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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の垣根づくり
30/63

28葉 楽園の垣根・下

「捕縛しているメジェドの処遇であります」


 えっ、外敵捕まえてたの? どこに?

 マヤの発言を受けてバンクたちが動き出す。

 バンクの巣を牢屋代わりにしてたんだね、って俺の根元(あしもと)じゃん。

 これが灯台下暗しってやつか。物理的な意味で。


「あいつらは全部処分したんじゃなかったの? どうしてまだ生かしてる?」


 声を荒げるユメちゃん。

 大気の振動を感じる。

 純白の毛色が灰色に変わり、ばちばちと火花が散る。

 まるで夕立時の積乱雲だ。

 これがパワーアップの結果か。なかなかすごいことになっている。


「それはタイジュさまが決めることだからですよ。『否定』されてほとんどの魔法を失っていますしこれ以上タイジュさまに害はありません。マヤたちの感情で勝手にどうこうしてはいけないであります。大人なユメちゃんならわかってくれるはずでありますよね?」


 ユメちゃんから火花が鳴りやむ。でも、まだ灰色のままだ。

 無言だけど、一応納得はしてるみたいだ。

 そして、難しいお話中すいません。

 結局外敵の姿すらわからないので詳しい解説をお願いしたいのですが…


 ふむふむ。

 外敵の名はメジェド。実体を持つ非実体型のアンデットで元の世界的に言えば肉体を持つ幽霊。ちょっと何を言っているかわからないのでもうちょっと詳しく解説を。

 なるほど。

 本来は物理干渉を受けない霊体。霊体は存在をすると周辺に塵などの粒子のを集めて輪郭を形成する。普通はぎりぎり目に見える程度しか集まらない。でも、今回の外敵・メジェドはその性質がとても強くて、その塵だけで体を作ってしまうということね。なんとなくわかった。

 そして、これがメジェド。

 幽霊の延長線と聞いてどんな恐ろしい姿かと身構えていたのだが……

 なにこれ? 幽霊というよりデフォルメしたお化け? ゆるキャラの出来損ない?

 シーツを被ったようなふざけた姿も気になるけど、そのひらひらから出た2本脚はなんなのさ?

 どう見ても人の足だよね? 中の人、いらっしゃいますよね。

 ……俺、こんなのに殺されかけたの?


「巻物によるとメジェドは他の生き物の魔素(マナ)をすって生きています。おそらく、タイジュさまの奇跡の力を魔力と誤認して群れ単位で移住してきたのでしょう」


 バンクによって結構な数のメジェドが連れてこられた。

 全員、無気力に虚空を見つめている。

 しかし、その動作はおっかなびっくりで恐怖を感じているのがわかる。

 心なしか、マヤを避けているように感じるが気のせいか?

 大暴れしたと聞いているユメちゃんよりもマヤやバンクを恐れてるように見えるのだけど。


「全員揃いましたね。タイジュさま、こちらが今回の外敵のメジェドであります。処分はお任せするでありますよ」


 メジェドたちはマヤの視線の先にいるはずの上位存在を必死に探している。

 そうだよね。まさか樹が意識を持って活動してるとは思わないよね。


 メジェドの気の抜けたフォルムに毒気を抜かれてしまった自分がいる。

 なんか憎む気になれないよね。ちょっとかわいらしさすら感じる。

 襲われた時の記憶が朧気だからか、ちょっと他人事のように思ってしまっている自分がいる。

 でも、お咎めなしはダメだよね。

 楽園に大打撃を与えた犯人一味だ。

 罰を与えないとユメちゃん辺りは納得しないよね。

 それにしても、おもしろい体質持ってるしなにかに活用できないかな。

 あ。これいいこと思いついたかも。


「ユメちゃん。水源さえあれば霧は維持できるんだよね。」

「ん? 維持できる。でも、今はメジェドの処罰を決める時。その話はまた後で」

「メジェドの処遇にも関係ある話だよ。こいつらの肉体は周囲の物質の寄せ集めなんでしょ? ため池の水で体を作らせたら霧を維持する程度の水源になるじゃないかと思って」

「おおお。それは素晴らしいアイディアでありますよ。タイジュさまーー」

「マヤちゃん、ちょっと黙って。タイジュちゃん、それは可能。でも、調整は必要。メジェドの体質も詳しくわかってないから調べないといけない」

「そうだね。これは思いつきだし、ちゃんと調べないとね。そして正しく性質を理解した上で‹能力付与のきのみ›で不都合な性質は書き換えてしまおう。ベースの能力は変更しなければ失敗する可能性も低いよね」

