15葉 3つの課題
マヤが会議を進行させる。
「では、意見出しはここまでにして対策を考えますか。垣根、戦闘要員、水源それぞれ対応を考えていきましょう」
まずは垣根だ。
しかし、早速意見が出てこなくなる。問題は楽園の性質だ。
「仲間が増える度、楽園は広がる。普通に植物を植えて垣根を作るような方法は取れないね。すぐに新しいものが必要になる。」
「でも、アメミットのパワーを考えると、簡単に移動できるのようなものはダメ。こわされちゃう」
「これはいきなり難問でありますね。先に答えがでそうな対策に移りましょう」
次は戦闘要員について。
これにはすぐにマヤが意見を出す。
「ばっちりの対策があります。精霊転生をまたやりましょう」
「女神様の世界にまだ仲間が残ってるの?」
「はい。あと2柱いるでありますよ」
「じゃあ、すぐに呼ぼう」
「タイジュちゃん、それはダメ。新しい精霊を呼んだら、逆に守れなくなる」
「精霊の与える力は大きいでありますから、楽園がまたググっと広がります。なので、一人当たりが守る面積が広くなり、戦力が上がっても防衛力が下がるということであります」
「そういうことね。じゃあ、垣根の問題が解決してからかな。まずは楽園防衛力を充実させなちゃね。」
「うん。足止めできれば戦力が生かせる」
「タイジュさまの言う通りであります」
「答えは見つかってるのに実行できないのはもどかしいね」
最後に水源の確保。
ユメちゃんが積極的に意見を出す。いつもと気合が違う。
「まず、私、マクラちゃん、バンクちゃんでため池のための穴を掘るわ」
「肝心の水はどこから持ってくるでありますか?」
「タイジュちゃんの奇跡で植物は生み出せない? 水を出す植物を植えれば、タイジュちゃんがきのみを生み続ける必要がなくなる」
「いい考えだね。ただ、いままでやったことのない上に、能力付与のような高度な奇跡だから練習期間が必要かな」
「タイジュさま、あれだけきのみを生んでいるのですから、初めての奇跡ではなく応用なのではありませんか?」
「……ん? あ、ああね。確かに。ちょっと抜けてたよ」
「そんなタイジュさまも魅力的でありますよ」
その後、改めて垣根の対策について案出しをした俺たちだったが、いい意見はなかなか出なかった。
「とりあえず、タイジュさまの奇跡になんとかしてもらうということで。ため池作り中に何かいいアイデアが浮かぶかもしれないでありますし。」
マヤさん。俺に丸投げですか。
きっと空腹だ。だんだん進行が雑になってる。
確かに、けっこう長時間話し合いを続けてるからね。
女王バンクも退屈そうに欠伸をしている。
そろそろお開きかな。
その場しのぎの対策として、マヤを中心に園内と周辺砂漠のパトロールを行うことは決定した。
全ての解決の方法は出揃わなかったけど、まあ、課題が3つと分かっただけでも成果かな。
ちょっと休憩を挟んで、水を産み出す植物の開発をチャレンジだ。
もちろん、マヤも一緒。休憩中にきのみをたくさん渡したから集中力も復活して……ないね。
お腹いっぱいで眠くなってるね。
この後パトロールもあるからね?
