持っている。この彼らの性質を利用してユメちゃんの作る濃霧を維持することが垣根づくりの最も重要な要因だ。よって、この性質の細かい条件まで調べる必要があった。

 この性質へのある程度の理解が得られたところで、その成果を元に<能力付与のきのみ>を作り出していく。

 力は衰えたが、奇跡を扱う技術はむしろ磨きがかかったように思える。毎日やっているゆーちょたちへの食事の配給がいい練習になっていたようだ。

 RPGゲーム風に言えば、MPが減って、魔力が上がった感じだ。

 俺の場合、MP=HPなのでMPの減少は死活問題であるのだが。

 少数のメジェドにきのみの試作品を与え、体質を再検査。不都合な部分を洗い出し改良したきのみを更に作り出す。

 普通なら時間のかかる仕事だが、そこは奇跡。

 俺と精霊2柱の認識を改めるだけで改良品を生む条件は整うため、あまり作業時間はかからなかった。

 一週間後には、きのみの完成、全メジェドへの配布、垣根の運用エリアの決定など、垣根運用に必要な準備が全てが終わっていた。


 俺たちは垣根を運用することしか目が向いていなかった。だから、準備が整ったらすぐに垣根を展開した。しかし、その結果起こることをもっとよく考えるべきだったのだ。例えば、砂漠の真ん中に消えない濃霧、つまり潤沢な水源が現れたら周りの生き物たちはどんな行動をとるかなどはよく考えるべきだったのだ。


 気付いたときには遅かった。

 濃霧へ水を求めて砂漠の生き物たちが殺到していた。

 蟻、蛇、サソリのような小型の生物から集まり出し、それを狙ったアンデッドやアメミットまで。

 そして集まった生き物たちによる闘争が始まる。

 俺たちを守る垣根は外敵を呼び寄せる呼び水となってしまった。


 ただ、悪いことばかりじゃない。

 濃霧の水は奇跡の水。訪れた外敵たちの魔法の力はきれいに洗い落とされる。中には楽園に侵入した外敵もいたが、俺が『否定』されることはなかった。

 さらには魔法を失った生き物たちは自らが弱体化したことを悟る。

 そんな彼らは砂漠には戻らずに濃霧の中で暮らし始める者も多くいた。

 彼らは濃霧の中で暮らすうちに魔法に頼らない生きる術を身に付けていった。流石に奇跡の習得をする生物はいなかったが。

 俺はそんな生き物たちを垣根の獣たちと呼んでいる。

 そして彼らの食糧は同じ霧の中の生き物だ。特に霧に入りたてでまだ魔法を失ったと気づいていない者、魔法を使わない生存術を産み出せてない者から狩られていく。

 つまるところ、俺の天敵に生りうる垣根に入ったばかりの『否定』できる魔法生物から垣根の獣たちに狙われる。外敵を以て外敵を征すではないけれど、結果的には霧に住みついた獣たちが魔法の抜けきらない俺の天敵を排除してくれている。


 俺単体を守るという一点においてはこの垣根は成功だ。これは間違いない。

 ただし、外敵だけでなく楽園生物にとってもこの垣根の獣たちは脅威なのである。なので、マヤを除く全ての楽園生物はため池への移動を禁じられ、バンクたちは24時間体制で霧の垣根を見張っている。バンクたちよ、いつもめちゃくちゃに働かせてしまってホント申し訳ない。


 バンクたちの目が一斉に赤く染まる。

 霧から飛び出す影。敵襲?

 その姿は見慣れたもので、アシンメトリーな胸当てに巫女装束のような格好をした蝶の翅を羽ばたかせる妖精だった。両手で俺の葉で作ったカゴをぶら下げている。本人よりとても大きい。中にはサザナミチガヤの穂がいっぱいに入っている。

 バンクの瞳は徐々に黒に戻っていく。  


「タイジュさま、おはようございます!」

「おはよう、マヤ。ユメちゃんは元気だった?」

「タイジュさまと会えないことを嘆いてたでありますよ。ゆーちょ達、受け取りなさい。それー」


 マヤがカゴを放ると、ゆーちょの一団がキャッチし、他のゆーちょやバンクへと配り始めた。そんな様子を羨ましそうにマクラたちが見ているが貰えない。彼らの主食は芝である。


 最近、夢婦屯と会っていない。

 獲得したばかりの水を操る奇跡の技量はまだ未熟なものだ。

 垣根の獣たちが住み着いたせいで垣根の解除が出来なくなり、維持を強いられている。

 奇跡の扱いが上達すれば、垣根を維持したままいろいろ出来るだろうが彼女はまだその域に到達できていない。

 よって、ため池に住み込みで垣根を制御しつつ、奇跡の修行中だ。

 技量が上がるまではこちらに来ることが出来ない。

 後できのみか何かを差し入れよう。


「最初は完璧な意見だと思ったんだけどなー。垣根作戦。どうしてこうなったのか」

「いえいえ、うまくいってるでありますよ。確かに外敵との遭遇率は上がりましたが、垣根が魔法を洗い落としてくれるおかげでタイジュさまには傷一つついていないであります」

「その遭遇率が問題なんだよね。楽園生物たちに余計な仕事は増えてるし、死傷者だって少なからず出てる」


 アリとグールが同時に来たときはひどかった。

 あの時は見張りの方法も確立してなかったから、初動が遅れて大暴れされてしまった。


「意味もなく垣根に突っ込むマクラはともかく、バンクやゆーちょにまで被害が出てるのは何か対策しなきゃだよ。それにマヤだってため池からチガヤの穂をもらってくるの大変でしょ?」

「私の苦労は全然問題ではないのですが、確かに垣根のせいでマクラやゆーちょがため池に行けないのは改善が必要ですね」

「垣根の問題に加えて、ゆーちょたちの食糧問題も深刻。さっさと<解決の種>を使うべきじゃない?」


 さっきから俺と話しながらも楽園生物たちの食事シーンにくぎ付けなマヤ。

 俺の負担軽減のために最近食事量を減らしている。

 彼女からの提案だったためありがたく受け入れたが、ホントはお腹いっぱい食べたいに違いない。


「タイジュさま。それは時期尚早でありますよ! ただの食糧用の花草ならば練習中の<打開の種>を完成させればよいのです。ここは別のカードを切るべきであります。」

「別のカード?」

「はい。ここは精霊転生を行いましょう!」


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