「結構な力技。でも、代案はないしそれでいい。そんな強引なタイジュちゃんもまたいい」


 メジェドの処遇は決まった。

 楽園の門番として、砂漠と楽園の境界でユメちゃんの霧を維持する仕事をしてもらうことになった。

 ただ襲撃の件もあるので、仲間としてはまだ認めず、境界付近でしか活動は許してない。でも、働き次第で楽園生物として迎えようと思う。その時は透明になれる力を返してあげよう。


 話し合いの翌日。

 さっそく、霧の維持を試してみることになった。

 もはや目視でも確認できる芝生と砂漠の境に等間隔にメジェドが配置されている。

 見た目は昨日と変わらないが、今の彼らの体の構成成分はほとんどため池の水に置き換わってるはずだ。

 巡回するバンクにびくびくと膝を震わせている。

 一体、巣穴で何があったのやら。


 ため池は目視で確認できる距離ではない。

 でも、ユメちゃんがしっかり準備しているはずだ。

 おっ、砂の地平線からユメちゃんが飛びあがる。

 豆粒のように小さく見える。


「じゃあ、行くわ。‹寝具生成(ベッドメイク)›」


 上空からユメちゃんがため池に飛び込む。

 盛大に上がる水しぶきは地上に落ちることなく浮かび上がり、羊雲を形成する。

 羊雲は鳥の翼のようにもハートマークのようにも思える。

 その雲の中央のくぼみ部分から細く長く触腕が伸びる。

 先端がユメちゃんの顔に形成される。触腕のようなものは白鳥の首だった。

 雲を纏い巨体化したユメちゃん。

 俺を包んでいた時もきっとこの奇跡を使ったんだろうな。

 こうして、巨大化したユメちゃんはすぐに俺の傍まで飛んできた。

 その巨体故にわかりにくいがすごいスピードだ。


「<密寝具の秘め事(ミッシングベール)>」


 楽園と砂漠の境界に沿って夢婦屯は旋回する。

 通り道に霧雨が舞い降りる。

 地上に落ちても消えずにもやになって漂っている。

 その霧雨が何層も何層も降り積もっていく。

 最初はただのもやだったものが積み重なり、濃霧へ変わる。



 周囲を見渡すと俺はユメちゃんの体のような白くもこもこした霧に囲まれていた。

 霧は決して砂漠にも楽園にも溶けださず、輪の形を保っている。


 気になってユメちゃんの視界を借りる。

 砂漠の真ん中に雲があって、その中に緑生い茂る原っぱが広がっている。

 真ん中には霧より高く、天まで届きそうな巨大な樹が立っている。


 言葉が出ない。

 まるで秘境へ辿り着いたような感激で心が震える。

 ただの霧のはずなのにシチュエーションでこんなに幻想的になるなんて。

 というか、自身の姿で感動するって俺はどんなナルシストじゃい。


 この霧って何かに似てるな。なんだっけ。

 喉元まで出てるのに思い出せない。いや、樹だから喉ないけどね。

 ドーナツと言うにはもこもこし過ぎてる。

 違う。もっと大事な、最近よく使ってるワード。

 ああ。思い出した。垣根だ。

 低めの木を植えて境界を作る生垣だ。

 もこもことした霧がまるで葉の白いお茶の木のような低木(ブッシュ)に見える。


 元々水源として作ったため池。

 それが襲撃のアクシデントとユメちゃんの起点で外敵を避ける垣根を作った。

 ‹打開の種›で目指した問題解決の理想形が、今目の前で起きてる。

 そうそう。やらなきゃいけないプレッシャーをエンジンに頑張るより好きなことをやった結果報われた方が全体に気持ちがいい。楽園とはそうでありたいね。


 むん。いいね。

 雨降って地固まるだね。

 俺が一人で最適解を考えてもこんなアイディアは出なかった。

 まだ実験段階とは言え、いい垣根が手に入った。 


 解決した問題は、垣根と水源。

 残りの問題は、戦闘要員と食糧。

 <解決の種>も2つあるけど、食糧問題の様にまだ気づいていない問題を考えて温存しなきゃ。

 奇跡力大幅低下で‹解決の種›は新たに作れない。


 今回は大ケガしたりもして前進したかはわからない。

 足りないものはまだまだ多い。まだまだ安心して眠れない。

 でも、着実に仲間は増えている。戦う力も蓄え始めている。

 霧の垣根により楽園の境界はより明確になった。


 俺たちの楽園はただの合言葉からちょっとずつ実現に向けて動き始めている。 

第2章完結。

ここで今後の投稿予定をお知らせ。

今月はちょっと忙しいので、今日から週1話にペースを落として、閑話やら設定やらを投稿していきます。

3章は9月から開始。サブタイトルは「大樹の花壇づくり」。

これからもご愛読よろしくお願いします。


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