むん。休憩はもうちょっと延長で。
時間もできたし、ここで俺がいままでマスターした奇跡を確認しておきますか。細かく挙げるときりがないからベースになっている奇跡を見ていこう。
<感覚の奇跡>。
視覚や聴覚を感じたり、会話したりする奇跡だ。ユメちゃんの視界を借りたりと、最近は自分の体から離れた所でも使えるようになってきた。はじめて使ったときは地味だなんて思ったけどとんでもない。使い方次第でまだまだ便利な応用技が開発できそうだ。
<きのみ生みの奇跡>。
文字通り、きのみをうみ落とす奇跡だ。きのみに能力を与えることで汎用性が高く重宝している。これからも頼りにするつもりだ。
<再生の奇跡>。
失った体をもとに戻す奇跡だ。矢虫に食べられた葉っぱやマヤの弓矢になった枝はこの奇跡で回復している。
<変形の奇跡>。
体の形を変える奇跡だ。マヤの弓矢作りにしか使ってないため精度が低い。その上、奇跡力をかなり使う。多分だけど、この奇跡の発現内容が<動く奇跡>に近い性質だからだろう。
さて、植物開発の前に問題がある。
これから新しく覚える<植物を生む奇跡>だが、マヤは<きのみ生みの奇跡>の応用だと考えているが、俺はベースが異なる新しい奇跡だと思っている。なにせ、やりたいことが全く違うのだ。
一方は食べた相手に何らかの効果付与。もう一方は特殊能力を持つ植物の召喚。発現させる奇跡の方向性がまるで違う。なんで同じだと思ったんだ? 会議のとき、誤魔化さずにちゃんと聞いていればよかった。
しかしこれはまずい。
ベースの奇跡の時点で認識が違っていると失敗する可能性が高い。一度失敗した奇跡は次から必要な奇跡力が跳ね上がる。誤解を解かずに開発を始めると、最悪植物を産み出す奇跡が失敗して2度と出来なくなってしまう。ともかくマヤと話さなければ始まらないな。
お、いいところでマヤが復活してきた。
「<植物を生む奇跡>の前に、マヤが考える方法を詳しく教えてくれないかな? 発現内容がマヤの思っていることだからそれを俺が知っている方がいいよね。」
「いいえ。タイジュさまが思っていることを教えてくださいであります。余り相手に合わせる方法ばかり採っていると、いざという時に思い付いた奇跡を起こせなくなってしまいます。」
「今は結構危険な状態だよね。安全確保した上でそういう練習はした方がいいんじゃない?」
「ダメですよ。タイジュさまは私たちを守るって約束してくれたばっかりであります。今の優しいタイジュさまも好きですが、はやく頼れるカッコいいタイジュさまになってもらわないと」
あのときの宣誓を考えると確かに今の俺の発言は情けないな。よし、頑張ろう。
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時間になり、マヤはパトロールに出掛けていった。
俺は頭を抱えたい気分だった。マヤがきのみ生みの延長と言った理由がわかった。
俺は直接植物を魔方陣なんかで召喚するイメージだったのだが、マヤは種から育てるイメージを持っていた。そして、俺は自分のイメージを伝えるためにいろんな言葉で説明したがマヤは納得してくれなかった。
なんでだよ。
ユメちゃん召喚するときは魔方陣描いてたじゃん。マヤ曰く、花草は種子から芽吹くものでありますよっ。とのことだ。
これって結局、俺がマヤに合わせる形にならないかな?
水を生み出す植物を産み出すどころか、普通の植物すら産み出せていない。
ユメちゃんたちが穴を堀終えるまでにどうにかしないと。
ああ、胃がキリキリするよー。胃なんか持ってないけど。
あぁ、もう夕方か。
ユメちゃんが戻ってきて、いつも通り巻き付く。土いじりをしてたはずなのに、体毛はきれいで、もふもふだ。会議のとき言ってたシャワーの効果だろうか。だが、体は全く濡れていない。
「ただいま。そろそろ私の体が恋しいはず」
「ユメちゃんおかえり。そっちは順調?」
「バンクちゃんが働き者だから予定より早く終わりそう。そっちは……あまり大丈夫じゃない?」
「大丈夫じゃないね。ごめんね。早くため池できるように頑張るから」
「タイジュちゃん、焦っちゃダメ。アイディア勝負なんだから心に余裕がなくちゃ」
「でも、どの課題も俺の奇跡次第なんだし、どうしても焦る気持ちは出てきちゃうかな」
「明日はため池づくりを見に来たら? いいアイディアがあるかも」
「んー。一人で考えるよりはそれがいいね」
「今日の疲れは、私と寝たら明日にはすっきり。おやすみなさい」
日が沈む。
光合成が止まり、呼吸が浅くなる。思考が回らなくなってくる。
3つの課題が全て解決する奇跡のような方法がどこかに落ちてないものか、なんて思いながら俺は眠りについた。