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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の開園準備
3/63

3葉 奇跡の起こし方・上

 俺は奇跡の力についてマヤに尋ねた。答えを聞く前に既に妄想は広がっている。


 だって、奇跡の力ですよ!

 この世界のルールはわからないけど、たぶん魔法的な能力のことで、もしこれがよくある異世界転移の話ならチート級の力であるはずだ。ここで言うチートっていう意味はゲームの違法改造(ズル)ってことではなく、ズルいって思われるくらい羨ましいってことね。

 定番のアイテムボックスや鑑定、転移などの便利な力?

 それとも、圧倒的な物理や魔法のパワー?

 奇跡のイメージに添うなら、回復魔法や死者蘇生のような神官系の能力も捨てがたい。


「タイジュさまが思った事、全部できるでありますよ」

「ん。全部ってどういうこと?」

「タイジュさまが考えつくこと、マヤに教えてくれれば全部できるであります。なにせ奇跡ですから。」


 なん……だと!

 チート級どころか正真正銘のチート能力じゃないか! しかし、どうやって使えばいいんんだ?


「とりあえず、ステータス画面はどこから開くの?そこから奇跡コマンドでも起動すればよいのかな?」

「すてーたす、こまんど? タイジュさまが言っていることはほとんどわからないであります。先ほどお伝えした通り、タイジュさまの奇跡はマヤに起こしたい奇跡を教えてくれればいいのです。」


 思いっきり勘違い。

 ここは異世界でも、ゲーム世界に飛び込んだような世界法則はないようだ。これは恥ずかしい。うぅ。それにしても、教えるねぇ……じゃあ、とりあえ

「焦っちゃだめでありますよー。奇跡にはいくつか決まり事がありますので、ルールを守って正しく使うであります。」

「決まり事、ルール?」

「奇跡発現のお手伝いがマヤのお仕事でありますよ。実際に使いながら覚えるであります。それではっ、マヤお姉さんのやさしいイントロダクションの始まりでありますっ!拍手っ!」

「ぱちぱちぱち。俺、手ないから出来んけど」

「ところで、タイジュさまはマヤのことがちゃんと、見えているでありますか?」

「出だしから脱線かな? 緑色のまるっこいかんじに見えてるよ。」


 あれっ。これは瞼の裏だったっけ? じゃあ、見えてるけど見てないってこと。ん、ちょっと混乱してきた。


「タイジュさまは目を閉じているみたいでありますね。じゃあ瞼を開けば、目が見えるでありますよね。」

「あぁ、やっぱり瞼が閉じてたのね。それなら、開きさえすればもっとちゃんと見えるってこと?」

「その通りであります。この姫浜矢(ひめはまや)の可憐な姿をっ。」

「その瞼が動かないのだけど。」

「今も少し見えてるなら、目を凝らせばはっきり見えるんじゃないですか。」


 なるほど、俺は言われた通りにぴょこぴょこする球体に目を凝らしてみた。すると、だんだんとピントが合ってくる。(まぶた)の裏の景色が正しい姿に形を変える。

 青色は空に。

 黒色は砂漠に。

 緑は一面芝生の原っぱに。

 そして、俺は息を飲む。

 俺の目の前では1匹の妖精がいた。


 小さなヒトの体躯に、体長と同じくらいの翅が生えている。真ん中でくびれた1対の翅は素朴な白色をしている。上翅の縁と控えめにある斑点模様が、灰黒色でよく目立つ。一見するとファンタジー世界の典型的な妖精のイメージそのものだ。


「おっ、見えてきたみたいでありますねっ!」


 しかし、その装いはどちらかというと和風に近い。最初に思い付いたのは巫女装束だ。白に限りなく近い若芽色の上衣に銀朱色の緋袴。しかし、左右非対称の胸当てを着けていてる。これは弓道着ではないだろうか?


「あんまりじろじろ見られると恥ずかしいでありますよー」


 頬に両手を当て、栗皮色の髪をぱさぱさと乱しながら紅葉を散らす妖精。耳が隠れきれないくらいのショートカット。薬指と小指が出る特徴的な手袋を、右手のみ着けている。俺はそのときになって初めてその妖精がマヤであることに気付いた。

 えっと、マヤは妖精。ファンシーな妖精さん。

 ゆめにまでみたようせいさんっ!……っといけない。

 つい、長年憧れた存在が目の前にいてトリップしてしまっていた。長々と観察してしまった。……よし。心は落ち着いた。


「……ホントに見えたことに感動して、つい固まってたよ。視界も確保したことだし、あらためて奇跡の力の使い方を教えてよ」

「了解であります。……ところで、タイジュさまは辺りをぐるっと見渡すことって出来ますか」

「今、了解って言ったよね。話戻ってるよね。首や腰が回らないんだから動かせないよ」

「ふっふっふ。そもそもタイジュさまはタイジュさまなので、首も腰もないでありますよ。体をぐるぐる回すのではなく、目をずずいと体に這わせるのであります」

「そんなことできるの?」

「できるであります。ほら、マヤが応援しますからファイトでありますよー」


 和装の妖精がピシッピシッっと指さしてくる。応援ってより命令されてる気分なんだけど。とりあえず試してみる。

 よし、視界をもっと横に~横に~

 おっ、マヤがスライドしていく。

 どんどん行けるぞ。景色はほとんど変わらんけど。

 このままどこまで行けるだろうか。

 うおっ、なんだ。……マヤか。

 1周結構早かったな。でも、なんか感動した。一歩も動けない状況から一気に世界が広がった気がする。いや、今も動けないけど。


「さすがはタイジュさま。もう使いこなしているであります。これが奇跡の力なのでありますよっ。」

「ん、どうゆうこと?」

「タイジュさまはさっきまで目があまり見えていなかったであります。でもさっき、タイジュさまは自分が目が見えると教えてくれました。だから、タイジュさまは目が見えるようになったのですよー。」

「つまり、さっきまでのやりとりが奇跡の起こし方ってこと?」


 なんというか……地味だ。

 いや、最初からド派手な秘技は使わないだろうとは思ってたけど。なんだよ、<視界を体に這わせる奇跡>って。でも、俺は樹で実際には目はないんだから、奇跡の力で視界を確保したと思うと結構すごい。……でも地味。地味過ぎて、奇跡を使った実感湧いてないんだよね。そもそも人間時代は身体能力で持ってたわけだし。


「はいはーい。次にいくであります。タイジュさま、今度は体を動かしてみてください。」


 おっ、これはいいね。目が見えるようになって視界も動いたんだ。奇跡の力を使えば、体だって動くに違いない。気分は木の魔物、トレントだ。よーし、動け~動け~…


動 か な い。


「タイジュさま。」


はいはい。何ですか? 動くためのアドバイスかな?


「タイジュさまはタイジュさまなんだから、動けなくて当然でありますよー」


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