22葉 見えない外敵
うむむ。不快感が抜けない。
解決の種を生んでから数日たったが、未だに体中だるい。
あの種、すごい量の奇跡力を奪ったものだ。
これは量産は無理だな。
打開の種ならもう少し奇跡力を落とせそうだけど。
失敗すると必要な奇跡力が上がるため、全快してから練習を始めた方がいいだろう。
焦りは禁物だ。
3つの解決の種のうち、早速1つ植えたと聞いている。
新たな植物が生まれたら少しは俺のきのみ頼りの状況も改善するだろう。果報は寝て待てってね。いい加減、〈お昼寝する奇跡〉の開発もこっそりと進めるべきだろうか。こっそりとじゃ誰も観測しないから奇跡が起きないだろうって? そこはいい考えを思いついた。時間はかかるけど。
マヤがまるで矢のように飛んでくる。
あの慌てぶりは果報ではなく凶報だろうな。あるはずない胃が痛む。
「タイジュさま、報告があります。敵襲かもしれないであります」
ここで最悪な問題発生。
まだ迎撃態勢が整ってないのに。
というか、かもしれないってどういうこと?
「以前に相談した正体の掴めない魔法の痕跡が増加してます。もしかしたら、隠れることが得意な外敵が楽園への侵入を計画しているかもしれないであります」
パワータイプのアメミットの次はトリッキーな外敵か。
こんな遮蔽物の少ない砂漠と芝生しかないこの一帯で全く尻尾を出さない。
最近はマヤに加えてゆーちょ達もパトロールをしている。
とても高度な魔法を使っているのは間違いない。
バンクたちにも警戒を呼び掛けた方がよさそうだな。
何かいい対策はないだろうか。
そうだ。いつもの手は使えないか?
「発見の奇跡を与えるきのみなんてどうかな。これをマヤとゆーちょ達で食べたら見つけられない?」
「それ自体は素晴らしいアイディアですが、今回に限っては効かないと思うであります」
「どうして?」
「なんで見つからないか、理由がわからないからであります。理由がわからないから見つけられる力への説得力が十分に出ないと思います」
うーん。そうか。
説得力うんぬんはマヤの匙加減だと思うけどね。
問題はマヤが奇跡の効果を信じていないこと。
確かにこの状態では奇跡は失敗する。
新たな奇跡の成立にはマヤが欠かせないのだ。
というか、解決の種を生んだ反動が抜けきっていない。
こんな体調で新しい奇跡なんて無理だったわ。
こうなると俺は、ただの案山子だ。
習得済みの奇跡では隠れたものを見つける力はない。力になれない。
「マヤちゃん。見つけられないなら出てきてもらえばいい」
ふわりとユメちゃんが舞い降りる。羊毛と芝が宙に舞う。
飛んでくるのは珍しい。
ユメちゃんはいい案をお持ちで?
「マクラちゃんの<注目の奇跡>。楽園の外で使って天敵をおびき出す。ハニートラップ作戦」
「ハニートラップ違うよね。それ食欲で釣ってるよね。あと、意図的にマクラを犠牲にするやり方はあまり感心しないよ」
「マクラちゃんは私とタイジュちゃんの愛の結晶。同時に騎士。あの子たちはどんな時も愛のために生きるの。信条のためには命を懸けるのも厭わない。それを見届けるのが親の務め」
「マクラのあれはただの無鉄砲だよ。それっぽいこと言葉を並べて誤魔化すつもりでしょ」
「じゃあ、タイジュちゃんはマクラの命のために何かしてる? 最近、マクラちゃんがムチャしてもタイジュちゃんは悲しまなくなった」
「う。確かに慣れてしまってる自分がいる」
「私はしてる」
「それは初耳。何をしてるの?」
「いっぱい産んでる。毎日産んでる」
ユメちゃんよ。
種族じゃなくて一人一人を愛してあげて。
いや、俺ももっとマクラたちと真摯に向き合うべきだな。
今のままじゃ、ユメちゃんに文句なんていえない。
その第一歩としてマクラのおとり作戦に代わる代案を出さなければ。
考えろ、俺。来い、アイディア。
・・・頭脳労働に気合は逆効果だな。
「タイジュさま。安心してください。マクラが襲われる前にマヤが仕留めてみせるであります」
「悔しいけど代案が出せないや。せめて作戦に参加するマクラには回復のきのみを渡すからね。囮は救出前提でちゃんと安全策もちゃんととるんだよ」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
現在、マヤとユメちゃんが作戦準備中だ。
手すきの俺は作業中のバンクの一匹の視界を借りて、ため池予定地を見に行った。
掘り作業は既に完了している。
バンク達は池になる予定の巨大な穴の淵の一か所に集中して作業している。
近場のバンクの視界を借りて覗いてみると、見かけない草のお世話をしていた。
周りに生えている芝より既に背の高いその植物はまっすぐに上に伸びている。
形状は芝に似ているが、葉先が赤い。
まさか解決の種から生まれた植物?
すでにここまで育っていたのは驚きだ。
周囲でバンク達がきのみを砕いて草の周りに撒いている。
きっと能力付与したきのみだ。
これで育成にブーストをかけたのか。
俺は産んだ覚えはない。なんで持ってるの?
いままで生んだきのみをバンクたちの巣穴でため込んでいたのか。
全部消費しちゃってると思っていたが、本物の蟻のように貯蔵分があったみたいだ。
バンクの一匹が植物の根元を掘り返している。
それ、大事な植物なんだけど。
暴走? マクラが乗り移った?
地面に顔を突っ込んだバンクが顔を上げると、口に何か咥えられていた。
根だ。根っこをちぎった?
根っこを咥えたバンクが近くで他のバンクが掘っている穴に近づく。
そして、その穴に根の欠片を入れる。
他のバンクがきてきのみの欠片も入れる。
穴を掘っていたバンクは今度はその穴を埋める作業を始めた。
ここから新たに植えられた根の欠片も再生していくのだろう。
すでに育成計画が実行中だった。
気づけば、ため池予定地の回り全域にこの植物がばら撒かれていた。
仕事の早い女王バンクには頭が上がらない。
ここに芽吹いたのはおそらくバンクたちに渡した種ではなく、ユメちゃんに渡した種。
つまり、水対策の植物だ。
今のところは水辺の植物と言うより背の高い芝くらいな印象しか持てないが育ったらまた印象が変わるのだろう。この植物にはユメちゃんの想いが強く反映されている。
有能だが、くせの強い植物が生まれそうだな。
いままでの傾向的に。だってユメちゃんだもの。
夕方になり、マヤから声がかかる。
前回は対応が間に合わなかったため、今回は今晩から厳戒態勢で行くらしい。
幸い、ゆーちょ達がいっぱい羽化したおかげで見張り数は多い。
問題はその相手が見つけられないことだが、こればかりはしょうがない。
逃げることはできない。来るものは来る。
もう日が沈むから俺は起きてられないけど、みんな頑張ってね。
よし、寝る前にいっちょきのみの在庫を増やしますか!
2章はお盆くらいに完結できそうです。