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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の垣根づくり
18/63

16葉 弽蝶々

 予想以上にでかい。

 それが最初の感想だった。

 ユメちゃんの視界を借りて、ため池予定地を見学中だ。

 もはや湖と言えるほど大きな池の輪郭は既に掘られている。

 長蛇の列を作るバンクたちがせっせと作業している。

 耳と前足を器用に使い穴を掘るバンク。

 掘られた土を俺の葉やユメちゃんの抜け毛に絡めて輪郭の外に運ぶバンク。

 その土を一ヵ所にまとめるバンク。

 まとまった土に頭を突っ込むマクラ。


 うむ、しっかりと分担が出来ているね。これは作業も捗りそうだ。

 ……でもマクラたちは遊んでるだけだよね?

 カーバンクルの巣穴からは昼夜絶えず出入りがあり、24時間体制で工事が進んでいる。ユメちゃんリスペクトの子だくさん政策により、カーバンクルの数は、今や矢虫と綿幕楽の合計を軽く上回っている。

 俺視点だと蟻の観察をしている気分だ。しかし、カーバンクルはうさ耳のキツネ。俺がマヤくらいのサイズだったらもふもふ天国に感じるんだろうな。


「タイジュちゃん、浮気? 私というもふもふがありながら、よそ見はダメ」


 ユメちゃんが頭を揺らしてくる。視界がぶれる。

 マヤみたいに心を読まないでほしい。

 あと、ため池で働くみんなを見に来てるから。よそ見じゃないね。

 そもそも、ユメちゃんの目を借りてる以上、ユメちゃんは見れないよ。

 ……だからといって頭を胸に埋もれさせないで。

 視界が白一色で何もわからんから。

 ユメちゃんが誘ってくれたから気晴らしに来たのに、これはあんまりじゃない?


「浮気、ダメ。それとこれとは話が別」


 なにがどうしたら浮気なのやら。

 ん。幹がバシバシと叩かれている。

 位置的に女王バンクではないよな。誰だろう。


「ごめん。急用できたから、俺戻るね」

「タイジュちゃん、行かないで。もうイジワルし


 俺は自身に意識を戻す。

 ユメちゃんがなにか言っていたような気がしたが、ひとまず置いておこう。

 叩いていたのはマヤだった。普通に考えればこの楽園で俺の幹を叩けるのは空が飛べる彼女とユメちゃんの2択で気づきそうなものなのだ。

 しかし、マヤはこのようなコミュニケーションをとることは今までなかった。

 もしかして緊急事態? 外敵か?


「タイジュさま、緊急事態でありますっ。筒蛹の羽化が始まったでありますよ!」


 おおお! ついにきたか。

 筒蛹とは、マヤの眷属・矢虫の第3形態の矢筒のような形の蛹である。

 矢虫→弓虫→筒蛹を経て、今、最終形態である妖精の姿へと羽化しようとしているということだ。これは一大事だ。


「マヤ、本人はどこ? お祝いにきのみでも出そうか? マヤと同じで甘酸っぱい味でいいかな。それともお花がいいかな。未熟なきのみの味の調整も最近はうまくいくようになってきたからね。それとも……」

