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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の垣根づくり
28/63

26葉 羊雲の大怪鳥

 マヤであります。

 ここはため池予定地であります。


 ため池はタイジュさまから少し離れたところに作っていました。

 なので、当然今回の件で消滅したと思っていました。

 しかし結果はこの通り。

 ため池はいつもの芝とは違う背の高い植物に囲まれて守られていました。

 動物の尾のような銀色の穂が実り、風になびいています。

 もう実っているとは恐ろしい成長スピードであります。


 これはユメの植えた解決の種が芽吹いた植物。

 水対策のために作られた奇跡の力を持つ植物であります。

 その穂に大量の奇跡力を感じます。

 ただこの力で出来ることがわかりません。

 まだ数はそこまで多くないので、無駄に試したりもしたくありません。

 ここは能力を考えたユメを連れてくるべきでしょう。

 

 『否定』直後のユメは大荒れでした。

 既に戦闘不能のメジェドを相手に大暴れ。

 現状が解決するわけでもないのに、八つ当たりであります。子供の癇癪であります。

 本当なら話しかけるのにもう少し時間を置きたいところですが、これもタイジュさまのため。

 この植物の詳しい性能を知るためにはユメをやる気にさせないといけないでしょう。

 しかし、普通に起こしても怒りが抜けきれずに冷静に話が聞ける状態ではないでしょう。

 ここは、マクラやゆーちょ達にも協力をしてもらいましょうか。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「ユメちゃん! いつまで一人でふて寝してるでありますか? さっさと起きるであります。子供みたいでありますよ」

「…マヤちゃん。私が子供扱いされるのキライなことは知ってるよね。殺されたいの?」


 突如、夢婦屯が翼を広げ、こちらに構えます。

 こちらとの体格差は20倍程。すごい迫力であります。

 目元は毛で隠れていますが、全身から怒りの感情があふれ出ています。

 よし。まずはこちらに注目してもらえました。

 あとは本当に殴られないギリギリの線で煽りつつ、矛先をずらしていくでありますよ。


「もうみんなタイジュさま復活に向けて動き出しているであります。働いてないのは夢婦屯、あなただけですよ。子供じゃないなら相応の働きを見せてほしいであります」

「さっきから子供って言わないで! 私は大人だもん。頑張るって言ったって楽園にももう何も残ってないじゃない。だいたい働いているみんなってどこにいるのよ? いないじゃない」

「答えを一から十まで聞くのが大人のやることなのですか? そんなことマクラだってできますよ。少しは状況から答えを考え出してみてはどうですか」


一瞬だけユメが黙ってから答えます。


「ここにいないってことは砂漠になにか探しに行かせたの? そんなに簡単に薬になりそうなもの見つからない。魔法に染まったものは薬になり得ない。労力の無駄じゃない。バンクちゃんがかわいそう。私はマヤと違って大人だから、こんな状況すでに想定してたもん。ため池の植物はただの水を生む植物じゃない。いろいろ考えて、追加の効能を与えてた。あの植物、サザナミチガヤさえ残っていれば治療も簡単にできていたんだから」


 お。自分からこっちの土俵に乗ってきましたね。

 昔からこの子は乗せやすくて親友としていつも助かってますよ。


「ユメちゃん。その植物が枯れたって確認したでありますか?」

「芝生がこんなに枯れちゃってる。サザナミチガヤが残っているわけない」

「ため池に行って確認しなくていいでありますか? バンクもゆーちょも既にそっちで作業をしてますよ」

「……! マヤちゃんのいじわる。そういう大事なことは早く言って」


 ユメがため池に飛んできました。

 やる気スイッチが入ったみたいでよかったであります。

 ただ煽るのに精一杯で、そのサザナミチガヤ? なるものの効能を聞くのをすっかり忘れていたであります。

 急いで後を追わねば。


 な、いつの間に水がっ?

 ため池予定地に戻るとなんと先ほどまでなかった水が張っています。

 池の半分ほどの高さまできています。

 池の縁ではバンクたちがあの植物の穂を刈り取り噛んだり踏んだりしています。

 穂先は高い位置にありバンクたちでは届きませんが、ゆーちょが手伝うことでスムーズに収穫作業も進んでいます。

 穂は小さな実の集まり。

 潰された小さな実一つ一つから、信じられない量の水が絞り出されております。

 そしてただの水ではなく奇跡力を多分に含んでいます。

 水の絞り方関しては既にバンク達が知っているようで助かりました。

 なぜ知ってたかは疑問ですが。

 バンク、ゆーちょ、大変な作業を受け持ってもらい感謝でありますよ。

 