「タイジュさま、落ち着いてください。羽化は半日から1日かけてゆっくり行いますから。焦らなくても大丈夫ですから」


 おっと、気持ちが前のめりになっていたらしい。

 今はちょうどお昼。気長に待てばいいな。


「ごめんね。でも、生まれたばっかりのタイミングでなにか必要なものがあるんじゃないかな。マヤは心当たりない?」

「タイジュさまは優しいでありますね。必要なのは葉っぱでありますよ」

「えっ。妖精になっても葉っぱ食べるの? 俺はこれからも育毛の奇跡のお世話になるの?」

「食べるのではありません。服を作るのでありますよ。」

「服を作るのね。特別な奇跡の葉でも作ろうか?」

「普通の葉っぱで大丈夫でありますよ。これからどんどん羽化していきますからね。奇跡の力は課題優先で使っていきましょう」


 確かにね。

 ただでさえ新しい奇跡の開発に行き詰っているのに余計な仕事増やすのも違うよね。

 でも、育毛の奇跡もとい<再生の奇跡>の使用頻度が上がりそうな予感はする。

 もうすぐしたら楽園(ここ)で妖精たちが舞い踊る姿が見れるのか。胸に熱いものが込み上がる。


「そうだね。妖精のためなら、葉っぱは好きに使っちゃっていいからね。それでどこで羽化してるの?」

「それは助かります。場所ですが、本人の希望より伏せさせてほしいであります。タイジュさまに見られると緊張しちゃうとのことであります」

「そっか。それで羽化できなくなったら元もこうもないしね。しょうがない。羽化の時間までしっかり待たせてもらうよ」

「タイジュさま。今、お昼で羽化の完了が半日から1日かかるので、多分タイジュさまがおやすみの間に羽化しちゃうと思いでありますよ」


え。


「さらに言うと羽化した子が増えるとタイジュさまの負担も増えるので、早めに水を生む植物のイメージを固めてほしいであります」

「う、そうなのね。じゃあ、なんで俺呼んだの?」

「楽しみにされているの知っていますし一番にお伝えしたかったでありますよ。あと、葉っぱの使用許可でありますね」

「……うん。知らせてくれてありがとね」

「マヤは羽化のお手伝いとパトロールがありますので、これで失礼するでありますよ。お互い、ファイトでありますっ」


 生殺しとはこのことだ。

 そして、マヤのやさしさよりプレッシャーの方を強く感じるのは気のせいだろうか。

 マヤはイメージを固めろというが、俺のイメージを理解してくれないのはマヤ本人である。

 それにマヤのイメージに合わせることもダメと言われてしまったし。頭が痛い問題だ。

 それに水源の問題だけではない。これが終わったら垣根問題の解決に本腰を入れる必要がある。むしろ、この問題が一番早く解決したい問題なのだ。今からこっちの対策案も考えておく必要がある。


 妖精さんは大丈夫かな?

 集中力が持たない。

 こんな精神状況で考えてもいいアイディアは浮かばない。気づけばもう寝る時間だ。

 涙目のユメちゃんが飛んできた。なぜ、涙目? あ。マヤの呼び出しのせいで別れた後ほったらかしにしてた。怒って帰ったと勘違いしてたみたいだ。戻らなくてごめんね。

 夢婦屯がいつもよりきつめに巻きついてくる。息も浅くなってきた。また明日考えよう。マヤさん、羽化のお手伝いがんばって。ユメちゃん、今日ももふもふありがとね。おやすみなさい。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 新しい朝がきた。

 ちょっとだけ、いつもより早起きだ。

 今日は問題がなければ筒蛹が羽化し、妖精が誕生しているはずである。マヤはどこかな?

 葉をこする感触。マヤが急いで俺の枝の間を飛ぶときに感じる感触だ。それが二つ。きた。これは問題なく生まれているね。


「おっはようございます。タイジュさま。」

「おはよう。マヤ。後ろに隠れているのはもしかして」

「ふっふっふ。もしかするであります。昨晩羽化した妖精・弽蝶々(ゆがけちょうちょ)3匹であります。みんな、タイジュさまにあいさつするであります」


 鮮やかな緑色の衣に包まれた3匹がマヤの背後から飛び出てきて、踊るようにお辞儀をする。

 マヤと同じでモンシロチョウのような翅だ。

 服装は肩を出した開放的なミニワンピース。一般的な妖精のイメージ通りの装いだ。

 しかし、全員ちょっとずつ衣装がちがう。それぞれのこだわりを感じる。

 小柄ながらも女性特有の胸元や足腰の曲線美が眩しい。

 マヤの衣装は袴と胸当てで体のラインを隠している慎ましやかで神秘的な印象だった。

 そのため、対比によって華やかさがより痛烈に印象づく。

 両者に共通するアイテムは手袋。親指から中指までの3本の指のみが覆われているのも同じだ。

 手袋というより、弓術のための防具なのだろう。

 とても大きな瞳でこちらを見つめてくる。いや、大きすぎる。というより複眼?

 口元には螺旋を描くストローがついている。おや?


 ・・・ってこれ。翅だけじゃなくて顔もモンシロチョウだ。

 これは妖精なのか? モスマンなどの虫系の怪人ではなかろうか? よくよく考えたら、芋虫から育ったんだからそりゃ蝶になるよね。正直に申し上げるとイメージと違う。いや、ほぼイメージ通りなのに一番大事なところが違うせいで別物に見える。

 まぁ、でもちょっとこんな感じになるのではとは思ってた。だって、あのマヤの眷属だもの。俺のイメージ通りに物事が進むなんてあり得るはずなかったのだ。

 弽蝶々(ゆがけちょうちょ)たちはお辞儀の後にそれぞれに可愛らしいポースを取ったまま、こちらを窺っている。


……っといけない。

 つい、長年憧れた存在の突っ込みどころ満載の登場のせいで長々と観察してしまった。……よし。心は落ち着いた。


「……ホントに生まれたんだって感動して、つい固まってたよ。これからよろしくね。弽蝶々たち」

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