 「もうちょっとあれば。もうちょっとでタイジュちゃんを助けられる」


 ユメが羽ばたきで風を煽り、バンクたちの作業をせかします。

 ユメちゃんは興奮気味で、風に飛ばされそうなバンクには気づいていません。


 「ユメちゃん、サザナミチガヤの解説をお願いしてもらっていいですか? この奇跡力は追加の効能とやらに関係してるでありますね」

 「マヤちゃんも大人なら少しは自分で考えたら?」

 「いやーこれはマヤの完敗でありますよー。ぜんぜんわからないでありますー。子供扱いしたのはごめんなさいであります。夢婦屯」

 「ふふん。分かればいい」


 マヤは友達としてちょっと心配であります。このちょろさ。

 ユメはすっかり機嫌を直し、奇跡の植物の解説を始めます。


「サザナミチガヤ。穂先が風になびいて波のようでしょ。その穂先に詰った水には、体力回復、奇跡力回復、自身に対する奇跡への奇跡力緩和などの効能を盛り込んだ」

「なるほど、回復効果の水でありますか。今のシチュエーションにぴったりでありますね」

「アメミット戦で治癒の必要性を感じた。そして、タイジュちゃんのきのみだけに頼っちゃいけないとも思った。だから、水にその機能を与えた」

「すべての水に回復の力を与えたら、外敵にも活用されませんか?」

「そのための奇跡力回復。魔法生物が奇跡力を回復させるとどうなると思う?」

「飲んだ水の奇跡力と干渉して魔法力を失うでありますね」

「マヤちゃんが教えてくれた魔法勢力との戦い方。ちゃんと覚えてる」

「それはよかったであります。効果のかみ合いに熟考の跡が感じられるであります。そして、奇跡力緩和の方はどういう想定でありますか。確かに応用の幅が広そうではありますが」

「ふふ。こういう想定」


 ユメがいつの間にか咥えていたきのみをぱきりとかみ砕く。

 あのきのみはカーバンクルに与えていた<能力付与のきのみ>。

 カーバンクが蟻の力を身に着けたときのきのみでありますね。

 どうして、ユメが持っているでありますか?

 味見したかったでありますよ。


 ユメがため池に飛び込み、飛沫が上がる。

 大波の様に吹き上がった飛沫は地上に落ちずそのまま中で霧に変わる。

 いつの間にか飛んでいたユメの羊毛翼にその霧が吸い込まれていきます。


 その光景を眺めていると女王バンクがやってきました。

 女王は耳でマヤを触ると思念を飛ばしてきました。

 どうやらユメはチガヤの穂の味をバンク好みに調整する対価としてあのきのみを譲ってもらったみたいであります。能力の形成はバンクを観測者に立てることで自分好みに調整しています。いつの間にそんな取引が行われていたでありますか。そして気づけば、ため池を囲んでびっしりとバンクとマクラがいます。

 バンクは奇跡の観測のために巣穴から全員出てきてるようです。

 マクラも流石に主人の晴れ舞台にはおふざけなしであります。観測に徹しているであります。


「‹寝具形成(ベッドメイク)›」

 

 上空に飛びあがり、ユメが叫ぶ。

 翼に濃縮した霧は、一気に噴き出し形を作る。

 それは巨大な鳥のように見える羊雲。

 つまり、姿はユメちゃんそのものです。しかし、大きさがまるで違います。

 本物でも十分大きいですが、これはさらにその5~6倍はあるんじゃないでしょうか?

 大きすぎて遠近感を掴みかねています。

 ユメちゃんは霧を纏い、まるで自身の体の様に操っています。

 羊雲の大怪鳥、ここに爆誕であります。


「前にマヤちゃんに聞かれたことを答える」


 はて? 何の話ですか?


「必殺技は叫んだ方がかっこいい。‹愛寝具の抱擁(アイシング・ヒール)›」


 ユメはタイジュさまに向かって突進します。

 ぶつかる直前で体勢を持ち上げ、その雲の翼でやさしく包み込みます。

 葉のついた枝を残して雲に包まれたタイジュさま。

 癒しのミストに包まれてのお昼寝はほどよく涼しくてとても気持ちいいものでしょう。

 これならタイジュさまも遠からず復活できるはずであります。

 必殺技に関しては確かにちょっとかっこいいかも知れませんが……

 やっぱりデメリットが気になります。叫んだことで狙いがずれても嫌ですし。

 私はこれからも叫ばないでありますよ。必殺技。


 ユメちゃんの下準備のおかげでタイジュさま復活はもう時間の問題ですね。

 しかし、ここでマヤがさぼるわけにはいきません。

 さて、女王バンクとともにあの件を片付けるとしましょうか。



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